東京の某所のカフェで、仕事をしていた。たくさんやらなくてはならないことがあって、ちょっとあせっていた。 ふと顔を上げると、ヨーロッパから来たらしい青年が、前のテーブルに座っていた。バックパックを背負い、真剣な顔をして本を読んでいる。その本が、Roger PenroseのEmperor's New Mindだったので、思わずはっとした。 ちょっと背伸びをするふりをして、テーブルを立って、滅多にそんなことはしないのだけれども、声をかけてみた。 ﹁こんにちは、失礼ですが。ペンローズを読んでいるんですね?﹂ ﹁ああ、はい。﹂ ﹁学生さんですか?﹂ ﹁いや、そうではありません?﹂ ﹁旅行中?﹂ ﹁はい。去年、大学を卒業ました。﹂ ﹁どこの大学を出たのですか?﹂ ﹁ケンブリッジ大学です。﹂ ﹁ああ、ぼくもケンブリッジに留学していました! 何を専攻していたんですか?﹂ ﹁物理学です。﹂ ﹁じゃあ、ぼくと