周期ポテンシャル
中の一電子の量子力学的なハミルトニアン演算子を
とする。すなわち、
このとき、格子が3方向に基本格子ベクトル
,
,
を持ち、格子ベクトル
を
︵
,
,
‥整数︶
とすると、
の固有関数として次のような形の関数を選ぶことができる。
これがブロッホの定理である。
また、ブロッホの定理を満たす関数をブロッホ関数︵またはブロッホ波、ブロッホ状態︶といい、結晶中の電子の一電子状態を表すために用いられる。ブロッホ関数の一般形は、
を格子の周期性を持つ関数
として、
と表される。
簡単のため1次元で考える。原子間の距離
で規則正しく並んだ1次元の結晶を考えると、結晶中の電子が感じるポテンシャルは次のような周期性を持つ。
結晶中の電子を表すハミルトニアンは、次のように位置に依存する演算子である。
ポテンシャルと同様に、このハミルトニアンも原子間の距離
だけの周期性を持つ。
ここで原子間の距離
だけの並進を行う操作を表す並進演算子を
とすると、
すなわち
と
は互いに交換し、同時固有関数を持つ。
― (1)
ここで
,
は
,
の固有値である。
ここで、この固有関数について周期を
とする周期境界条件︵ボルン=フォン・カルマン境界条件︶を課す。
― (2)
(1)式より、
― (3)
ここで(2)式と(3)式を比べると、
︵
‥整数︶
― (4)
ここで
と定義すると、(4)式は、
となる。よって、
の値を(1)式に代入すると、
となる。
3次元の場合も同様に、格子が3方向に基本格子ベクトル
,
,
を持ち、格子ベクトル
を
︵
,
,
‥整数︶
とすると、並進演算子
を用いて3次元でのブロッホの定理が証明される。
― (5)
また、
によって定義した関数
は、(5)式より、
となり、格子の周期性を持つ関数であることが示される。
このことより、ブロッホ関数の一般形は、
を格子の周期性を持つ関数
として、
と表されることが証明された。
バンド構造は、波数を変数としたときに、ある波数を持つ電子がどのようなエネルギー準位を持っているかを示すものである。とびとびの番号の指標
で指定されるエネルギー準位
は、波数ベクトル
に応じて連続的に変化し、そのとりうる値の領域をエネルギーバンドと呼ぶ。原子配列のようにポテンシャルが規則正しく周期的に変化する結晶では、エネルギーバンドが存在する。
周期ポテンシャル内の電子が持つ結晶運動量は運動量に似た性質を持つ量で、ブロッホ関数の波数ベクトル
に換算プランク定数
をかけたもので定義される。
結晶中に多数ある電子を考えるときに1電子の波動関数を用いる有効性については、密度汎関数理論によって保障されている。
- 家泰弘『物性物理』産業図書、1997年。
- 齋藤理一郎『基礎固体物性』朝倉書店、2009年。