この集中連載では、医師であり禅僧の川野泰周氏がストレス社会の「あるある」問題の向き合い方について教えてくれる著書『「あるある」で学ぶ 余裕がないときの心の整え方(できるビジネス)』から抜粋した“心が折れるその前に、あなたの心を整える方法”を、心がざわつく年末に、短期集中連載というかたちで忙しいビジネスパーソンの皆さま、家庭を支える主婦の皆さま、将来を模索している学生の皆さまにお届けします。
新しい職場に慣れない! 気が休まりません
環境の変化はストレスを感じやすい
入学や入社、転居や転勤、留学、転校、昇進などなど。生活環境が変化するとメンタルに不調をきたすことがあります。入学や昇進といったおめでたい出来事ですらストレスになりうるのです。
そんなストレスによって心のバランスを失った状態が、いわゆる﹁適応障害﹂です。新しい環境に適応しようと思い、頑張ろうしても適応できず、心身に不調が出てしまう障害です。
適応障害には個人差があります。同じ境遇や環境の変化にさらされてもストレスを感じる人もいれば、感じない人もいます。
禅修行での気づき
私は三十歳のときから建長寺で三年半におよぶ禅僧修行をはじめました。まずは僧堂に入る前の二日間、庭詰︵にわづめ︶といって玄関に土下座をして過ごします。それが終わると今度は質素な小部屋に通され、そこで三日間、身じろぎもせずに過ごします。これは旦過詰︵たんがづめ︶といいます。この五日間が過ぎるとようやく入門を許されるのですが、入門後は読経︵どきょう︶や托鉢︵たくはつ︶︵※1︶をはじめとした各種の修行をこなさねばならず、息つく暇もありません。まさに環境の激変です。
※1
仏教の修行の一つ。信者の家や街々を巡りながら必要最低限の金品や食糧を乞うことを言います。この行為を通して修行するのは修行僧だけではなく、差し出す人も物やお金を喜捨︵喜んで捨てること︶することで、とらわれから解放されるための修行をするという意味を持ちます。
それまでの生活とはあまりにも違う環境にさらされ、自分の心をどこに置いたらいいのか分からなくなりました。
ところがあるときから気づいたのです。その場その場を集中すればいいということに。坐禅のときは坐禅のことしか考えなければいいのです。とてもシンプルなことですが、そのことに気づいてからは心がずっと軽くなったことを覚えています。
「日々是好日」の本当の意味
﹁日々是好日︵にちにちこれこうじつ︶﹂という禅語があります。私たちはよく﹁今日はいい日になりますように﹂と祈りますが、そうではなく、晴れの日も雨の日も、たとえ暴風の日であっても、その日は二度と訪れないかけがえのない一日であるというのが禅の解釈です。その日その日を全身全霊で生ききることの大切さを凝縮した言葉といえます。
寝る前に心をリセット
さまざまな環境変化にさらされてストレスを感じたときに、私がお勧めしたいのは寝る前の五分の瞑想です。禅宗では﹁夜坐︵やざ︶﹂と言い、禅の修行の一日は必ず夜坐で終わります。朝に余裕があるときは、一日のはじまりに五分瞑想するのもなお良しです。
本書の中ではさまざまな瞑想法を紹介していますが、自分に合う瞑想法を見つけて、一日の終わりに心をリセットするのです。そうすることで一日一日にメリハリをつけることができるでしょう。
【POINT!】 |
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・その場その場を集中して過ごす |
・今日という日は、かけがえのない日 |
・一日の終わりは五分の瞑想で心をリセット |
〔実践〕呼吸瞑想
皆さまの中で、普段から呼吸を意識している人は少ないと思います。呼吸は無意識に行うのが普通です。しかしマインドフルネスではあえてその呼吸に意識を向けます。
それが﹁呼吸瞑想﹂です。呼吸瞑想はいつでもどこでもできます。マインドフルネスの最も基本になる瞑想法です
呼吸は自律神経を整えます。息を吸うと交感神経、吐くと副交感神経が働きます。意識的に呼吸するだけで自律神経のバランスが取れるのです。
衝動的になったとき、落ち込んでいるとき、自律神経は乱れています。心に不調を感じたときは、呼吸瞑想を試してみましょう。
はじめは二~三分、慣れてきたら十分くらいするのが良いという指導者が多いのですが、実際には時間は完全に自由。自分のできるだけの時間でかまいません。
呼吸瞑想は﹁静座︵せいざ︶瞑想﹂とも言われます。座るのは椅子でも床でも座布団の上でもかまいません。ここではオフィスでもできるように椅子で実践する方法を紹介します。
1 両足を少し開け椅子に座る
頭のてっぺんから一本の糸で天に向かって吊られるようなイメージで背筋を伸ばします。両手は手のひらを上に向けて膝の上に置くか、またはへその下あたりで両手を組みます。
2 三回ほど大きく深呼吸
新鮮な空気をいっぱいに吸い込んで、自然に吐き出すイメージです。
3 鼻に流れる空気を観察
その後は、自然に呼吸します。無理に深く息をしようとか、長く吐こうなどと考えません。鼻を通って出入りする空気に注意を向けましょう。
4 肺やお腹の動きを観察
気管を通って肺に達する空気、膨らんではしぼむお腹。呼吸に関する感覚だけに注意を向けます。続けられるだけ続けましょう。時間は自由です。
坐禅会イベントの告知
11月21日(月)の19時30分に東京神保町にて「心を整えるマインドフルネス坐禅会~東京夜景のなかで禅を体感~」という坐禅会も実施いたしますので、「仕事や人間関係......いろいろ面倒」「最近、疲れてるな......」と感じている方、仕事帰りに夜景の中で体験できる坐禅会に参加してみませんか?
坐禅会概要
日時:2016年11月21日(月)19:30-20:30(19:00受付開始)
場所:インプレスセミナールーム
東京都千代田区神田神保町1-105 神保町三井ビルディング 23階
参加費:1,080円(税込)
定員:30名(先着順)
川野泰周(かわの たいしゅう)
精神科・心療内科医/臨済宗建長寺派林香寺住職
精神保健指定医・日本精神神経学会認定専門医・医師会認定産業医。
1980年横浜生まれ。2004年慶応義塾大学医学部医学科卒業。臨床研修修了後、慶應義塾大学病院精神神経科、国立病院機構久里浜医療センターなどで精神科医として診療に従事。2011年より建長寺専門道場にて3年半にわたる禅修行。2014年末より横浜にある臨済宗建長寺派林香寺住職となる。現在寺務の傍ら都内及び横浜市内にあるクリニック等で精神科診療にあたっている。
うつ病、神経症、PTSD、睡眠障害などに対し薬物療法と並び禅やマインドフルネスの実践を含む心理療法を積極的に取り入れた診療に当たっている。またビジネスパーソン、看護職、介護職、学校教員、子育て世代の主婦などを対象に幅広く講演・講義を行っている。