フェルト
ヒツジやラクダなどの動物の毛を薄く板状に圧縮して作るシート状製品
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/d/d4/Felt_cloth.jpg/250px-Felt_cloth.jpg)
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/b/b3/Felt_of_wool_and_rayon.jpg/250px-Felt_of_wool_and_rayon.jpg)
概要
編集
哺乳類の体毛の表面は、ウロコ状のキューティクルで覆われている。そのため、熱や圧力、振動を加えることでキューティクルが互いに噛み合い、絡み合って離れなくなる性質がある。この現象を縮絨︵しゅくじゅう︶あるいはフェルト化と呼ぶが、水、特に石鹸水のようなアルカリ性の水溶液を獣毛に含ませるとキューティクルが開いて互いに噛み合いやすくなり、縮絨はより促進される。この性質を利用して獣毛を広げて石鹸水などを含ませて圧力をかけ、揉んだり巻いて転がしたりすることでフェルトが作られる。
性質としては、引っ張りや摩擦に対する抵抗力は比較的弱いが、断熱、保温、クッション性に優れている点が挙げられる。用途としては、多くの産業用や工業製品、服飾製品・絨毯・カーペットなど、幅広い分野で用いられている。ピアノのハンマーのカバーも代表的なフェルト製品である。また芸術分野では、フェルト彫刻にも使用されている。
いったん毛織物に織ったものを通常のフェルト︵圧縮フェルト︶状になるまで縮絨したものを織フェルトと呼び、これは圧縮フェルトに比べて、引っ張りや摩擦に比較的抵抗力がある。
歴史
編集モンゴルの伝統的製法
編集
フェルト製作には、羊毛の山をよくしなる杖で念入りに叩いて膨らませる。繊維には粗なうろこ状の結節があるので、叩くうちにもつれ合い、やがて軽い屑綿のようになる。これを50cm位の厚さにして筵の上に広げ、乳漿を散布する。
この敷物の両側に男女数人ずつが向かい合って並び、両側から一本の棒杭を芯にして捲いたり戻したりしながら、筵ともども固く巻き込む。これが終わると、馬毛の編索でぐるぐると縛り上げ、さらに両端にはしっかりと綱をかける。これを一人もしくは二人の騎手がひきずりつつ原野を走り回るのであるが、このときには好んで元気のよい種牡馬が用いられる。
一時間ほどすると、筵をほどいて女たちが新しいフェルトの表面を毛でこすって滑らかにし、再び乳漿をふりかけ、捲き込んで馬に引かせる。この作業を四、五回反復した後、フェルトだけを固く捲いてそのまま乾燥させれば、風雨に耐える堅牢な製品に仕上がる。
フェルトは用途に応じて大小厚薄自由に作られるが、帳幕の覆いにするものは最も厚いものを用いる。古くなるほど締まって雨水を通さなくなるといわれる。
毛氈(もうせん)
編集工業製品としてのフェルト
編集脚注
編集参考文献
編集- 道明三保子/著「フェルト」『世界大百科事典 24』より(平凡社、1988年)ISBN 4-582-02200-6
- 八杉龍一ほか/編『岩波生物学辞典 第4版』(岩波書店、1996年)ISBN 4-00-080087-6
- 北村哲郎/著「毛氈」『国史大辞典 13』より(吉川弘文館、1992年)ISBN 4-642-00513-7
- 小泉和子/著「毛氈」『日本史大事典 6』より(平凡社、1994年)ISBN 4-582-13106-9
関連項目
編集
●毛織物
●羊毛フェルト - 手芸として行われる
●フェルトペン - サインペン、マジックペンなどの商品名でも知られる。
●帽子屋 - 18世紀頃にフェルトの処理に水銀が使われていた。当時は無害と考えられていたが、水銀中毒となった帽子屋が見られるようになり、ドイツでHutmachersyndromと呼ばれたり、イギリスで Mad as a hatterという慣用句が生まれた。ルイスキャロルのマッドハッターはそういった事情から生まれた。
外部リンク
編集- フェルト
- 西潟義雄、「フェルトの研究」 『繊維工業学会誌』 1941年 7巻 12号 p.593-621, doi:10.11524/fiber1935.7.593
- 西潟義雄、「二枚さきフェルトの研究」 『繊維工業学会誌』 1945年 1巻 10-12号 p.623-629, doi:10.2115/fiber.1.623