﹃バックコーラスの歌姫たち﹄
︵2013年 モーガン・ネヴィル監督︶
これは、スターの後ろでサポートとして歌い続ける﹁バックシンガー﹂という職業を描いた、ドキュメンタリー映画。 原題の"20 Feet from Stardom" は、そんな彼らと、ステージ前方でスポットライトを浴びるスターとの、20フィート︵約6m︶という遠くはないが越える事のできない距離を表している。 往年のミュージカル﹃コーラスライン﹄は、ちょうどこのバックシンガーと同じ立場の﹁バックダンサー﹂に選ばれるため、熾烈なオーディションに臨む若者たちを描いていた。︵ちなみに﹃コーラスライン﹄とは、バックダンサーやシンガーが前に出過ぎないよう舞台上に引かれる線のことだ︶ 匿名で踊るバックダンサーですら、生半可な技術や容姿ではなれない。そんなアメリカ競争社会の厳しさと、同時にショービズ界の層の厚さを、見せつけるような作品だった。 本作はしかし、たとえそうした競争をくぐり抜けて現場に立てたとしても、所詮バックはバックであり、スターとは根本的に違うという残酷な現実を、実在の歌手たちの人生を通して描き出す。 あるバックシンガーはこう語る。﹁バックは気楽な立場。自分を押し出す必要はなく、あくまでもソロに調和していく仕事。けれどもソロシンガーは自分の目ざすものを打ち出していくのが仕事で、とにかく人間としてのパワーが必要﹂ もちろんそうやってソロで立つ以上、売れなかった時のリスクも大きい。 60年代にバックシンガーとしてデビューしたダーレン・ラヴは、人気を得てソロシンガーとしてデビューするものの、プロデューサーに冷遇され、結局は数作を発表しただけで芸能界を去る。 ﹁スター﹂の一人、スティングはこう語る。﹁この世界で成功するには、どんなに才能があっても努力してもだめなんだ。運というか…流れのようなものが必要だ﹂ けれどもダーレンは﹁自分は歌という才能︵ギフト︶をもらったから、それを使わなければならないと思った﹂と、自分の才能を信じる事をやめない。彼女はその後、再びバックシンガーとして音楽界に復帰し、2011年にはついに﹁ロックの殿堂﹂入りを果たした。 本作の題材はもちろん、アメリカの音楽業界という狭い世界だ。だがここには、どんな職業にも共通する﹁人生の選択﹂の難しさが描かれている。 脚光を浴びようと、気楽な道を選ぼうと、それがいつまで続くかなんて誰にもわからない。それでも人はそれぞれ自分の道を選び、その結果を受け止めながら、生き続けていかなければならない。降りる事のできない﹁人生﹂というステージの上で。 これから人生を始めようとしている若者にも、歳をとって人生のホロ苦さを痛感している人にも、ぜひお勧めしたい映画。 + + + そして、この映画が気に入った方には、一度はブレイクしたヘヴィメタ・バンドのその後の人生を描いたこのドキュメンタリーも強くお勧めします! 渋東ジャーナル改﹃アンヴィル!﹄
これは、スターの後ろでサポートとして歌い続ける﹁バックシンガー﹂という職業を描いた、ドキュメンタリー映画。 原題の"20 Feet from Stardom" は、そんな彼らと、ステージ前方でスポットライトを浴びるスターとの、20フィート︵約6m︶という遠くはないが越える事のできない距離を表している。 往年のミュージカル﹃コーラスライン﹄は、ちょうどこのバックシンガーと同じ立場の﹁バックダンサー﹂に選ばれるため、熾烈なオーディションに臨む若者たちを描いていた。︵ちなみに﹃コーラスライン﹄とは、バックダンサーやシンガーが前に出過ぎないよう舞台上に引かれる線のことだ︶ 匿名で踊るバックダンサーですら、生半可な技術や容姿ではなれない。そんなアメリカ競争社会の厳しさと、同時にショービズ界の層の厚さを、見せつけるような作品だった。 本作はしかし、たとえそうした競争をくぐり抜けて現場に立てたとしても、所詮バックはバックであり、スターとは根本的に違うという残酷な現実を、実在の歌手たちの人生を通して描き出す。 あるバックシンガーはこう語る。﹁バックは気楽な立場。自分を押し出す必要はなく、あくまでもソロに調和していく仕事。けれどもソロシンガーは自分の目ざすものを打ち出していくのが仕事で、とにかく人間としてのパワーが必要﹂ もちろんそうやってソロで立つ以上、売れなかった時のリスクも大きい。 60年代にバックシンガーとしてデビューしたダーレン・ラヴは、人気を得てソロシンガーとしてデビューするものの、プロデューサーに冷遇され、結局は数作を発表しただけで芸能界を去る。 ﹁スター﹂の一人、スティングはこう語る。﹁この世界で成功するには、どんなに才能があっても努力してもだめなんだ。運というか…流れのようなものが必要だ﹂ けれどもダーレンは﹁自分は歌という才能︵ギフト︶をもらったから、それを使わなければならないと思った﹂と、自分の才能を信じる事をやめない。彼女はその後、再びバックシンガーとして音楽界に復帰し、2011年にはついに﹁ロックの殿堂﹂入りを果たした。 本作の題材はもちろん、アメリカの音楽業界という狭い世界だ。だがここには、どんな職業にも共通する﹁人生の選択﹂の難しさが描かれている。 脚光を浴びようと、気楽な道を選ぼうと、それがいつまで続くかなんて誰にもわからない。それでも人はそれぞれ自分の道を選び、その結果を受け止めながら、生き続けていかなければならない。降りる事のできない﹁人生﹂というステージの上で。 これから人生を始めようとしている若者にも、歳をとって人生のホロ苦さを痛感している人にも、ぜひお勧めしたい映画。 + + + そして、この映画が気に入った方には、一度はブレイクしたヘヴィメタ・バンドのその後の人生を描いたこのドキュメンタリーも強くお勧めします! 渋東ジャーナル改﹃アンヴィル!﹄
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