国民の注目を集めた天皇誕生日会見。一見﹁無風﹂に終わったようだが、そうではない。誠意を見せない総理と、本心を語れない天皇の溝は一層深まっている。ふたりの思いに迫る深層レポート!
﹁内閣と相談しながら﹂の真意
宮殿中で最も広い部屋﹁豊明殿﹂。 昨年末の天皇誕生日、白銀色のシャンデリアが桃色の絨毯を美しく照らすこの部屋で、国会議員など約470人が集まり、﹁宴会の儀﹂が催された。 ずらりと並んだ長テーブルを、日の出蒲鉾や若鶏の松風焼き、鯛の姿焼きなどが彩る華やかな席。しかし、13時の天皇のお出ましから数分後、その部屋に場違いな緊張が走った。安倍晋三総理のあいさつである。出席した議員が言う。 ﹁一同が見守るなか、モーニングを着た安倍総理が前方に歩み出たとき、会場全体の空気が張りつめました。出席者はみんな思ったのでしょう。陛下と総理、ふたりはいったいどんな思いで向き合っているのか、と。 あいさつは、感謝を述べ、健康を祈る当たり障りのない内容で、陛下はもちろん微笑んで聞いていらっしゃいましたけれど……﹂ 昨年夏から続く﹁天皇の生前退位﹂問題。天皇が﹁退位の制度化﹂や﹁皇室典範についての議論﹂を望んでいることは明らかだが、官邸がその意を汲むことはなく、安倍総理と天皇の間の溝は深まり続けている。
それゆえ安倍総理をはじめとする官邸の面々は、天皇が現状への不満を述べるのではないかと、誕生日に先立つ会見に戦々恐々だった。宮内庁関係者が言う。
﹁陛下の会見の文案は、いつも陛下ご自身が深夜まで文章を練って推敲を重ねています。皇后陛下に少し意見を聞くことがあるくらいで、あとは発表直前に法律に反した部分がないか専門家に確認させるまでほとんど内容がわからず、官邸にも情報がほぼ入らない。
この問題を担当する杉田和博官房副長官は、昨秋に官邸から送り込んだ西村泰彦宮内庁次長を使って情報収集しましたが、芳しい成果は得られなかったようでイライラしっぱなしでした﹂
だが蓋を開けてみれば、天皇は退位についてこうふれるにとどまった。
︿︵天皇としての︶この先の在り方、務めについて、ここ数年考えてきたことを内閣とも相談しながら表明しました。多くの人々が耳を傾け、各々の立場で親身に考えてくれていることに、深く感謝しています﹀
一見すると穏当な内容。﹁安倍総理もホッとしたでしょう﹂︵自民党中堅議員︶。しかしこの穏やかな言葉の﹁裏﹂には、安倍官邸に対する違和感や不満が鬱積しているのではないか――多くの関係者はそう見ている。
昨年7月に天皇から直接、退位について相談を受けた、学習院幼稚園時代からのご学友、明石元紹氏はこう語る。
﹁陛下は、幼い頃から慎重な言葉遣いをされる方。そんな方が、わざわざ﹃内閣とも相談した﹄という表現を選んだことには意味があると、私は受け取っています。つまり、﹃内閣と相談したにもかかわらず、自分の思いが十分に伝わっていない﹄ということです﹂