前方型認知症の患者さんが何人か入院しているが、その内1名は僕の担当患者である。彼女には、いわゆる﹁立ち去り行動﹂が見られる。 例えば診察時にちょっと油断すると席を立って出て行ってしまう。それは診察室に限らず、デイルームでも同じことが起こる。つまり2人で話しているとき、ちょっとした隙に立ち上がって、どこかに行ってしまうのである。 その隙とは、僕が処方箋を書いている時、あるいは看護師から僕に何か話しかけられている時に限られ、真に彼女と一緒に話している途中にはほとんど生じない。つまり彼女の注意が中断している時に起こる。 この﹁立ち去り行動﹂は前方型認知症の重要な症状の1つである。 これは前後の文脈を辿れば、﹁常同行動﹂を阻止されたことに対する反動という見方もできる。つまり彼女の病棟内の周徊中に診察室に呼んだため、話が途切れた時に、守備位置︵定位置?︶に戻るといった感じである。あるいは、単に1つの