選抜射手
(マークスマンから転送)
狙撃手との違い
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軍隊において、分隊や小隊規模で運用される選抜射手に対し、狙撃手は観測手や通信手などの少人数で行動する。任務も通常の歩兵運用とは異なり、戦術、サバイバル技能や射撃面などで、より専門的技能を必要とする。服装も敵に発見されないようによく偽装され、ギリースーツを着こむこともある。逆にヘルメットは重く、シルエットが目立つため着用しない。狙撃銃も通常のアサルトライフルとは異なる高倍率照準器付きの精密射撃専用ライフルを装備する。
選抜射手の射程は部隊火力射程の800m前後であるが、狙撃手は場合によって1.5km以上の長距離から狙撃することさえある。
狙撃手は射撃ごとに要求される精度も高いため、独自に火薬を調合したり、弾頭の材質を変えたりするなど、特殊な弾薬を使用することが多い。そのような特殊な弾薬や、大口径の弾薬を使って精密射撃をするために、軍の狙撃部隊では構造が単純であり信頼性が高く、精密射撃向きであるボルトアクション方式ライフルを利用することが多い。
対して選抜射手は、歩兵分隊と行動を共にする。弾薬は小銃手と共通のものを使うと補給の便がよく、目標が多数でも対応できるようにオートマチック式のライフルであることが望ましい。そのため、歩兵の小銃を狙撃銃化したマークスマン・ライフルを装備することが多く、改造する銃は、射撃精度の高いリュングマン(ダイレクト・インピンジメント)式のAR-15系やその発展系などが好まれる。
マークスマン・ライフル
編集詳細は「Designated Marksman Rifle」を参照
選抜射手はマークスマン・ライフル[1]、略称:DMR)と呼ばれる種の小銃を装備することが多い。500メートル程度までは弾道学的に有効な射程と精度を持つ。
これは光学照準器とバイポッドを持つセミオートマチック式の小銃で、装弾数は10-30発程度。7.62x51mm NATO弾や7.62x54mm Rなど、やや強力な弾丸を使用するものが多い。
選抜射手が用いるマークスマンライフルは近~中戦闘を意識したセミオートマチック式であることがほとんどである。弾薬も補給に負担をかけない汎用的なものを用いることが多く、可能なら小銃手や機銃手と共通の弾薬を使用する。
バトルライフルをベースとしたもの
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バトルライフルをベースとしたマークスマン・ライフルの例
M14 DMR
M39 EMR
Mk14 EBR
M14をマークスマン・ライフルとして改良したモデル
SR-25
L129A1
AR-10を基にしたマークスマン・ライフル。
H&K G3SG/1
H&K G3を基にしたマークスマン・ライフル。ただし、マークスマン・ライフルという概念が確立する以前から存在するため、SG/1の﹁SG﹂はShützengewehr︵狙撃銃︶の略称であるなど、一般的に狙撃銃と扱われる。
Ak 4OR
Ak 4D
Ak 4︵ドイツ製のH&K G3に改良を加えた上でスウェーデンが国産化したもの︶を基にしたマークスマン・ライフル。
H&K G28
ヘッケラー&コッホ社がAR-15(M16)の作動機構をガスオペレーション式に改良したアサルトライフルであるH&K HK416から派生した、7.62mm NATO弾使用のバトルライフルであるH&K HK417の民間向けセミオートモデルを基に開発された。部品の組み換えとオプションの選択により、﹁狙撃銃﹂としての用途に特化したG28E2と、軽量化しマークスマン・ライフルとしての任務に適したG28E3に仕様を変更できる。
M110A1 SDMR
H&K G28、H&K HK417を基にしたマークスマン・ライフル。
64式7.62mm狙撃銃
64式7.62mm小銃を基にしたマークスマン・ライフル。
アサルトライフルをベースとしたもの
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一般兵士用のアサルトライフルに光学照準器を取り付けただけのものでも十分な効果があるが、一部の国ではさらに改良を加えたマークスマン・ライフルを開発している。一般射手と弾薬に互換性がある事は補給上の大きな利点であるが、弾丸重量が軽く長距離狙撃に向いていない。
アサルトライフルをベースとしたマークスマン・ライフルの例
SDM-R
M16からの派生型。アメリカ陸軍マークスマン・ライフル(US Army Squad Designated Marksman Rifle)
SAM-R(en)
M16からの派生型。アメリカ海兵隊分隊上級射手マークスマン・ライフル(US Marine Corps Squad Advanced Marksman Rifle)。
M16A2E3
M16の派生型
SPR Mk12 Mod X
M16を大幅に改良した狙撃銃。
L86A2 LSW
当初はイギリス陸軍に分隊支援用として導入されたが、FN MiniMiの導入後、DMRとして使用されることとなった。元々分隊支援用の銃であり、どの点をとってもDMRとして申し分なく、既存のスコープを使用すれば非常に精確な銃である。
タブク狙撃銃
ユーゴスラビアのツァスタバ社がAK-47を基に製造したツァスタバ M70を、イラクが狙撃銃に改良したモデル。ドラグノフ狙撃銃の影響もみられる。
アサルトライフルの弾薬を変更した例
ガリル 7.62×51mm弾対応型︵ガラッツ︶
IMI ガリルの派生型。
ツァスタバ M76
ツァスタバ M70の派生型。弾薬は7.92x57mm弾を使用する。
ベレッタ ARX200
ベレッタ ARX160の派生型。7.62×51mmNATO弾を使用する。
マークスマン・ライフルとして設計されたもの
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ドラグノフ狙撃銃
当初よりマークスマン・ライフルとして運用されることを前提に設計された。
ロムテクニカル FPK
外見はドラグノフ狙撃銃、内部構造はAK-47をそれぞれ参考に設計されている。
H&K XM8 Sharpshooter
H&K XM8のバリエーションの1つ。通常のアサルトライフル仕様︵XM8 Baseline Carbine︶から数点の部品交換でマークスマン・ライフルとなるよう設計されている。
世界各国での役割
編集イスラエル国防軍 (IDF)
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長い間狙撃能力の不足に悩まされたイスラエル国防軍(IDF)は、1990年代に狙撃ドクトリンの大きな改変を実施した。訓練、教育課程は一新され、狙撃手達はM14に代わってM24を装備した。その中でも大きな変化は新しい役割である選抜射手(ヘブライ語で"kala saar") の導入であり, これは歩兵小隊と狙撃手の間の溝を埋めるために導入された。その役割を説明するため、一般的に﹁分隊の狙撃手﹂と呼ばれる。この新たな試みは、後年の第2次インティファーダにおいて、大成功であることが示された。
選抜射手が多数の敵兵を殺傷した事で、選抜射手が歩兵小隊において重要な位置を占めることが分かった。一例として2005年、ヒズボラがイスラエル北国境のRagharのDruze村に攻勢を掛けようとしているのを、一人の選抜射手が阻止し、RPG射手を含む4人の敵兵を殺傷した。
イスラエル国防軍(IDF)の選抜射手は、SR-25、IMI タボールTAR-21の狙撃用派生型 (STAR-21)、M16A2E3、M4カービン等を装備している。
アメリカ軍
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アメリカ陸軍はM16を改良したSPR Mk12を使用。これはアメリカ海兵隊の分隊上級射手ライフル(Squad Advanced Marksman-Rifle,SAM-R)と類似の改良をM16に加えた物である。
その後、中近東方面での軍事活動の本格化を受け、アメリカ軍においてバトルライフルをベースとしたマークスマン・ライフルが注目されるようになった。例えば、2001年以降のアフガニスタン戦争では平均交戦距離が500mほどまで伸び、M16採用当時に比べると5.56mm弾の威力不足はより深刻な問題と捉えられることとなった。以後、海兵隊、陸軍、海軍はそれぞれ独自に近代化型M14︵M14 DMR、M39 EMR、Mk14 EBR、Mk.14︶の調達を進めた。
さらに、2018年3月、米陸軍は、G28 / M110A1の派生型を分隊指定射手ライフル︵SDMR︶として歩兵分隊に支給することを発表した。M110A1 SDMRは、2009年以来陸軍により使用されていたMk14 EBRの後継となる。