2016.11.10
トランプ経済は、実は「大化け」の可能性を秘めている!
市場の反応は筋違い。その根拠を示す
またしても大波乱である。6月23日にイギリスで実施されたEU離脱の国民投票に続き、米国大統領選もまた大方の予想を覆す結果となった。
ただ、筆者にとっては、トランプ氏の大健闘を称えるというよりも、アメリカにはクリントン女史を心底嫌っている人がかなり存在したという事実に驚きを隠せない。
﹁リベラルな富裕層﹂の代表的な存在であるクリントン女史の不人気は、リーマンショック後の米国の格差の深刻さ、それにともなう階層断絶の深刻さを浮き彫りにしたのではなかろうか。
加えて、メディアの情報はバイアスだらけで、如何に信用できないものであるかも明らかになった。さらにいえば、インターネット社会の特徴なのか、新聞等の旧来型メディアが世論を誘導する力も大きく低下していることがはっきりした。
今回の大統領選は、﹁マスメディアの敗北﹂でもあるのではなかろうか。
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マーケットは完全に「リスクオフ」
さて、今回の大統領選の開票状況は、イギリスのEU離脱の国民投票と極めてよく似ていた。開票当初からトランプ氏がリードしたが、多くのマスメディアは、﹁前半に開票される州は保守的でもともとトランプ氏優勢の地域なので、これから開票が進むに従って、クリントン女史が逆転するだろう﹂と報じた。
確かに一瞬、クリントン女史が逆転したが、すぐにトランプ氏が再逆転、そして、事前に接戦が予想されていた州でトランプ氏がことごとく勝利することで、トランプ氏がほぼ一貫してリードする展開でゴールにたどり着いた。
この開票結果を受けて、日本市場では、円高株安が進行した。結局、日経平均株価は前日比919.84円安の1万6251円46銭で引けた。ドル円レートも前日比1.96円円高の1ドル=102.45円で推移している。
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マーケットは典型的な﹁リスクオフ﹂の状況である。大統領選中に、数々の暴言を吐いてきたトランプ氏が実際に大統領になるとどんな暴挙をしでかすかわからない、という投資家心理の表れであったのだろう。
だが、筆者は、このマーケットの反応は﹁方向違い﹂ではないかと考えている。
筆者は以前にも当コラムで指摘したように、トランプ氏の掲げる経済政策構想はそれほど質の悪いものではないと考えているし、﹁暴走﹂が懸念される安全保障・外交政策︵例えば、メキシコに﹁万里の長城﹂のような壁を建設して不法移民の流入を防ぐとか、イスラム教徒の移民禁止など︶も、実際の政策運営に際しては、発言のような政策をそのまま行うことは不可能であろうと考えるためである。
そもそも、大統領は、決して﹁王様﹂や﹁独裁者﹂ではない。法案も、拒否権はあるにせよ、議会との共同作業で作成せざるを得ない。大統領は、明確な法体系で定められた行政機能の一部であると考えた方がよいのではなかろうか。
そのようにいうと、ヒトラーのナチス政権も、当時のドイツの国内法を遵守しながら生まれた独裁政権ではなかったか、という指摘をされるかもしれない。だが、トランプ氏に対しては、味方であるはずの共和党員の間でも批判的な声が強い。
もしトランプ氏が国益につながらない﹁暴走﹂を試みた場合、議会がそれを制する可能性の方が高いのではなかろうか。あるいは、そのことを事前に察知したスタッフがトランプ氏に自重を求めるのではなかろうか。
そう考えると、﹁トランプ新大統領﹂の最大のリスクは、自分の思うような行動ができないことから、やる気をなくし、任期中の早い段階で﹁レームダック﹂化してしまうことではなかろうか。したがって、いまマーケットで懸念されている﹁トランプリスク﹂には筆者は極めて懐疑的である。