こんな気候の中にいてもジムはみずみずしさを失わなかった。彼がもし女だったら――と、私の友人は手紙に書いていた――花の盛りというところだな――慎み深く咲いているんだ――スミレみたいに。けばけばしい熱帯の花じゃなく。 ジョゼフ・コンラッド﹃ロード・ジム﹄ よしや空と海はインクのように黒くとも…… シャルル・ボードレール﹁海﹂ ジョゼフ・コンラッドの小説をはじめて読んだ。もちろん、名前はあちこちで目にしていたし、船員上がりで、成人後に習得した英語で書いた、ポーランド生れの小説家であることは知っていた。たぶん、コッポラの﹃地獄の黙示録﹄の原作者というのが一番通りのいい説明だろう。しかし、面白いからぜひ読めという記述にも人にも会ったことはなかったし、雑誌が特集を組んだという覚えもない。日本でも古くから読まれていたはずだが、ポピュラーな作家ではもはやなくなっているのかもしれない。今回、彼の本を手に取る