東京都が1990年代、都民330人の東京大空襲などの戦争体験を収録しながら、その証言ビデオの大部分を非公開としてきた。うち116人分は新たに公開・活用される見通しだが、残る多くは証言者の意向を確認できず、お蔵入りの懸念もある。なぜそんな事態に―。取材で浮かんだのは﹁戦争の実態を後世に伝える﹂という本質を置き去りにしたイデオロギー対立や、事なかれ主義に徹した当局の姿だった。戦後78年の夏が終わる今、改めて背景を考える。︵井上靖史︶ ﹁おれは反対だ﹂。都庁で平和事業施策に携わった元職員は99年春、初当選から間もない石原慎太郎元知事からそう言われたのを覚えていた。当時、墨田区内に建設構想があった﹁︵仮称︶都平和祈念館﹂を巡る判断を仰いだ際のこと。構想は凍結され、祈念館での公開を前提にしていたビデオも、この判断で長く死蔵されることになった。封印された瞬間だった。 石原氏が祈念館に反対したのは、自身
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