2010/08/0300:00 ベーシック・インカム論(1) 橋本努 はじめに 雇用の不安定化や長期失業率の上昇を背景として、近年、基本所得︵ベーシック・インカム︶論を支持する議論が浮上している。 この主張はしかし、﹁働かざる者、食うべからず﹂という伝統的な倫理観に反するのみならず、マルクス主義を含めた従来左派の倫理観、すなわち﹁労働は能力に応じて、賃金は必要に応じて﹂という分配の正当化原理にも抵触する。 基本所得論は、﹁働かざる者も、食うべし﹂といい、また﹁能力のある者、働かされる必要なし﹂と講ずるからである。 この倫理観は直感的には受け入れがたいものがあるが、にもかかわらず基本所得論は、現代社会の諸問題に対して、政策的にみて最適な解決策を与えるかもしれない。基本所得政策の実効的な可能性について検討することは、他の代替的な諸政策を考える上でも、有効なヒントを与えるだろう。1.