「江戸時代の三貨制度」を編集中
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また品位低下を伴う吹替えの度、商人らは品位の高い旧銀を退蔵し、しばしば銀相場の高騰を招いた。[[元文]]元年︵[[1736年]]︶の吹替えの際も商人が旧銀を退蔵し銀相場を吊り上げているとして[[町奉行]]の[[大岡忠相]]は両替商を呼びつけ、御定相場を守るよう通達を出して対立したが、この年、忠相が[[寺社奉行]]に昇格したのは商人が裏で手を回すことによる敬遠人事であったとする説もある<ref>[[#RyogaeNendaiki-0|両替年代記(1932), p220-222.]]</ref><ref>[[#Kawai2006|河合(2006), p128-133.]]</ref>。
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また品位低下を伴う吹替えの度、商人らは品位の高い旧銀を退蔵し、しばしば銀相場の高騰を招いた。[[元文]]元年︵[[1736年]]︶の吹替えの際も商人が旧銀を退蔵し銀相場を吊り上げているとして[[町奉行]]の[[大岡忠相]]は両替商を呼びつけ、御定相場を守るよう通達を出して対立したが、この年、忠相が[[寺社奉行]]に昇格したのは商人が裏で手を回すことによる敬遠人事であったとする説もある<ref>[[#RyogaeNendaiki-0|両替年代記(1932), p220-222.]]</ref><ref>[[#Kawai2006|河合(2006), p128-133.]]</ref>。
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吹替えのうち元禄期、宝永期および天保期は財政再建を主目的とし、元禄期および元文期は通貨量増大の目的もあったとされるが、実質的に通貨量が増大したかについてはその意味や効果の究明を行わずに簡単に結論を出せるものではなく、例えば中国人は[[長崎市|長崎]]において日本の丁銀を南鐐銀である[[銀錠]]に改鋳して用い、これに伴い大坂の両替商など商人らの取引に於いても貨幣の素材価値を交換の媒体として重視し、当時の通貨の未発達な段階に於いて品位を低下させ名目価値を増大させても、実質価値としての通貨増大という経済的意義にはつながっていなかった<ref>[[#Hisamitsu1976|久光(1976), p101-106.]]</ref>。また文政期のものは放漫財政の結果による赤字補填を主とするものであり{{Efn|文政元年に二分金改鋳の議が起こったときに、[[岡本花亭]]は勘定方の小吏として反対の意見を具申していれられず、そのまま職を退いている<ref>{{Cite book|和書|author=富士川英郎|year=1966|title=江戸後期の詩人たち|publisher=麥書房| |
吹替えのうち元禄期、宝永期および天保期は財政再建を主目的とし、元禄期および元文期は通貨量増大の目的もあったとされるが、実質的に通貨量が増大したかについてはその意味や効果の究明を行わずに簡単に結論を出せるものではなく、例えば中国人は[[長崎市|長崎]]において日本の丁銀を南鐐銀である[[銀錠]]に改鋳して用い、これに伴い大坂の両替商など商人らの取引に於いても貨幣の素材価値を交換の媒体として重視し、当時の通貨の未発達な段階に於いて品位を低下させ名目価値を増大させても、実質価値としての通貨増大という経済的意義にはつながっていなかった<ref>[[#Hisamitsu1976|久光(1976), p101-106.]]</ref>。また文政期のものは放漫財政の結果による赤字補填を主とするものであり{{Efn|文政元年に二分金改鋳の議が起こったときに、[[岡本花亭]]は勘定方の小吏として反対の意見を具申していれられず、そのまま職を退いている<ref>{{Cite book|和書|author=富士川英郎|year=1966|title=江戸後期の詩人たち|publisher=麥書房|pages=P.129}}</ref>。}}、[[安政]]から[[万延]]期のものは1859年の開港に伴う小判流出を抑制する目的のものであった。
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一方、[[正徳 (日本)|正徳]]・享保の吹替えは、貨幣の品位を上げ慶長金銀に戻すという異例のものであり、これは[[新井白石]]の﹁金銀の如き天地から生まれた大宝を人工を加えて質を落とすことは天地の理にもとるものである﹂﹁単なる経済上の計算に基づくものではなく天下の主たるものが発行する貨幣が粗悪なものであってはならない。悪質なものを出せば天譴をうけて天災地変を生ずるおそれがある。民の信頼を失わなければ天下を治めることができる<ref>[[#NihonnoRekishi1975|日本の歴史(1975), p74-77.]]</ref>﹂として本来品位である慶長金銀に復旧すると言うものであった。[[宝永小判|宝永金]]2両を新金1両と引替えるという[[デノミネーション]]的性格もあったが、戦国時代に最盛期を迎えた金山および銀山からの産出は寛永年間を過ぎたあたりから蔭りを見せ、元禄期にはすっかり低迷しており<ref>[[#Kobata1968|小葉田(1968), p51-52.]]</ref>、加えて多額に上る生糸貿易と中心とする金銀の流出により絶対的不足を来たし通貨量は減少し、次第にデフレ不況に陥ることになった。
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一方、[[正徳 (日本)|正徳]]・享保の吹替えは、貨幣の品位を上げ慶長金銀に戻すという異例のものであり、これは[[新井白石]]の﹁金銀の如き天地から生まれた大宝を人工を加えて質を落とすことは天地の理にもとるものである﹂﹁単なる経済上の計算に基づくものではなく天下の主たるものが発行する貨幣が粗悪なものであってはならない。悪質なものを出せば天譴をうけて天災地変を生ずるおそれがある。民の信頼を失わなければ天下を治めることができる<ref>[[#NihonnoRekishi1975|日本の歴史(1975), p74-77.]]</ref>﹂として本来品位である慶長金銀に復旧すると言うものであった。[[宝永小判|宝永金]]2両を新金1両と引替えるという[[デノミネーション]]的性格もあったが、戦国時代に最盛期を迎えた金山および銀山からの産出は寛永年間を過ぎたあたりから蔭りを見せ、元禄期にはすっかり低迷しており<ref>[[#Kobata1968|小葉田(1968), p51-52.]]</ref>、加えて多額に上る生糸貿易と中心とする金銀の流出により絶対的不足を来たし通貨量は減少し、次第にデフレ不況に陥ることになった。
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== 参考文献 == |
== 参考文献 == |
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* {{Cite book|和書|author=青山礼志 |title=新訂 貨幣手帳・日本コインの歴史と収集ガイド |edition= |series= |volume= |publisher=ボナンザ |date=1982 |isbn= |ref=Aoyama1982}} |
* {{Cite book|和書|author=青山礼志 |title=新訂 貨幣手帳・日本コインの歴史と収集ガイド |edition= |series= |volume= |publisher=ボナンザ |date=1982 |isbn= |ref=Aoyama1982}} |
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* {{Cite book|和書|author=小葉田淳 |
* {{Cite book|和書|author=[[小葉田淳]] |title=日本の貨幣 |edition= |series= |volume= |publisher=[[至文堂]] |date=1958 |isbn= |ref=Kobata1958}} |
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* {{Cite book|和書|author=小葉田淳 |title=日本鉱山史の研究 |edition= |series= |volume= |publisher=[[岩波書店]] |date=1968 |isbn= |ref=Kobata1968}} |
* {{Cite book|和書|author=小葉田淳 |title=日本鉱山史の研究 |edition= |series= |volume= |publisher=[[岩波書店]] |date=1968 |isbn= |ref=Kobata1968}} |
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* {{Cite book|和書|author=久光重平 |title=日本貨幣物語 |edition=初版 |series= |volume= |publisher=[[毎日新聞社]] |date=1976 |asin=B000J9VAPQ |ref=Hisamitsu1976}} |
* {{Cite book|和書|author=久光重平 |title=日本貨幣物語 |edition=初版 |series= |volume= |publisher=[[毎日新聞社]] |date=1976 |asin=B000J9VAPQ |ref=Hisamitsu1976}} |
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* {{Cite book|和書|author=今村啓爾 |title=富本銭と謎の銀銭 -貨幣誕生の真相- |publisher=小学館 |date=2001 |isbn=978-4-09-626124-8 |ref=Imamura2001}} |
* {{Cite book|和書|author=今村啓爾 |title=富本銭と謎の銀銭 -貨幣誕生の真相- |publisher=小学館 |date=2001 |isbn=978-4-09-626124-8 |ref=Imamura2001}} |
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* {{Cite book|和書|author=草間直方 |title=三貨図彙 |publisher= |date=1815 |ref=Kusama1815}} |
* {{Cite book|和書|author=草間直方 |title=三貨図彙 |publisher= |date=1815 |ref=Kusama1815}} |
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* {{Cite book|和書|author=河合敦 |
* {{Cite book|和書|author=[[河合敦]] |title=なぜ偉人たちは教科書から消えたのか |publisher=[[光文社]] |date=2006 |isbn= |ref=Kawai2006}} |
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* {{Cite book|和書|author=三上隆三 |
* {{Cite book|和書|author=[[三上隆三]] |title=江戸の貨幣物語 |edition= |series= |volume= |publisher=[[東洋経済新報社]] |date=1996 |isbn=978-4-492-37082-7 |ref=Mikami1996}} |
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* {{Cite book|和書|author=村上 直、高橋 正彦 |title=日本史資料総覧 |edition= |series= |volume= |publisher=[[東京書籍]] |date=1986 |isbn= |ref=Murakami1986}} |
* {{Cite book|和書|author=村上 直、高橋 正彦 |title=日本史資料総覧 |edition= |series= |volume= |publisher=[[東京書籍]] |date=1986 |isbn= |ref=Murakami1986}} |
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* {{Cite book|和書|author=滝沢武雄 |
* {{Cite book|和書|author=[[滝沢武雄]] |title=日本の貨幣の歴史 |publisher=[[吉川弘文館]] |date=1996 |isbn=978-4-642-06652-5 |ref=Takizawa1996}} |
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* {{Cite book|和書|author=瀧澤武雄,西脇康 |title=日本史小百科「貨幣」 |publisher=[[東京堂出版]] |date=1999 |isbn=978-4-490-20353-0 |ref=Nishiwaki1999}} |
* {{Cite book|和書|author=瀧澤武雄,西脇康 |title=日本史小百科「貨幣」 |publisher=[[東京堂出版]] |date=1999 |isbn=978-4-490-20353-0 |ref=Nishiwaki1999}} |
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* {{Cite book|和書|author=田谷博吉 |title=近世銀座の研究 |publisher=吉川弘文館 |date=1963 |isbn=978-4-6420-3029-8 |ref=Taya1963}} |
* {{Cite book|和書|author=田谷博吉 |title=近世銀座の研究 |publisher=吉川弘文館 |date=1963 |isbn=978-4-6420-3029-8 |ref=Taya1963}} |
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* {{Cite book|和書|editor= |title=図説 日本の歴史12変動する幕政 |edition= |series= |volume= |publisher=[[集英社]] |date=1975 |isbn= |ref=NihonnoRekishi1975}} |
* {{Cite book|和書|editor= |title=図説 日本の歴史12変動する幕政 |edition= |series= |volume= |publisher=[[集英社]] |date=1975 |isbn= |ref=NihonnoRekishi1975}} |
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* {{Cite book|和書|editor=日本貨幣商協同組合 |title=日本の貨幣-収集の手引き- |edition= |series= |volume= |publisher=日本貨幣商協同組合 |date=1998 |isbn= |ref=Tebiki1998}} |
* {{Cite book|和書|editor=日本貨幣商協同組合 |title=日本の貨幣-収集の手引き- |edition= |series= |volume= |publisher=日本貨幣商協同組合 |date=1998 |isbn= |ref=Tebiki1998}} |
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* {{Cite book|和書|editor=三井文庫 |title=近世後期における主要物価の動態 |edition= |series= |volume= |publisher=[[東京大学出版会]] |date=1989 |ref=Mitsui1989}} |
* {{Cite book|和書|editor=三井文庫編 |title=近世後期における主要物価の動態 |edition= |series= |volume= |publisher=[[東京大学出版会]] |date=1989 |ref=Mitsui1989}} |
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* {{Cite book|和書|editor=江戸本両替仲間編、三井高維校註 |title=校註 両替年代記 原編 |edition= |series= |volume= |publisher=岩波書店 |date=1932 |ref=RyogaeNendaiki-0}} |
* {{Cite book|和書|editor=江戸本両替仲間編、三井高維校註 |title=校註 両替年代記 原編 |edition= |series= |volume= |publisher=岩波書店 |date=1932 |ref=RyogaeNendaiki-0}} |
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* {{Cite book|和書|editor=三井高維 |title=新稿 両替年代記関鍵 巻二考証篇 |edition= |series= |volume= |publisher=岩波書店 |date=1933 |ref=RyogaeNendaiki-2}} |
* {{Cite book|和書|editor=三井高維編 |title=新稿 両替年代記関鍵 巻二考証篇 |edition= |series= |volume= |publisher=岩波書店 |date=1933 |ref=RyogaeNendaiki-2}} |
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