江戸城が消えていく―﹃江戸名所図会﹄の到達点 [著]千葉正樹 [掲載]2007年09月09日 [評者]野口武彦︵文芸評論家︶ ■﹁徳川の平和﹂の理想、迫真の画法で たとえば池波正太郎の﹃剣客商売﹄の一篇︵ぺん︶に描かれる風景は、そっくり﹃江戸名所図会︵ずえ︶﹄から写し取られた画面であると著者はいう。本図会には、信頼できる高度な絵画情報が満載されている。 ﹃江戸名所図会﹄7巻20冊、全1044項目。江戸町名主斎藤家が3代にわたって営々と編纂︵へんさん︶し、天保7︵1836︶年に月岑︵げっしん︶が完成させた尨大︵ぼうだい︶な絵入り地誌である。本書は、その﹃図会﹄を江戸の都市メディア史の大きな文脈中に位置づける仕事である。前後二部に分かれ、前半は大まかにいえば江戸絵図の略史。大絵図︵全図︶から切絵図︵区分図︶への歩みをたどる。絵図は、一本の線を0.2ミリで彫るという木版印刷技術を極限まで駆使して