マクドナルド賃金の国際比較 (山形vs池田論争)
今更おなかいっぱいとは思いますが、例の﹁山形vs池田論争﹂について、面白い論文を見つけたので紹介しておきます。
池田さんは限界生産性とPPPについての超簡単な解説で 問題は、日本のウェイトレスの時給がなぜ中国より高いかということだが、これも答は同じだ。両方の限界生産性が違うのだ。ウェイトレスの限界生産性は、彼女を雇ったことによる売り上げ増であらわされる。それが中国より高いのは、日本人の所得が高いとか土地が高いなど、いろいろな理由があるが、それはすべてコーヒーの価格に︵したがって限界生産性に︶織り込まれているのである。その価格は需要と供給で決まり、﹁平均生産性﹂とは何の関係もない。
と解説。 一方、山形さんはそれでも賃金は平均的な生産性で決まるんだよ。の脚注にて 池田理論によれば、限界生産性で賃金は決まるから、日本のスズキの工員とカンボジアのスズキの工員は同じ給料になるはずだ。が、実際にはそんなことはない。この話も追求するとやっかいだから深追いはしないけれど、でもカンボジアのスズキの工員給料が日本のスズキの工員より圧倒的に低いのは、それがカンボジア全体の平均的な生産性にかなり左右されるからなんだよ。
と書いています。
これに関して、こんな論文があります: Cross-country Comparisons of Wage Rates: The Big Mac Index(PDF) Orley Ashenfelter and Stepan Jurajda Princeton University and CERGE-EI/Charles University October 2001
池田さんも引用している英Economist誌のビッグマック指数は有名ですが、この論文は各国のマクドナルドの従業員の賃金を比較し、さらにそれをビッグマック指数で調整したものを表にしています。つまりこの表をみれば それぞれの国のマクドナルドで1時間働いて得た給料で何個のビッグマックが食べられるか?
がわかるわけです。
池田説によれば、賃金は限界生産性つまり、一人増やすことによるハンバーガー売上増で決まるということですから、国によってビッグマックの値段が違っていても、﹁時給で買えるビッグマックの個数﹂にはそれほど開きはない、ということが予想されます。一方山形説では、その社会の平均的な生産性によって賃金が決まってくるので、この数値は国によって大きく違っていても不思議ではないことになります。(2/22追加)
では結果を見てみましょう。table2に、2000年8月に於ける各国マクドナルドの時給(4)とビッグマックの価格(5)、およびその比率(7)が出ています(PDFを開く手間を省くために、この記事の最後にその表の写しを置いておきました)。
これを見ると、ビッグマック自体の価格はインドと日本でもせいぜい2倍しか違いませんが(日本の方が2倍高い)、賃金は26倍、ビッグマックの値段で調整しても13倍も違っています。日本人はマクドナルドで20分も働けば1個のビッグマックが食べられるのに、インドのクルーは4時間以上働かないと食べられないのです。
では、日本のマクドナルドの従業員はインドに比べると一人当たり13倍も多く客をこなすのでしょうか?もちろんそんなわけはありません。つまりこれは、限界生産性だけによって賃金が決定されているわけではない、ということを示しているのではないでしょうか。
それからもちろん、マクドナルドはインド人を搾取している!というわけでもありませんよ。念のため。要するに、インドではマックは庶民の食べ物ではないということですね。
Table 2: McDonald's Cashier or Crew Wages and Big Mac Prices, August 2000
池田さんは限界生産性とPPPについての超簡単な解説で 問題は、日本のウェイトレスの時給がなぜ中国より高いかということだが、これも答は同じだ。両方の限界生産性が違うのだ。ウェイトレスの限界生産性は、彼女を雇ったことによる売り上げ増であらわされる。それが中国より高いのは、日本人の所得が高いとか土地が高いなど、いろいろな理由があるが、それはすべてコーヒーの価格に︵したがって限界生産性に︶織り込まれているのである。その価格は需要と供給で決まり、﹁平均生産性﹂とは何の関係もない。
と解説。 一方、山形さんはそれでも賃金は平均的な生産性で決まるんだよ。の脚注にて 池田理論によれば、限界生産性で賃金は決まるから、日本のスズキの工員とカンボジアのスズキの工員は同じ給料になるはずだ。が、実際にはそんなことはない。この話も追求するとやっかいだから深追いはしないけれど、でもカンボジアのスズキの工員給料が日本のスズキの工員より圧倒的に低いのは、それがカンボジア全体の平均的な生産性にかなり左右されるからなんだよ。
と書いています。
これに関して、こんな論文があります: Cross-country Comparisons of Wage Rates: The Big Mac Index(PDF) Orley Ashenfelter and Stepan Jurajda Princeton University and CERGE-EI/Charles University October 2001
池田さんも引用している英Economist誌のビッグマック指数は有名ですが、この論文は各国のマクドナルドの従業員の賃金を比較し、さらにそれをビッグマック指数で調整したものを表にしています。つまりこの表をみれば それぞれの国のマクドナルドで1時間働いて得た給料で何個のビッグマックが食べられるか?
がわかるわけです。
池田説によれば、賃金は限界生産性つまり、一人増やすことによるハンバーガー売上増で決まるということですから、国によってビッグマックの値段が違っていても、﹁時給で買えるビッグマックの個数﹂にはそれほど開きはない、ということが予想されます。一方山形説では、その社会の平均的な生産性によって賃金が決まってくるので、この数値は国によって大きく違っていても不思議ではないことになります。(2/22追加)
では結果を見てみましょう。table2に、2000年8月に於ける各国マクドナルドの時給(4)とビッグマックの価格(5)、およびその比率(7)が出ています(PDFを開く手間を省くために、この記事の最後にその表の写しを置いておきました)。
これを見ると、ビッグマック自体の価格はインドと日本でもせいぜい2倍しか違いませんが(日本の方が2倍高い)、賃金は26倍、ビッグマックの値段で調整しても13倍も違っています。日本人はマクドナルドで20分も働けば1個のビッグマックが食べられるのに、インドのクルーは4時間以上働かないと食べられないのです。
では、日本のマクドナルドの従業員はインドに比べると一人当たり13倍も多く客をこなすのでしょうか?もちろんそんなわけはありません。つまりこれは、限界生産性だけによって賃金が決定されているわけではない、ということを示しているのではないでしょうか。
それからもちろん、マクドナルドはインド人を搾取している!というわけでもありませんよ。念のため。要するに、インドではマックは庶民の食べ物ではないということですね。
Table 2: McDonald's Cashier or Crew Wages and Big Mac Prices, August 2000
Estimated hourly wage rate | Reported BigMac price | Exchange Rate per $1 | $ hourly wage rate | $ BigMac price | BigMacs per hour of work | |
Country | (1) | (2) | (3) | (4) | (5) | (7) |
India | 12.00 | 52.00 | 41.3 | 0.29 | 1.26 | 0.23 |
Columbia | 1,200 | 5,300 | 2,181 | 0.55 | 2.43 | 0.23 |
China | 3.50 | 9.80 | 8.28* | 0.42 | 1.18 | 0.36 |
Indonesia | 5,000 | 14,500 | 7,945 | 0.63 | 1.74 | 0.36 |
Venezuela | 900 | 2,200 | 689 | 1.30 | 3.19 | 0.41 |
Thailand | 23.50 | 55.00 | 41.01 | 0.57 | 1.34 | 0.43 |
Philippines | 25.00 | 54.90 | 44.50 | 0.56 | 1.23 | 0.46 |
Russia | 14.00 | 29.50 | 27.69 | 0.51 | 1.07 | 0.47 |
Brazil | 1.61 | 1.79* | 0.89 | 1.65* | 0.54 | |
Argentina | 1.50 | 2.50 | 1.00 | 1.50 | 2.50 | 0.60 |
Malaysia | 3.00 | 4.30 | 3.80 | 0.79 | 1.13 | 0.70 |
Korea | 2,100 | 3,000 | 1,115 | 1.88 | 2.69 | 0.70 |
Turkey | 1,133,000 | 1,500,000 | 647,335 | 1.75 | 2.32 | 0.75 |
Czech Rep. | 45.00 | 55.00 | 38.74 | 1.16 | 1.42 | 0.82 |
Poland | 5.01 | 5.80 | 4.36 | 1.15 | 1.33 | 0.86 |
Taiwan | 66.00 | 70.00 | 30.00 | 2.20 | 2.33 | 0.94 |
Singapore | 4.00 | 3.20 | 1.73 | 2.31 | 1.85 | 1.25 |
Hong Kong | 14.50 | 10.20 | 7.80 | 1.86 | 1.31 | 1.42 |
Italy(2001) | 10,000 | 4,900 | 1,668 | 6.00 | 2.94 | 2.04 |
UK | 4.00 | 1.90 | 0.63* | 6.35 | 3.02 | 2.11 |
Germany | 11.25 | 4.99 | 2.11* | 5.33 | 2.36 | 2.25 |
Canada | 6.95 | 2.89 | 1.54 | 4.51 | 1.87 | 2.40 |
USA | 6.50 | 1.00 | 6.50 | 2.51* | 2.59 | |
Sweden | 65.00 | 25.00 | 9.19 | 7.07 | 2.72 | 2.60 |
Belgium | 304.35 | 115.00 | 44.11 | 6.90 | 2.61 | 2.65 |
France | 42.02 | 18.50 | 7.07* | 7.12 | 2.62 | 2.72 |
Japan | 850 | 280 | 110 | 7.73 | 2.55 | 3.04 |
Note: First two columns in local currencies * Estimate based on the Economist.The correlation between the reported McKinsey and Economist Big Mac prices from April 2000 is 0.99
(2/22 ちょっと文章書き足し、﹁BigMac﹂を﹁ビッグマック﹂に統一。 あと、はてなブクマで﹁どこで拾ってきたんだろう?﹂という疑問があったのでお答え。ぐぐったら見つかりました。 論文自体はUnpublishedのようです。もったいないですね。)
> 日本人の所得が高いとか土地が高いなど、いろいろな理由があるが、それはすべてコーヒー
>の価格に︵したがって限界生産性に︶織り込まれているのである。その価格は需要と供給で決ま
>り、﹁平均生産性﹂とは何の関係もない。
池田さんが﹁日本人の所得﹂と﹁平均生産性﹂が無関係だと思ってるのが不思議ですね。
2007年02月22日 luke URL 編集
池田さんが﹁日本人の所得﹂と﹁平均生産性﹂が無関係だと思ってるのが不思議ですね。
2007年02月22日 luke URL 編集
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2007年02月21日 clausemitzの日記
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