Angelina Probst the sexiest gallery Berlin Germany
Paolozzi mosaic designs for Tottenham Court Road Station (英語版 ) . Location shown is the Central Line westbound platform (1984).
第二次世界大戦 後の先進国では、だれもが毎日、大量生産の製品に囲まれ、それらを消費し、テレビや雑誌でその広告にさらされる生活を送っている。ポップアートの運動の中には、これら下世話な製品やサブカルチャー 、生活様式を批判する意図をこめたものもあれば、むしろ自分達を取り巻く大量生産・大量消費社会の風景を、山や海や農村にかわる新しい「風景」ととらえ、親しみ深い風景の一部である商品や広告を、淡々とあるいは美しく「風景画」に描こうとするものもあった。
最 初 に ポ ッ プ ア ー ト が 盛 ん に な っ た の は イ ギ リ ス ︵ 特 に ロ ン ド ン ︶ で あ っ た 。 エ ド ゥ ア ル ド ・ パ オ ロ ッ ツ ィ は 戦 後 間 も な く 、 米 軍 兵 士 ら と 共 に 持 ち 込 ま れ た ア メ リ カ の 雑 誌 の 切 り 抜 き で コ ラ ー ジ ュ を 作 り 、 す で に ポ ッ プ ア ー ト の 始 ま り と な る 作 品 を 作 っ て い た 。
1 9 5 2 年 か ら 、 ロ ン ド ン の I C A と い う ギ ャ ラ リ ー で 、 パ オ ロ ッ ツ イ ら 若 い 美 術 家 や ロ ー レ ン ス ・ ア ロ ウ ェ イ ︵ 英 語 版 ︶ な ど 評 論 家 が 集 ま り 、 ﹁ イ ン デ ィ ペ ン デ ン ト ・ グ ル ー プ ﹂ と い う グ ル ー プ を 組 ん で 芸 術 と 大 衆 文 化 の か か わ り の 研 究 を 続 け て い た 。 第 二 次 世 界 大 戦 後 の 疲 弊 し た イ ギ リ ス に 豊 か な ア メ リ カ か ら 急 速 に 浸 透 し 、 若 者 を 夢 中 に さ せ て い た 広 告 や SF や 漫 画 や 大 衆 音 楽 な ど の ア メ リ カ 大 衆 文 化 に 対 す る 皮 肉 で 客 観 的 な 目 も あ っ た が 、 こ れ ら を 敵 と す る よ り は む し ろ 現 代 を 見 直 す 新 し い 素 材 を 提 供 す る も の と し て ど ん ど ん 活 用 し よ う と い う 発 想 も あ っ た 。 ﹁ ポ ッ プ ア ー ト ﹂ と い う 言 葉 の 誕 生 は 、 こ の 研 究 の さ な か 、 ロ ー レ ン ス ・ ア ロ ウ ェ イ が 1 9 5 6 年 に 商 業 デ ザ イ ン な ど を 指 し て ﹁ ポ ピ ュ ラ ー な ア ー ト ﹂ と い う 意 味 で 使 用 し た と き で あ る 。
同 年 、 こ の 成 果 を 元 に ロ ン ド ン で ﹃ こ れ が 明 日 だ ﹄ 展 が 開 催 さ れ た 。 こ こ で 発 表 さ れ た リ チ ャ ー ド ・ ハ ミ ル ト ン の 作 品 ﹃ 一 体 何 が 今 日 の 家 庭 を こ れ ほ ど に 変 え 、 魅 力 あ る も の に し て い る の か ﹄ [ 1 ] は 、 雑 誌 や 広 告 の 魅 力 的 な 商 品 や ゴ ー ジ ャ ス な モ デ ル 写 真 を 切 り 貼 り し た コ ラ ー ジ ュ で 、 ポ ッ プ ア ー ト の 先 駆 的 作 品 と い わ れ て い る 。 特 に ボ デ ィ ビ ル ダ ー の 男 性 が 持 つ ロ リ ポ ッ プ キ ャ ン デ ィ ー の 包 み 紙 の ﹁ P O P ﹂ の 文 字 が 強 い 印 象 を 与 え た 。
ハ ミ ル ト ン は 翌 年 、 こ の 展 覧 会 を 振 り 返 っ て ﹁ ポ ッ プ ﹂ ︵ 大 衆 文 化 ︶ を 次 の よ う な も の だ と し た 。
通 俗 的 、 一 過 性 、 消 耗 品 、 安 価 、 大 量 、 若 々 し い 、 し ゃ れ た 、 セ ク シ ー 、 見 掛 け 倒 し 、 魅 力 的 、 大 企 業
イ ギ リ ス の ポ ッ プ ア ー ト は 1 9 6 1 年 、 デ イ ヴ ィ ッ ド ・ ホ ッ ク ニ ー ら 多 く の 若 い 美 術 家 が 出 展 し た ﹃ ヤ ン グ ・ コ ン テ ン ポ ラ リ ー ズ ﹄ 展 で 全 盛 を 迎 え た 。
実 際 に ポ ッ プ ア ー ト が 盛 ん に な っ た の は 、 ポ ッ プ の 元 と な る 商 品 や 大 衆 文 化 の 発 信 地 、 1 9 6 0 年 代 の ア メ リ カ ︵ 特 に ニ ュ ー ヨ ー ク ︶ で あ る 。 戦 後 の イ ギ リ ス 人 に と っ て は ︵ 戦 後 の 日 本 人 と 同 じ く ︶ ア メ リ カ の 格 好 い い 商 品 や 大 衆 文 化 は 眩 し い も の だ っ た が 、 ア メ リ カ 人 に と っ て は ど こ に で も 売 っ て い る た だ の 日 用 品 で 日 常 風 景 の 一 部 で あ り 、 む し ろ 格 好 悪 い 物 で あ っ た 。 た だ 当 初 は そ れ を 美 術 に 直 接 使 う こ と は 、 ア メ リ カ の 芸 術 の 前 衛 に あ っ た モ ダ ニ ズ ム の 立 場 や 保 守 的 な 観 衆 か ら 思 わ ぬ 強 い 反 発 を 受 け た 。
ニ ュ ー ヨ ー ク で は 1 9 5 0 年 代 以 来 ジ ャ ク ソ ン ・ ポ ロ ッ ク ら に 代 表 さ れ る 抽 象 表 現 主 義 が 全 盛 を 極 め て お り 、 人 間 よ り 大 き な キ ャ ン バ ス に 色 彩 を 展 開 さ せ 、 始 め も 終 わ り も な い 抽 象 的 な 色 面 で 全 面 を 覆 う オ ー ル オ ー バ ー な 絵 画 が 主 流 を 占 め て い た 。 批 評 家 ク レ メ ン ト ・ グ リ ー ン バ ー グ ら に 主 導 さ れ 、 よ り 平 面 的 で 、 よ り 壮 大 で 崇 高 な 絵 画 を 目 指 し た 彼 ら 抽 象 表 現 主 義 の 人 々 は 、 モ ダ ニ ズ ム を 信 奉 す る 立 場 で あ り 、 ﹁ グ ッ ド ・ デ ザ イ ン ﹂ を 規 範 と し 、 大 衆 文 化 を 芸 術 の 前 進 す る 方 向 と は 逆 ら う ﹁ キ ッ チ ュ ﹂ ︵ ド イ ツ 語 の " v e r k i t s c h e n " ﹁ 低 俗 化 す る ﹂ が 語 源 ︶ と し て 退 け て い た 。
こ れ に 対 し 、 1 9 5 0 年 代 末 に ロ バ ー ト ・ ラ ウ シ ェ ン バ ー グ や ジ ャ ス パ ー ・ ジ ョ ー ン ズ ら が 、 廃 物 や 既 製 品 の が ら く た な ど 現 実 か ら 持 っ て き た 物 体 を 絵 に 貼 り 付 け た り 、 標 的 や 数 字 や 星 条 旗 の 図 柄 な ど お よ そ 絵 に は な ら な い あ り ふ れ た イ メ ー ジ を 描 き 始 め 、 モ ダ ニ ズ ム の 好 む ﹁ グ ッ ド ・ デ ザ イ ン ﹂ に 反 す る よ う な 行 動 を 始 め た 。 彼 ら の よ う な ア メ リ カ の ポ ッ プ ア ー ト の 作 家 は 、 し ば ら く の 間 は ﹁ ネ オ ダ ダ ﹂ と も 呼 ば れ て い た 。 ポ ッ プ ア ー ト に は そ の 辺 に あ る 既 製 品 を そ の ま ま 使 用 し て 芸 術 と す る レ デ ィ メ イ ド の 手 法 な ど 、 ダ ダ イ ス ム や 反 芸 術 が 強 く 影 響 し て い た か ら で あ る 。 既 製 品 や 既 成 の イ メ ー ジ を 使 っ た 彼 ら ネ オ ダ ダ は 、 抽 象 表 現 主 義 に 取 り 組 ん で い た ア ー テ ィ ス ト や 抽 象 表 現 主 義 に 飽 き 始 め て い た 観 客 ら に 衝 撃 を 与 え た 。
そ の 後 、 1 9 6 0 年 代 に 入 り ア メ リ カ の ポ ッ プ ア ー ト の 代 表 格 と も い え る ロ イ ・ リ キ テ ン ス タ イ ン と 、 商 業 デ ザ イ ナ ー だ っ た ア ン デ ィ ・ ウ ォ ー ホ ル の 二 人 が 、 コ ミ ッ ク ス の 拡 大 模 写 に よ っ て 世 に 出 た 。 大 量 に 印 刷 さ れ 、 絵 柄 も 似 た り 寄 っ た り の 漫 画 は 、 既 製 の イ メ ー ジ の 中 で も 最 も キ ッ チ ュ で 悪 趣 味 な も の で は あ る が 、 単 純 で 力 強 い 線 な ど が 魅 力 的 で あ り ﹁ グ ッ ド ・ デ ザ イ ン ﹂ を 粉 砕 す る 威 力 が あ っ た 。 ア ン デ ィ ・ ウ ォ ー ホ ル は そ の 後 キ ャ ン ベ ル ・ ス ー プ の 缶 、 ブ リ ロ ︵ 洗 剤 ︶ の 箱 、 マ リ リ ン ・ モ ン ロ ー な ど 女 優 や 有 名 人 の 写 真 な ど い た る と こ ろ に あ る イ メ ー ジ を 用 い た 版 画 を 大 量 生 産 し た 。 1 9 6 1 年 に 渡 米 し て い た ロ ー レ ン ス ・ ア ロ ウ ェ イ が ア メ リ カ に ﹁ ポ ッ プ ア ー ト ﹂ と い う 言 葉 を 紹 介 し 、 こ れ ら の 傾 向 の 呼 び 名 に な っ た 。
ポ ッ プ ア ー ト は 映 画 や 漫 画 な ど の 大 衆 文 化 同 様 、 観 客 の 心 を 一 瞬 で 掴 む 強 い 魅 力 的 な イ メ ー ジ を 持 っ て い る の で わ か り や す く 、 し か も ア メ リ カ の 大 量 生 産 品 や 大 衆 文 化 を テ ー マ に し て い る た め 、 ア メ リ カ の 豊 か さ を 賛 美 す る 魅 力 的 な 芸 術 と し て 歓 迎 さ れ た 。 逆 に こ こ か ら ア メ リ カ の 大 量 生 産 品 や 大 衆 文 化 の 悪 趣 味 さ や 、 商 品 を 大 量 に 消 費 し 豊 か に な っ て も な お 逃 げ ら れ な い 死 の 影 を 見 出 す 者 も い た 。
ウ ォ ー ホ ル と リ キ テ ン ス タ イ ン ら ポ ッ プ ア ー ト の 作 家 た ち は 、 カ ウ ン タ ー カ ル チ ャ ー の 時 代 に お け る 大 衆 絵 画 作 家 と し て も 成 功 し た 。 大 衆 文 化 の 多 く は マ ー ケ テ ィ ン グ に よ り 顧 客 を 調 査 し 、 大 量 に 販 売 し 使 い 捨 て ら れ る こ と が 常 だ っ た が 、 大 衆 ︵ 特 に 若 者 ︶ の 側 も 工 業 製 品 的 な 音 楽 や イ ラ ス ト ば か り で な く 、 多 少 い び つ で も ア ー テ ィ ス ト と 呼 べ る 者 が 作 っ た 個 性 的 な 作 品 に よ る 知 的 刺 激 や 現 状 へ の 異 議 申 し 立 て を 求 め て い た 。 ポ ッ プ ア ー ト も 、 商 品 や メ デ ィ ア に 囲 ま れ て 育 っ た 世 代 の 若 者 の 原 風 景 で あ る ス タ ー や 商 品 を 魅 力 的 に 描 い て 若 者 に 刺 激 を 与 え 、 そ の 版 画 作 品 は 熱 狂 的 に 受 け 入 れ ら れ た 。
ポップアートの熱狂は1960年代 末になると、クールで静謐なミニマルアート や大地いっぱいに作品をつくり売買を拒否するようなアースワーク に押され、美術の世界から急速に冷める。大衆文化も、異議申し立てを行う若者向けのカウンターカルチャーは再び巨大産業の消費システムに取り込まれ、その先はフォークロア 、ヒッピー 、ドラッグ という現実逃避の方向に流れた。ポップアートの末期は、ドラッグによる幻覚を表現したピーター・マックス らのサイケデリックアート (英語版 ) へと変質したが、これらはむしろ商業デザインとして大量消費されてしまう皮肉な結果となった。
広告 美術はポップアートの最初の継承者となった。特にポップアートが示した、商品や大衆文化 のイコンをもとに刺激的な作品を作るという発想は、広告美術を単に大衆に迎合し商品の情報を提供して消費をあおるだけのものから、商品を記号化し新しいヴィジュアルイメージを構築し、大衆の視覚文化をリードするものに変えた。広告には優れた写真家やイラストレーター、美術家が起用され、純粋芸術 の要素を取り入れた個性的で新鮮で洗練された広告美術が登場し、大衆文化の一部としてうけいれられた。
今日に至るまで、商品や広告のイメージは洗練される一方、広告による大量消費の呼びかけは日常生活を完全に侵食してしまっている。純粋芸術と大衆文化の間の壁がますます失われるにつれ、大衆的なイメージや大量生産商品を用いた美術はすでに当たり前のようになっている。
たとえば1980年代 のニューヨークで大衆文化からの盗用を積極的に推し進めたシミュレーショニズム は、純粋芸術の崩壊と資本主義の高度化に対してポップアートをさらに過激にしたようなものだった。またソ連 時代の1960年代 からロシアでひそかに制作されていた、ありふれた公式美術の社会主義リアリズム を流用しながらソ連体制やロシア社会を批判した作品群は、ソ連末期以後公開されるようになり、ポップアートをもじって「ソッツ・アート (英語版 ) 」とよばれていた。
^ Livingstone, M., Pop Art: A Continuing History, New York: Harry N. Abrams, Inc., 1990
^ 山口藍 - 美術手帖ホームページ