大恵 和実 はじめに 劉慈欣﹃三体﹄の勢いがとまらない。早川書房が刊行した﹃三体﹄シリーズの単行本が累計87万部に達しただけでなく、ドラマもテンセントビデオとNetflixの2バージョン作成されて評判もいい。さらにこの2月に刊行された﹃三体﹄の文庫版も瞬く間に重版し、10万部を超えたそうだ。﹃三体﹄シリーズは、SFファンや書評家・作家などに人気を博した︵1︶だけでなく、その枠を超えて多くの読者を確保したのである。中国SFのみならず、近年の中国文学の中でも異例の状況といえよう︵2︶。 ﹃三体﹄を含む21世紀日本における中国SFの翻訳状況については、WEB東方に連載した﹁中国文学の最前線――躍進する中国SF①﹂の﹁第一回 21世紀日本における中国SFの翻訳状況﹂でまとめたことがある。そこでは、2000年代から中国SFの翻訳が徐々にはじまり、2015年の﹃三体﹄のヒューゴー賞︵英語圏を中心とする