翻訳小説を読んでいると、女性なら﹁そんなこと言ってないわ﹂とか、男性なら﹁俺は平気さ﹂といった言い方が登場することが少なくない。実際にそんな言葉を使う人はいまや少ないのではと思うが、翻訳者はどのように考え、訳しているのだろう。﹁ダ・ヴィンチ・コード﹂などの翻訳で知られる文芸翻訳者の越前敏弥さんに聞くと、話は翻訳論にまで及んだ。 ――女言葉や男言葉を、実際、翻訳する際にどの程度使っていますか。 ﹁全く使わないわけではなく、最小限にしようと努めています﹂ ――最小限とは。 ﹁ある種の必要悪、ですかね。この言葉がいいのかわかりませんが。一般に、文字の媒体は映像の媒体と違って、顔は見えないし声は聞こえません。僕が翻訳するフィクションの世界の場合、メリハリをつけざるを得ないということがあります﹂ 後半で、越前さんは﹃ダ・ヴィンチ・コード﹄の翻訳で﹁わ﹂を使ったことを挙げつつ、女言葉・男言葉と向き合っ