吾妻橋︵あずまばし︶の欄干︵らんかん︶によって、人が大ぜい立っている。時々巡査が来て小言︵こごと︶を云うが、すぐまた元のように人山︵ひとやま︶が出来てしまう。皆、この橋の下を通る花見の船を見に、立っているのである。 船は川下から、一二艘︵そう︶ずつ、引き潮の川を上って来る。大抵は伝馬︵てんま︶に帆木綿︵ほもめん︶の天井を張って、そのまわりに紅白のだんだらの幕をさげている。そして、舳︵みよし︶には、旗を立てたり古風な幟︵のぼり︶を立てたりしている。中にいる人間は、皆酔っているらしい。幕の間から、お揃いの手拭を、吉原︵よしわら︶かぶりにしたり、米屋かぶりにしたりした人たちが﹁一本、二本﹂と拳︵けん︶をうっているのが見える。首をふりながら、苦しそうに何か唄っているのが見える。それが橋の上にいる人間から見ると、滑稽︵こっけい︶としか思われない。お囃子︵はやし︶をのせたり楽隊をのせたりした船が、橋の