﹁世界史リブレット﹂シリーズらしく、イランのエルブルズ山脈、トルコの小麦畑、アフガニスタンの野菜畑、エジプトの水車小屋の写真を散りばめながら、西アジア地域の伝統的な農業技術や農業思想について、平易な言葉でわかりやすく書き下したものである。﹁イスラーム農書﹂という聞きなれぬ呼称には多少の違和感を覚えるが、著者も本来は﹁イスラーム農業﹂というものはないと明言している通り︵p.4︶、とりあえずは﹁前近代イスラーム世界における農業技術に関する著作物﹂といった意味を短くまとめた、便宜的用語として理解できる。 第一章﹁農書の成立ち﹂を読んで、イスラーム文化圏の農学知識がギリシア・ローマの医学・科学を受け継いでいることを改めて思い起こさせられた。そうした知識はアラビア語に翻訳され、ウラマーらを通じて各地に伝播していった。同時に、古典的農学知識を各地の特殊な状況に適合させることを目指した、より地域的に限定