世間が「自分が負けることを期待している」 将棋の第91期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負は、第3局を迎えた時点で、挑戦者の藤井聡太七段が2連勝と、初タイトル奪取へ王手をかけていた。藤井にはタイトル獲得の最年少記録更新がかかっていたこともあり、世間のフィーバーは最高潮に達していたといえる。 逆に言えば、タイトル保持者の渡辺明棋聖にとっては厳しい状況だった。単純な星勘定だけではない。世間のほとんどが「自分が負けることを期待している」のだ。そういう空気を当事者が感じないわけがない。 ただ、渡辺は少なくとも過去に2回、世論上で自らが敵役を演じる番勝負を経験している。羽生善治九段が永世七冠達成へ「あと1局」と迫ったとき、その相手が渡辺だった。 最初は2008年の第21期竜王戦七番勝負。挑戦者の羽生がいきなり3連勝、しかも局が進めば進むほど羽生の圧勝度が増していた。誰もが羽生の竜王奪取、それにともなう永世
対局中も仕事のことで頭がいっぱいだった ――鈴木九段は将棋連盟の理事として多忙な中、最近話題になった麻雀はもちろんのこと、本業の将棋の対局もよく勝っています。 鈴木 現在の将棋の勉強はネット中継を見るぐらいなので、自分でも勝っていて驚いています。考えられるのは、役員になってから現在3年目ですが、前よりも仕事に慣れて、その分だけ余裕が出たことです。これまでの2年は、対局中も仕事のことで頭がいっぱいだったときもありました。 ――一時期は持ち時間をかなり使われていましたが、最近は若手棋士のころのように早指しに戻られていますね。持ち時間が半分残っていることもあります。 鈴木 理事になって1年目は仕事が忙しいので、どの将棋も持ち時間は1時間切れ負けのつもりで勝敗は気にせず指そうと思っていました。昼過ぎに終われば、理事の仕事が午後からできるので。でも、早く対局を終えて、理事の仕事に戻ろうと思っていたら
専門分野と重なる部分のあるネタを扱ったSFを観た/読んだ研究者はどういうことを考えるのか。 【写真】<数学間違い探し>大学生でも間違える計算「40-16÷4÷2」の答えは? SF監修を依頼された研究者はどんなことをして、作品にはどのように反映されるのか。 『シン・ゴジラ』『シン・ウルトラマン』『仮面ライダービルド』『三体』『天気の子』を題材に、それらについて教えてくれるのが『別冊日経サイエンス 研究者が語る空想世界』(日経サイエンス社)だ。研究者向けではなく一般向けの科学雑誌の面目躍如、「日経サイエンス」らしい「科学から見たSF」がぎっしり詰まっている。 クリエイターのこだわりと研究者らしいガチな監修や考察が引き起こす化学反応 大学をはじめとする研究機関に所属している科学者が、専門知識を活かして「SF考証」に協力しているケースは少なくない。海外でも映画『インターステラー』などに物理学者が関
「幼いころから将棋を指してきた場所なので」 第5期叡王戦七番勝負は第5局を終えて永瀬拓矢叡王2勝、挑戦者の豊島将之竜王・名人1勝、2持将棋。先に4勝したほうが第5期叡王位に就くので、持将棋がなければ第6局はどちらかが3勝して迎えるはずだ。七番勝負終盤の「第6局」なのに決着局にはなりえない新感覚の対局になった。8月1日の第6局は、第5局と同じく持ち時間は各3時間で、14時に対局が開始される。 8月1日は土曜日。関西将棋会館での対局は叡王戦第6局のみだった それぞれの控室では、ニコニコ生放送による対局直前インタビューが行われた。他のタイトル戦では見られないもので、好評だ。豊島は「体調は悪くないです。睡眠を多く取るようにしています。関西将棋会館でのタイトル戦は初めてですが、幼いころから将棋を指してきた場所なので、普段通り指せると思います。最近は負けが続きましたが、月も替わりましたし自分なりのベス
豊島将之竜王・叡王と藤井聡太王位・棋聖による「夏の十二番勝負」。当初は藤井のタイトル防衛がかかった王位戦七番勝負としてスタートしたが、藤井が叡王戦での挑戦を決めてダブルタイトル戦が行われることになった。 今回は、「十二番勝負」の後半戦、8月18日の王位戦第4局以降の二人の対局を振り返っていきたい。 8月18~19日・王位戦第4局(豊島先手) 【レジェンドを彷彿させる藤井の指し回し】 豊島は相掛かりを選択し、すぐに角交換した。前例のない形に引きずり込むとともに、藤井得意の自陣角を誘う。互いに自陣角を打ち、豊島が1歩得で小競り合いが終わる。角の働きはほぼ互角なれど、歩得で玉を堅めやすい豊島に対し、藤井は中途半端な歩越し銀が残った。駒組合戦となり、豊島は金銀3枚の菊水矢倉に組んだが、藤井は中住まいのままだ。やや豊島持ちで序盤を終える。 中盤、藤井が先に動いた。あの歩越し銀を相手の銀と交換して、そ
人生や仕事で価値ある目標を本気で達成する大人の塾「足達塾」。 その塾長であり、実践心理学NLP(神経言語プログラミング)のマスタートレーナーの 足達 大和(あしだち やまと)がお届けするメッセージ、その名も【魁‼足達塾 活字編】 今回は『私に影響を与えたストーリー』というテーマでお届けします。 今回は足達個人が人生で影響を受けた映画、小説、テレビドラマをご紹介します。 ご存知のように映画、ドラマは小説が原作となって生み出されるものが多いのですが、影響を与えたといっても、「おもしろかった」「感動した」「ストーリーが秀逸」「配役が絶妙」と、いろんな楽しみ方が作品にはあります。 もちろん世代によっても、心に残るものは違っていて、 その当時に観たり読んだりしたからこそ「良かった!」と思えるものがあります。 今回は個人的世界のゴリ押しになってしまうのですが、 この夏、お時間があるときにぜひ映像や文字
名局賞 名局の絶対条件は、際どい終盤 ――まず、名局賞のアンケート結果は、票数の多い順からこのようになりました。 1位 竜王戦第4局 豊島将之竜王/藤井聡太三冠 2位 棋聖戦第3局 藤井聡太棋聖/渡辺明名人 3位 棋王戦挑戦者決定トーナメント 佐藤康光九段/郷田真隆九段 ――アンケート投票の結果、1位は竜王戦の第4局でした。2位にかなり得票差をつけて大きな支持を集めましたが、この要因はどういったところにあると思われますか。 深浦 まず、今回も多くの方に投票いただきありがとうございました。さて、この竜王戦の第4局ですが、自分はNHKの「激闘!将棋竜王戦ダイジェスト」という番組で解説を担当しており力が入りましたね。みなさんに、いかに藤井さんと豊島さんの考えを伝えようかと必死でした。 ――決してわかりやすい将棋ではない? 深浦 盤面に現れたところもすごいんですが、水面下に読みが凝縮されているんで
17人の女流棋士で日本将棋連盟から独立したLPSA(日本女子プロ将棋協会)が、今年で設立15周年を迎えた。 15年の歴史のうち直近の8年間代表を務めているのが中倉宏美女流二段だ。16歳でデビューした1990年代後半に、将棋界初の「姉妹女流棋士」として注目を集めた人気女流棋士は、今、LPSAを率いて独自の事業に取り組んでいる。 イベントや大会の運営での忙しい日々や、次世代の女の子の育成について聞いてみた。 中倉宏美(なかくら・ひろみ)女流二段 東京都府中市出身。1979年生まれ。堀口弘治七段門下。小学生で女流アマ名人戦準優勝、女流アマ王将戦優勝。1991年、中学入学と同時に女流育成会に入会。1995年、16歳(高校2年生)で女流育成会にて規定の成績を収め女流棋士になる。2007年、LPSA創設時に移籍。2014年からLPSA代表理事を務めている ◆ ◆ ◆ 若い頃はチヤホヤされ、天狗になって
優勢で時間もあったときにパパッと指してしまった ――昇級と七段昇段おめでとうございます。B級1組への連続昇級は話題になりました。他棋戦に比べて勝率が良いですし、順位戦が得意なのに理由はありますか? 近藤 4期でここまで来られたのは完璧に近いと思っています。一手一手時間を使って考えられるので、持ち時間が長いほうが得意。終盤に時間を残そうと意識して指しています。順位戦は内容の良い将棋が多く、勝った将棋は時間に余裕を持って指せたと思います。 ――9回戦で競争相手の横山泰明七段との直接対決に負けて2敗目。「将棋世界」5月号に掲載された「昇級者喜びの声」では、「この敗戦で昇級を諦めていた」と書いていますね。そのあと2連勝して昇級したわけですが、どう気持ちを立て直したのでしょう? 近藤 横山七段戦は時間の使い方がちぐはぐで、優勢で時間もあったときにパパッと指してしまった。その読みに誤算があって時間を使
順位戦4期でB級1組へとスピード出世した23歳の近藤誠也七段 ©︎文藝春秋 「ミスが全体的に少ないです。終盤、持ち時間がなくても、疲れの出る夜戦に入っても大きなミスをしないことに関してずば抜けています。また、自分は格上の棋士に勝つこともあるけれど、各棋戦の予選の初戦で負けるようなこともちょくちょくあったり、取りこぼしというか、順位戦以外は安定感がありません。藤井七段はほとんど取りこぼしがないのがすごいと思います」 《藤井聡太の順位戦19連勝を阻止した棋士・近藤誠也は「徹底的に準備しました」》より 注目を浴びつつ勝っているのに、驚くべき謙虚な姿勢 続いて2019年4月に銀河戦で対戦した阿久津主税八段は、藤井の謙虚さに驚いている。 第2回朝日杯将棋オープンで優勝している阿久津主税八段。昨シーズンの同棋戦では、惜しくも準決勝で敗れた ©︎文藝春秋 「高校生には見えないですよ。大人より大人っぽい。
2016年、23歳の永瀬拓矢六段は初めてタイトル戦の大舞台に立った。羽生善治棋聖との第87期棋聖戦五番勝負は、2勝1敗と追い込みながら第4、5局を連敗し敗退した。 私は第3局の副立会と、第4局の観戦記を担当したが、永瀬の対局姿が気になった。外からの日差しを気にして対局席の位置を変えさせるなど、神経質であまりにも余裕がなかったのだ。羽生はそれを見透かしたかのように、第4局では永瀬の矢倉に対し、古いタイプの急戦を採用し、第5局では後手で1手損角換わりと、経験が多い形に誘導した。永瀬はあと1勝まで迫りながら、先手番で連敗。初挑戦でのタイトル奪取はならなかった。 「藤井聡太四段 炎の七番勝負」で唯一藤井に勝利 永瀬は人生のすべてを将棋に費やしてきた。観戦記で取材したとき、「1月は対局と研究会が28日でした。正月三が日だけはVSの相手がいませんでした」と言われて、言葉を返せなかったことがある。それを
10代でタイトル戦に登場した棋士はわずか3名 王将リーグは定員7名、残留4名という棋界一の「狭き門」。しかも、今期は藤井七段以外の全員が順位戦A級在籍、そしてタイトル経験者という難関だった。 これまでのタイトル戦登場年少記録は別表の通りだ。最年少記録の屋敷伸之九段をはじめとして、10代でタイトル戦の大舞台に登場した棋士はわずか3名しかいない。そして10代でタイトルを獲得したのは、屋敷九段と羽生善治九段の2名しかいないのだ。 注目の一戦は広瀬が押し気味に進め、快挙を期待していた報道陣にも「これは次回か」というムードが漂う。だが、終盤で広瀬に手順前後のミスが生じた。一気に控室のボルテージが上がる。藤井の師匠である杉本昌隆八段も将棋会館に姿を見せており、「間違えなければ(藤井が)勝てると思います」と話した。 先に受けなしになったのは広瀬の玉だ。あとは藤井の玉を広瀬が仕留め切れるかどうか。検討では
◆ ◆ ◆ 竜王戦の持ち時間は5時間 ――竜王戦6組では高野六段に勝利しました。奨励会三段時代に加古川青流と新人王戦、アマになってからは朝日杯でプロ公式戦を経験していますが、いずれも持ち時間は短い棋戦です。持ち時間5時間の竜王戦は未経験でやりにくくなかったでしょうか。 知花 いえ、1時間とか短い持ち時間ですと、緊張して頭が働かないうちに終わってしまうような気がして、自分としてはやりにくいです。5時間は初めてでとても楽しみでしたし、勝ちたいと思っていましたね。 ――1時間しか使わずに勝ちましたが……。 知花 相手の持ち時間も考えているし、1時間の持ち時間とは全然違います。後でもっと考えたいときには時間がたくさん残っているという心の余裕も大きいですね。 将棋は強いほうが勝つと思っている ――高野六段との対局に向けてどんな準備をしましたか? 知花 前日は練習しようと、都名人戦の予選に御徒町将棋セ
パントー・フランチェスコさんは、日本で精神科医を目指す研修医として働いている。 彼を日本に引き寄せたのは、大好きな「アニメ」、そして「引きこもり」だ。引きこもりは世界中で似た現象が報告され、「Hikikomori」として社会問題になりつつある。 日本に来て、「引きこもりはやはり日本特有」と気がついた。根っこにあるのは、人々の思考に染みついた「文化」。国や地域の文化が生む「大きな物語」になじめず、それに当てはまらない自分を気に病む人が多いという。 ならば、「自分の物語」を編み直すために、架空の物語の力を借りることができるのでは——。フランチェスコさんは今、「アニメ」を使った引きこもり治療法の開発を目指し臨床と研究を続けている。 医学部の授業で「Hikikomori」と出会い、日本へ ——なぜ日本で精神科医に? フランチェスコ:「イタリア人は陽気」というイメージがありませんか? 私はイタリア南
「オールラウンダー羽生」をリスペクトしてきた 羽生の選択は角道を止める出だしだった。居飛車党が角道を止める場合は雁木が本命とはいえ、羽生には振り飛車もある。羽生はタイトル戦だけに限定しても、中飛車・四間飛車・三間飛車・向い飛車と、すべての場所に振ったことがある。また藤井との対戦でも、2020年の銀河戦で三間飛車にしている。 それを踏まえて藤井も準備をしていた。11手目、玉上がりを保留して、角を上がったのが羽生対策の新手。すべての含みを残した手で、振り飛車なら持久戦で、四間飛車には穴熊、三間飛車には左美濃と堅く囲う。 居飛車なら急戦で、雁木なら船囲い、高美濃ならばカニ囲いなどの簡略化した囲いで急戦にするつもりだ。羽生が昨年12月の長谷部浩平五段との朝日オープンで、雁木と見せかけて高美濃にし、さらに矢倉に組んで勝っていることも、調べているだろう。「オールラウンダー羽生」をリスペクトし、警戒し、
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