「才能を決めるのは、遺伝なのか、それとも環境なのか」 エリート棋士の父を持つ京介と、落ちこぼれ女流棋士の息子・千明。二人の“天才”少年は、またたく間に奨励会の階段を駆け上がる。期待を背負い、プロ棋士を目指す彼らに、出生時に取り違えられていたかもしれない疑惑が持ち上がる――。 そんな将棋×青春のミステリー小説『ぼくらに嘘がひとつだけ』。筆者の綾崎隼さんが、小説執筆のための「公開取材」をnoteイベントにて実施しました。 取材相手は、名人を3期務めたこともある、棋士の佐藤天彦九段。小学5年生のときに奨励会に入り、名人にまで上り詰めた佐藤九段に、奨励会時代のお話、三段リーグのお話、ライバル棋士たちのお話など、「将棋を取り巻くドラマ」についてさまざまな角度からうかがいました。 大いに盛り上がったイベントの様子を、ロングレポートでお届けします。 (まとめ・構成:渡邊敏恵/初出:noteイベント情報)
振り飛車党のタイトルホルダーがいなくなった。2018年度に菅井竜也王位が豊島将之棋聖、久保利明王将が渡辺明棋王にタイトルを奪取されたからで、昔からトップ棋士は居飛車党のほうが圧倒的に多い(肩書はいずれも当時)。 振り飛車で棋士になった黒沢怜生五段と都成竜馬五段から見て、振り飛車の未来はどう映るのか。キーワードになったのは「将棋ソフトの研究」。ほとんどの将棋ソフトは振り飛車を評価しておらず、飛車を振っただけで評価値が下がる。また、ソフトで研究を従来より深く掘り下げることができるようになり、進化のスピードは加速するばかりだ。その中でどう勝負するのか、棋士も苦心している。 (全3回の3回目/#1、#2より続く) ◆◆◆ ファンに棋譜を見られるプロのプレッシャー ――プロになって黒沢五段は5年、都成五段は3年半たちます。奨励会と戦い方は変わりましたか。 黒沢 序盤で悪くなるときついです。玉の堅さ(
(全2回の1回目。#2を読む) ※文中の段位などは、インタビュー当時のものです ◆ ◆ ◆ 「おじさんの趣味」というイメージを変えたいと思いながらやってきました ――シャトーアメーバには初めて来ましたが、東京将棋会館から近いのですね。解説の棋士、女流棋士の皆さんも来やすそうです。 谷井 そうなんです。偶然ですが、東京将棋会館まで急げば徒歩6~7分くらいの距離です。対局の後に記者会見を中継したときは、走って汗だくになりながら2往復したこともあります(笑)。 プロデューサーの谷井靖史さん ――ABEMA将棋チャンネルは、ABEMA開局から1年後の2017年2月にスタートしました。チャンネルができたいきさつを教えてください。 塚本 弊社社長の藤田(サイバーエージェントとAbemaTV社長を兼務する藤田晋氏)と「麻雀最強位」にも輝いた棋士の鈴木大介九段が親しくしていて、先にABEMAに麻雀チャンネ
斎藤 正直、不思議な感覚ですね。まずABEMAトーナメントがあって、その期間中に将棋に対する取り組みの意識が変わりました。ドラフトで選ばれたのが1月、予選の収録は2月、本戦は6月からでしたが、4月から9月くらいまでは充実感があり、公式戦でもいい内容の将棋を指せている自覚がありましたね。 ABEMAトーナメントが終わってからは燃え尽きた感覚があり、調子がいいとは思っていませんでした。ABEMAトーナメントでの貯金をやりくりできたのか、力そのものがついたのか、正直なところよくわかっていません。 ――ABEMAトーナメントでは永瀬拓矢王座に指名され、増田康宏七段ともども、チームを組みました。 斎藤 指名されたのは正直、驚きでした。実は他の棋士から組みたいと匂わされていたんです。ドラフトが行われた当時は7連敗中で、将棋に対してモチベーションがなかった時期です。指名された結果、永瀬さんからは研究会に
ぶっちぎりの票を集めた佐藤天彦九段 ――まずベストドレッサー部門です。なんとなくあの人に票が集まるのかな……と思っていたのですが、やはり佐藤天彦九段のぶっちぎりでした。 〈木村王位の祝賀会でお会いした時に天彦九段の袖にチラッと見えたカフスに、序盤中盤終盤隙が無いって表現はファッションにも使えるかも…と思いました〉(49歳/女性) 〈そのボタンはなぜ多いの? そのネクタイの柄は何? 等々着用されている服装への疑問にちゃんと意味や理由があるところ!〉(36歳/女性) 〈流石、貴族です。着こなし、センスも天彦さんが一位でしょう〉(44歳/男性) ――みなさん、天彦先生のことが大好きなんですね。 深浦 天彦くん優しいんですよね。自分はそんなにファッションを気遣うほうじゃないんですけど、ボソッと「深浦さんのタイの結び目、上手ですよね」って言ってくれるんです。 ――わはは(笑)。 深浦 そこまで見てい
高校3年生でタイトルに挑戦し、18歳でタイトルを手にした青年がいた。屋敷伸之――タイトル初挑戦は1989年後期棋聖戦で17歳10カ月24日、タイトル初獲得は1990年前期棋聖戦で18歳6カ月14日、タイトル初防衛は19歳0カ月7日だ。いずれも史上最年少記録だったが、今月6月8日にヒューリック杯棋聖戦で藤井聡太七段が渡辺明棋聖に挑戦し、タイトル初挑戦の記録は17歳10カ月20日に塗り替えられた。 現在48歳の屋敷はタイトル獲得3期、棋戦優勝2回、竜王戦1組15期、順位戦A級6期の実績を誇る。現役生活は32年目を迎え、現在もトップ戦線でしのぎを削っている。いま10代でタイトル戦を戦ったこと、藤井聡太七段の登場をどう思うのだろうか。 【全2回/#2を読む】
動画中継や大盤解説会の解説者としては丁寧でわかりやすく、時折ユーモアを交えた話をすることで人気がある。現在では、ファンからもっともタイトルの戴冠を熱望されている棋士の一人である。 40代の半ばを過ぎて伸びしろがあるとは思わなかった ――先日、豊島将之王位に挑戦する王位戦の挑戦権を獲得しました。 木村 挑戦が決まってからいただいた応援のメッセージは、過去のタイトル戦の時と比較しても一番多かったですね。今年の3月に順位戦でA級復帰を決めてから、増えた気がします。羽生さん(善治九段)に王位戦で挑戦した3年前や5年前と比較しても、反響は大きいですね。 ――タイトル挑戦、そして今おっしゃったA級復帰など、最近の木村九段は特に好調と見受けられますが。 木村 結果に結びついている、その原因がわかりません(笑)。私は今年で46歳になりましたが、40代の半ばを過ぎて伸びしろがあるとは思わなかったです。ここ数
「棋士になってから1年かからずに脱出できたのは、自分の想定より速かったと思います。四段昇段の時には2年以内に抜けるのが目標でした」と、古賀は言う。 古賀の四段昇段は2020年10月。第67回三段リーグで2度目の次点(3位)を取ったことで、フリークラスへ編入の権利を得て、これを行使したことによるものだ。 名人戦・順位戦に参加しない「フリークラス」 そもそも、フリークラスとは何か。一言でいえば「名人戦・順位戦に参加しない棋士」である。順位戦では頂点の名人からA級、B級1組、B級2組、C級1組、C級2組までの厳然とした階級に分かれている。各クラスそれぞれが1年を通したリーグ戦を戦い、成績上位者が上のクラスへ昇級、成績下位者は下のクラスへ降級となる。 では、最下級のC級2組でも悪い成績を取ってしまったらどうなるか。C級2組では成績下位者の10名ほどに「降級点」がつけられるが、これを3回取るとC級2
入選4作品の発表! 【遠山雄亮賞】「どんな世界にも光のあたらない部分がある――将棋大会運営者から見た奨励会員」(宮田聖子さん) 推薦のコメント「棋士を目指す子供たちにはそれぞれに人生があります。原稿を拝読して教えてきた子供たちのことが脳裏によぎりグッときました。筆者にはこれまで温かい目で見つめてきた子供たちの人生を今後も伝えてほしいと強く思いました」 【松本渚賞】「とあるWEB将の一日『お風呂入る時間、ありますか?』」(尾上与一さん) 推薦のコメント「観る将の生態標本として博物館に飾りたい。それほどに WEBで楽しむ 『観る将棋ファン』の1日を鮮やかに且つ愉快に描いていると感じました。思わず『フフフ』と笑ってしまうような、まるで自分のことを書かれているかのような錯覚に陥るほどの描写力、そして将棋界への愛の深さに感動しました」 【観戦記者賞】「記録に載らない、心に残る記録 ~順位戦王手
長女が12月末に6歳になった。 4月から誕生日のお友達を祝うたびに、長女は12月をずっと楽しみに待っていた。12月に入ってすぐ、幼稚園の先生に声をかけられた。 「長女ちゃん、最近とてもご機嫌なんですけど、ご家庭で何かありました?」 誰しも誕生日は1日しかないが、どうやら幼稚園児はひと月丸ごとが自分のお祝いの月になるらしい。気が付けばトイレの中でも歌っている。誕生日を迎えるその日まで、会う人会う人にお祝いしてもらい、とてもご満悦そうだった。 これからもどうか健やかに育ってほしい。 カラフルなスケジュール表になった 2021年は駆け抜けた1年だった。特に4月以降はタイトな日々を送り続けた。 夫婦共働き、しかもどちらも定時勤務とは無縁の生活をしていると、そのスケジューリングは度々難航する。 結婚してすぐの頃は、別々のスケジュール表を持っていて、相手の予定は知らなかった。 「明日対局一緒じゃん!」
スマホゲームが「息抜き」に ――『攻める大和撫子編』のなかで、特にお気に入りのエピソードがあれば教えてください。 さくら たくさんあって選ぶのが難しいですね(笑)。 第1局「負け方を選ぶのは棋士自身」では、「投了図を負ける方が選べる」という発想にとても驚きました。有名な棋聖戦第1局(2020年)、渡辺明棋聖-藤井聡太七段の「王手を防ぐために打った桂馬で逆王手」という投了図について熱く語ってくれたのですが、投了までの過程をじっくり聞くことができました。普段プロが何を考えて将棋を指しているか、少しだけ知ることができたかなと。対局中の棋士の心理についてはずっと聞きたかったですし、自分でも読みたかったものが描けました。 あと、山口恵梨子先生はスマホゲームが「息抜き」になっていて、課金もしているそうなのですが、「(オートプレイのゲームに課金して)置いて眺めている」という話が面白かったです(笑)。山口
昨年度の将棋界を「観る将」の視点で振り返る「観る将アワード」。 4年目の開催となる今年は、「名局賞」「最優秀棋士賞」「最優秀女流棋士賞」「ベストパフォーマー賞」「ベストエッセイスト賞」「名言賞」「ベスト棋譜コメ賞」「ベストサポーター賞」の8つの部門に、観る将ファンの方から熱い投票をいただいた。 選考会場は、今年も「読む将の聖地」であるジュンク堂池袋本店。深浦康市九段と遠山雄亮六段とともに行った選考会の様子をご紹介したい。まずは「名局賞」選考の様子からお届けしよう。 もっとも票を集めたのは棋王戦の第3局 ――観る将のみなさんから事前に投票いただいた結果、票数の多い順からこのようになりました。 1位 棋王戦第3局 渡辺明棋王-藤井聡太竜王 2位 王将戦第2局 藤井聡太王将-羽生善治九段 3位 朝日杯将棋オープン戦 藤井聡太竜王-増田康宏六段 ――もっとも票を集めたのは、棋王戦の第3局でしたが、
渡辺明名人(棋王・王将)も2004年に20歳で竜王になったが、その年のC級1組順位戦は6勝4敗に終わっている。永瀬拓矢王座は26歳のときタイトル戦3度目で叡王を、豊島将之竜王・叡王はタイトル戦5度目にして28歳で棋聖を獲得した。二冠王になった歳をみても、羽生は22歳、渡辺は27歳、谷川は30歳だ。 18歳の藤井が焦る必要はまったくない。 なので私は、藤井は2つの防衛戦をこなし、順位戦でA級に昇級できるところまで駒を進めれば十分だとつづった。しかし、藤井には「一休み」とか「守り」とかいう考えは無縁のようだ。 加藤一二三九段の予言どおりに 4月16日。竜王戦ランキング戦2組決勝、八代弥七段戦。 藤井は棋士になった当初は角換わり腰掛け銀一辺倒だった。矢倉を採用しはじめたのは2年半経った2019年6月からだ。その後矢倉の採用を増やしており、角換わりと並ぶエース戦法となった。 竜王戦ランキング戦2組
「観る将」の視点から、2019年度の将棋界を振り返ってみる「観る将アワード2019」の中編となる本稿では、「ベスト解説者&聞き手」「Twitter&文章」2部門の発表を深浦康市九段と遠山雄亮六段による選考座談会の模様とともにお届けする。 まずは、あまり解説をしていないのにもかかわらず「将棋の強いおじさん」が多くの票を獲得した「ベスト解説者&聞き手」から始めよう。 あまり解説していないのに解説者トップの木村王位 ――観る将的には、対局者と同等、もしくはそれ以上に愛着のある解説者と聞き手ですが、まずは解説者の話から始めましょう。アンケート結果をみると、解説者では同数でトップが二人おられました。まずは木村一基王位です。 〈私はほぼほぼ棋力がないに近いのですが、将棋をわからない初心者が将棋の放送を楽しめるのは木村王位の解説だったと思います〉(45歳/女性) 〈木村王位の解説は単純な面白さがあります
藤井聡太竜王・名人の師匠である杉本昌隆八段の綴る週刊誌連載が、このたび通算100回を超えて単行本化されることになった。タイトルは『師匠はつらいよ 藤井聡太のいる日常』(文藝春秋)。そのなかの一編の「走る棋士」は『ベスト・エッセイ2023』(光村図書出版/6月26日発売予定)に収録されるなど、将棋界の枠を超えて注目を集めている。 この単行本化を記念して、杉本一門の室田伊緒女流二段と中澤沙耶女流二段にもお越しいただき、3人で一門のこと、そして同門の藤井聡太竜王・名人のことなどを愛知県名古屋市にある「杉本昌隆将棋研究室」で話していただいた。 まずは、師匠にとっても初めての経験となった週刊誌連載について聞いた。 杉本昌隆八段 1968年愛知県名古屋市出身。板谷進九段門下。1990年四段プロデビュー。 常に締め切りがあるという意味だと ――『師匠はつらいよ』の単行本化おめでとうございます。同書に収録
◆◆◆ ぬいぐるみは「もうわからないくらい増えてますね」 伊奈 ブログを書いているときから、こういったフォルダにネタを入れていました。私の場合、今も昔も、その日にあったことをすぐに描いているわけじゃないんです。ある程度そのフォルダに入れておいて、時間がたってから描くスタイルですね。 ――このフォルダの「日常」と「将棋」はわかりますが、「ぬいぐるみ」がメインフォルダになっているのは、やはり変わっていますよね。これはどうしてですか? 伊奈 それはもう、初代担当編集者の趣味ですね(笑)。 ――そうですか(笑)。伊奈さんが、初めて見た渡辺名人の「ぬいぐるみエピソード」を教えてください。 伊奈 私が「小さい頃に犬を飼っていたんだ」と話すと、彼が「俺も実家に犬いるよ」って言うんですが、実際には犬のぬいぐるみだった――という話ですね(単行本1巻収録。《ぬいぐるみのこと犬って言うの普通だし!!》と叫ぶ渡辺
◆ ◆ ◆ 靴下とカフスボタンを東京に忘れてしまった ――近藤七段は昨年C級1組にて、藤井聡太七段の順位戦全勝を止めたことで注目を集めました。勝ったほうがB級2組昇級と言っていい大一番でしたね。 近藤 本当は西尾(明)七段にも勝って、全勝で藤井七段戦を迎えたかったです。負けたら終わり(昇級は絶望)だけど、自分は追い込まれたほうが力を発揮するタイプ。すごく重要な対局になったので、かなり対策をしました。ソフトでの序盤研究がメインです。相手の意表を突くような手も研究し、プロになってから一番というくらい徹底的に準備しました。ずっと難しい将棋で最後は競り勝てました。 ――研究には何のソフトを使っていますか? 近藤 それは企業秘密で(笑)。 ――分かりました。記者の数もすごかったですが、やりにくさはなかったですか? 近藤 藤井さんのデビューから19連勝目の竜王戦6組決勝の相手が僕で、そのときすごい数の
棋界の世代交代が進むなかでのNHK杯優勝 深浦九段の戦績は、タイトル獲得3回、A級在位10期という記録もさることながら、記憶に残るものが多い。 王位戦七番勝負における、3連敗からの4連勝。そして、羽生善治九段をフルセットでくだして防衛を果たした、伝説の桂跳ね。 順位戦における悲運の数々……。 2007年の王位戦第7局 。羽生善治王位(左)を破り、王位となった深浦康市八段(当時) ©共同通信社 黄金世代と呼ばれる羽生九段の世代が、タイトル獲得はおろか、挑戦にも届かなかったこの1年。世代交代が進む中での深浦九段のNHK杯優勝は、再びファンの記憶に残るものになった。 もし、将棋でもパブリックビューイングが一般的だったら、長崎県は大相撲の徳勝龍関が初場所で優勝したときの奈良県のように大盛り上がりだったはずだ。 深浦九段のNHK杯優勝は、長崎県、そして九州の将棋ファンを間違いなく熱くした。タイトル戦
「いやぁ、料理とお酒が素晴らしいので昨夜は少し飲みすぎてしまいまして」 立会人の先崎学九段が、頭を掻きながら控え室に現れた。叡王戦第8局の対局場は、神奈川県秦野市の老舗旅館「陣屋」。将棋や囲碁のタイトル戦会場としても有名な陣屋には、食事のときに出されるオリジナルの銘酒「初陣の誉」がある。モーツアルトの曲を聴かせながら醸造することで、酵母の働きが活発になり独特の風味が出るという。 対局室に向かう長い回り廊下を着物姿の棋士が歩む 今期の叡王戦は6局目を終えた時点で、永瀬拓矢叡王と挑戦者の豊島将之竜王が、2勝2敗2持将棋で並んだ。どちらかが4勝するまで決着がつかないため、七番勝負で31年ぶりの第8局が行われることになった。第7局は永瀬拓矢叡王が勝ち、本局に初防衛をかける。
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