プロファイリング
プロファイリング(Offender profiling or criminal profiling)とは、犯罪捜査において、犯罪の性質や特徴から、行動科学的に分析し、犯人の特徴を推定すること。
概要
日本に比べて数倍から10倍程度の犯罪発生率である米英において法執行機関の資源︵人・物・金︶を有効に活用すべく研究されてきた犯人像特定方法である。長年経験を積んだ刑事であれば現場を見てどういう犯人か見当が付く場合もある。そうした﹁見当のつけ方﹂を学問的に理論化しようとする試みでもある。基本的な構造は、﹁こういう犯罪の犯人はこういう人間が多い﹂という確率論である。
犯罪前の準備︵情報収集等︶、犯罪中の行動︵殺人方法等︶、犯罪後の処理︵死体の処理、逃走方法等︶は、犯人の性格、個性にかなり関係すると考えられている。これらを行動科学(心理学、社会学、文化人類学︶的に分析すれば、犯人の性別、人種、職業、年齢などの特徴をある程度推定でき、これらの推定を元に物的証拠やその他の情報とあわせて捜査すれば、闇雲に捜査員が広範囲に捜査するよりは効率的であるとされる。
犯罪前の準備︵情報収集等︶、犯罪中の行動︵殺人方法等︶、犯罪後の処理︵死体の処理、逃走方法等︶は、犯人の性格、個性にかなり関係すると考えられている。これらを行動科学(心理学、社会学、文化人類学︶的に分析すれば、犯人の性別、人種、職業、年齢などの特徴をある程度推定でき、これらの推定を元に物的証拠やその他の情報とあわせて捜査すれば、闇雲に捜査員が広範囲に捜査するよりは効率的であるとされる。
FBIの手法
FBIの殺人捜査では、次の4段階の分析を行う。
(一)準備
●犯人が犯罪前に、どういう計画や妄想を抱いていたか?
●何故、その日に犯行を行ったのか?
●他の日では、駄目だったのか?
(二)犯行方法
●どういう被害者を選んでいるか?
●どういう殺し方をしているか︵射殺、刺殺、絞殺等︶。
(三)死体の処理
●殺人場所と、死体遺棄場所は同じか?
●死体に損傷を与えたり、性交しているか?
●損傷/性交は、殺害前なのか殺害後なのか?
(四)犯行後
●犯行後、現場を訪れたか?
●マスコミにメッセージを送ったか?
●捜査に関心を寄せているか?
欧米での歴史
米国の犯罪発生率は日本の10倍程度︵法制度が異なるため一律比較はできない︶であるが、法執行機関の資源︵人・物・金︶は限られている。しかも各州の独立性が極めて高く法制度が大きく異なるため、情報の共有が円滑に行われなかった。そうした事情もあり、検挙率が極めて低い状態が続いてきた。広域型・組織型・非従来型・快楽殺人型といった犯罪の種類だけでなく、絶対数が非常に多い米国において、限られた資源の中で効率的に活動を進めるべく研究されたのがプロファイリングである。
もともとは米国FBIが様々な学問を導入して犯罪捜査を効率化することを目的として始められた。プロファイリングを使えば逃亡犯や一般常識の通用しない猟奇犯の特定や、足取り、逃走ルートや現在の状況・心境にいたるまで明確に予見することが可能とも言われるが、本当に分かるのであれば犯罪はもはや発生しないはずである。結局は、限定的な資源をどこに投入するべきかという確率論の話であって、従来的な捜査の重要性が低くなるわけではない。
近代において、最初に科学的なプロファイリングが試みられたのは、19世紀末の英国の﹁切り裂きジャック﹂事件のときといわれている。この事件は、娼婦の連続殺人事件であり、その手口や娼婦を狙うという点で、警察医のトーマス・ボンドが、いろいろなプロファイリングを行ったが、結局、犯人逮捕に至らなかった。
1972年FBIに行動科学課が創設され、ブラッセル博士、ハワード・テテン、ロバート・K・レスラー、ジョン・ダグラス等がプロファイリングを担当した。
ジョン・ダグラスの著書などで、犯人の心理状態や動機を﹁秩序型﹂と﹁無秩序型﹂に分類する方法等のプロファイリング手法は広く知られるようになり、推理小説・刑事ドラマなどのフィクションに広く取り上げられるようになった。
プロファイリング関係の書籍で挙げられている事例は、テッド・バンディ事件やジェフリー・ダーマー事件など25年以上前の事件が多い。現在のような高度なDNA鑑定・指紋データベース・コンピュータが存在しなかった過去においては、検挙率を高めるためにはあらゆる学問を総動員しなければならなかった。プロファイリングは、高度なデータベースや鑑識技術がなかった昔に現実の必要性に迫られて発展したものである。
しかし、鑑識技術がどれだけ発展したとしても、﹁死体の顔を布などで覆っている場合は犯人に罪悪感がある証拠であり、近親者や知人の可能性が高い﹂といった実務的経験や心理分析は、鑑識結果を受けて誰を尋問するかを決定する上で有効性が失われるとは考えにくい。
日本のプロファイリング
日本の警察においては、プロファイリングによる犯人像推定データをデータベース化して、警察庁で統括運営し、あらゆる犯罪の被疑者確保に役立てようとしている。
警視庁としては、刑事捜査に科学捜査を本格的に導入することが検討されており、警視庁科学捜査研究所内に先鋭のプロファイリングチームを設置し、プロファイラーと呼ばれる科学捜査官の育成・派遣などに力を注いでいる。プロファイリング捜査への予算も大量に注込まれており、これからの刑事捜査は科学捜査主導になっていくと、警視庁幹部の間で噂になっている。
プロファイラー
プロファイリングする人のこと。警視庁としてはプロファイラーを募集中で、採用後は幹部︵警部補以上︶の警察官として任命する。いわゆる、警察の専門職採用である。プロファイラーが刑事捜査に導入された場合、彼等は捜査幹部として事件解決への主導的立場をとることとなる。
プロファイリングと刑事
プロファイリング主導の捜査体制では、刑事の経験や勘といったものに頼らなくとも、犯人割り出しがスムーズに行えるので、従来の刑事による捜査活動は、不要となる。すなわち、犯罪捜査の現場で刑事が行うことといえば、プロファイラーが出した犯人像に合致する者を、警察へ連行してくるだけとなる。
それだけ出来れば、あとの捜査は最新の科学捜査法で行うこととなり、従来のように、刑事が事件捜査の殆どを担当しなくともよくなる。また、事情聴取についても、従来、刑事が取調室で行う方法ではなく、検査官が極めて科学的な方法により、被疑者の聴取を行う体制となるので、刑事が行う職務が減っていくであろうと予想される。
導入のきっかけ
日本でも劇場型犯罪が多く発生し出し、高度成長時代以降、犯罪も広域化し、挙句の果てに国際化し、きわめて多様化、分割化され目的意識のない猟奇犯罪や、カルト犯罪も横行してきた。さらに、ネット犯罪など被疑者の姿は見えないものも多く発生し、従来の刑事の勘や聞き込みといった、いわゆる﹁事件の筋を読んで容疑者に辿り着く捜査方法﹂に限界が生じたことが要因とみられる。
1997年に起きた神戸連続児童殺傷事件の捜査にも、プロファイリングの手法が用いられ世間の注目を集めたが、大抵導出された犯人像は﹁中年で独身のオタク﹂という、宮崎勤事件以来の固定観念に基づく物であった。それに対し、実際に判明した犯人は当時14歳の一般的な少年であった事から、プロファイリングの難しさを知らしめると共に、大きく信頼を損なう事になった︵ただしロバート・K・レスラーがテレビ局の要請で行ったプロファイルはほぼ当たっていた︶。
科学捜査主導の狙い
警視庁が、広域化する近代犯罪に立ち向かう為の手段として、科学捜査・プロファイリングを推進するのは、従来の大規模捜査員による犯罪捜査より、より合理的な小人数で大規模犯罪に対して、捜査活動を行うことが可能になると考えているからである。これが実現すれば、低予算でかつ能率的な刑事捜査が可能になるだろうといわれる。
さらに、最新の科学鑑識法の導入による被疑者の取り調べによる効果も期待され、この方法を用いれば犯罪者は事情聴取において嘘の供述ができなくなり、確実に迅速に落とすことが可能となる。このため、冤罪や強硬に自供をうながすといったこともなくなるであろうと期待されている。
最近のプロファイリング発動事件
世田谷一家惨殺事件の際、すでに現場に捜査員がかけつけたとき、被疑者は逃走をはかったあとだったため、すぐさま科学捜査研究所が動き出すこととなった。プロファイラーの犯人像推定によれば、下記のプロファイリング結果が挙げられていた。しかし、発生から数年を経た現在も捜査に進展は見られておらず、プロファイリング結果を疑問視する声も上がっている。
●被疑者は10代~20代中頃、長髪で犯罪嗜好癖あり
●逃亡は、おそらく幼稚なもので、国際的に逃げたという可能性は低い。
●国内に潜伏しているか、自己の犯罪達成を完結させるため自殺した可能性あり。
●出身は北部近辺で、現場周辺に土地勘がない男。
●残忍かつ冷酷だが、目的意識はさほどない。
●金銭目的というより、犯罪嗜好概念による動機が強い
ミスの危険性
プロファイリングによって捜査方針が決められると、仮に間違った場合、大幅な回り道と莫大な経費が水の泡になる為、プロファイラーの重圧はとても大きいとレスラーは指摘している。
例えば、落下などで偶然そうなっただけというものを、捜査官が犯人のメッセージ・手掛かりとして読み取ったり、プロファイリングの知識を有する犯人が、犯人像を誤誘導するために﹁自分の生活とは何の関わりもない遺留品を残しておく﹂などの工作をしている可能性もあり、プロファイリングの絶対化は危険であるという指摘もなされている。
また、プロファイリングの推定は、あくまで固定観念の憶測や人種差別に過ぎず、犯人像を限定してしまうために犯罪解決の妨げになるとの意見もある。例えば、テロ行為=イスラム教徒︵アラブ系︶の犯行といった固定観念から、体に爆弾を巻きつけて自爆した犯人を指して、﹁イスラム教徒﹂であると結論付けるのは捜査の障害になり得る。また、このような決め付けは人種・宗教差別につながる。