すでに過去の話題になっているのかもしれないが,藤原正彦の﹁国家の品格﹂ (新潮新書) が売れているという.新書で100万部を突破したというから相当なものだ.それで,昔藤原正彦のエッセイを繰り返し読んだことを懐かしく思い出した. 藤原正彦は,御茶ノ水女子大学の教授で,専攻は数学である.また,新田次郎の息子であり,そのせいというわけでもないだろうが,エッセイが巧みである.その中で最も有名なのは,エッセイストクラブ章を受賞した処女作﹁若き数学者のアメリカ﹂であろうが,今回は﹁数学者の言葉では﹂︵新潮文庫︶について書いてみたい. ﹁数学者の言葉では﹂には,数学や文学に関するエッセイ,新婚時代の夫人の話,父新田次郎の話など,さまざまなエッセイが収められている.読んでいくうちに滲み出てくるようなユーモア,数学や学問・文化に対する独特の視点,いずれも含蓄があり,著者独特のものである.この本に収められたど