とくに理由はないけれども森見登美彦氏は一人でぶらりと店に入った。 そして本を読みながら鮹のペペロンチーノを食べ、麦酒を飲んだ。 登美彦氏は酒に弱いので、一人で外で麦酒を飲んだりするのは初めてのことである。 麦酒の泡がクリームのように柔らかく、そしてペペロンチーノに混じった鮹もまた不思議な歯ごたえの柔らかさであったので、登美彦氏はひどく上機嫌になった。 ﹁麦酒一杯で夢心地。酒に弱い人間にも五分の魂﹂と登美彦氏は言った。 そうして金曜の賑わう夜の街を一人酔っぱらって抜けていった。 筆者の入手した情報によれば、森見登美彦氏は四月五日の本屋大賞授賞式へこっそり忍び込む予定であるという。 ﹁万城目学氏を見つけだし、﹃ちょっと手加減して﹄殴るためである﹂と登美彦氏は述べている。