児 童 文 学 ︵ じ ど う ぶ ん が く ︶ は 、 0 歳 か ら 10 代 、 概 ね 12 歳 頃 ま で の プ レ テ ィ ー ン の 読 み 手 や 聞 き 手 を 対 象 に し た 文 学 作 品 お よ び ジ ャ ン ル で あ る が 、 テ ィ ー ン エ イ ジ ャ ー ま で を 範 疇 に 含 む 場 合 も あ る 。 イ ラ ス ト レ ー シ ョ ン が 添 え ら れ て い る 場 合 が 多 い 。
ド ク タ ー ・ ス ー ス の 本 を 読 む 4 人 の 子 ど も た ち
﹃ 小 さ な か わ い い ポ ケ ッ ト ブ ッ ク ﹄ ( 1 7 4 4 ) 。 男 の 子 に は ボ ー ル 、 女 の 子 に は 針 刺 し 付 き で 販 売 さ れ た
こ の 語 は 娯 楽 性 に 重 き を 置 い て い る エ ン タ ー テ イ メ ン ト 作 品 群 で あ る ヤ ン グ ア ダ ル ト 小 説 ︵ ラ イ ト ノ ベ ル や 少 女 小 説 ︶ や 漫 画 な ど の 他 の ジ ャ ン ル と 区 別 す る 形 で 使 わ れ る 場 合 も あ る 。 明 確 に 子 ど も 向 け に 作 ら れ た 書 物 は 17 世 紀 ま で に は 既 に 存 在 し て い た 。 児 童 文 学 の 研 究 の た め の 職 業 団 体 、 専 門 の 出 版 物 、 大 学 の 専 攻 課 程 な ど も 存 在 す る 。 国 や 世 代 を 超 え て 読 み 継 が れ る 名 作 や 、 幅 広 い 世 代 に 受 け 入 れ ら れ る ベ ス ト セ ラ ー や ロ ン グ セ ラ ー 作 品 が 数 多 く あ る 。
日 本 に お い て は 、 子 ど も を 対 象 と し た フ ィ ク シ ョ ン の 文 学 ジ ャ ン ル に つ い て は 、 童 話 と い う 用 語 が 使 わ れ て い る こ と が 多 い 。 し か し 、 空 想 的 な お 話 と い う ジ ャ ン ル と し て の 用 語 と し て 使 わ れ る こ と も あ り 、 昭 和 時 代 以 降 は 、 広 義 に は 児 童 文 学 が 使 わ れ る よ う に な っ て お り 、 童 話 に 関 し て は 、 年 少 者 向 け と い う 狭 義 の 意 味 合 い で 一 般 に は 流 布 し て い る 。 出 版 社 や 出 版 業 界 で は 、 こ う し た も の や 絵 本 を 児 童 書 あ る い は 児 童 図 書 と 呼 ん で 扱 っ て い る 。
児童文学という言葉が何を指すかについては議論がある。
お そ ら く 、 も っ と も 一 般 的 な 児 童 文 学 の 定 義 は 、 意 図 的 に 児 童 ︵ 子 供 ︶ た ち に 向 け て 書 か れ た 本 と い う も の で あ ろ う 。 南 フ ロ リ ダ 大 学 教 育 学 部 准 教 授 の ナ ン シ ー ・ ア ン ダ ー ソ ン [ 2 ] は 、 児 童 文 学 を ﹁ 漫 画 本 、 ジ ョ ー ク 集 、 辞 書 や 百 科 事 典 の よ う な 通 読 を 意 図 し て い な い ノ ン フ ィ ク シ ョ ン 、 参 考 書 な ど ﹂ を 除 く 子 ど も の た め に 書 か れ た 全 て の 本 で あ る と 定 義 し て い る [ 3 ] 。 こ う し た 作 品 の 中 に は 大 人 に も 非 常 に 人 気 の あ る も の も 含 ま れ る 。 J ・ K ・ ロ ー リ ン グ の ﹃ ハ リ ー ・ ポ ッ タ ー ﹄ シ リ ー ズ は 当 初 は 子 ど も の た め に 書 か れ マ ー ケ テ ィ ン グ さ れ て い た が 、 子 ど も の み な ら ず 大 人 に も 非 常 に 人 気 と な り ﹃ ニ ュ ー ヨ ー ク ・ タ イ ム ズ ﹄ が 専 用 の ベ ス ト セ ラ ー 表 を 作 成 す る ま で に な っ た 。 あ る 本 が 一 般 の 文 学 と 児 童 文 学 の ど ち ら に 含 ま れ る か は 決 定 し 難 い こ と も 多 く 、 多 く の 本 で 大 人 と 子 ど も の 両 方 を タ ー ゲ ッ ト に し た マ ー ケ テ ィ ン グ が 行 わ れ て い る 。
子 ど も を 主 人 公 、 ま た は 子 ど も 社 会 と そ の 文 化 を テ ー マ と し つ つ 、 子 ど も を 必 ず し も 読 者 対 象 と し て い な い 作 品 も あ る が 、 そ う し た も の は こ の 観 点 か ら は 児 童 文 学 で は な く 一 般 の 文 学 と 見 な さ れ る 。
子どもの頃のデイジー・アシュフォード
一般には子ども自身によって書かれた作品すなわち児童文学とはならないが、隣接分野のものとして無視できないものである。欧米ではデイジー・アシュフォード が9歳の時に書いた『小さなお客さんたち』や、ジェーン・オースティン が兄弟姉妹を楽しませるために書いた子ども時代の作品(en:juvenilia )などがある。日本では、豊田正子 の『綴方教室』(1937年)や安本末子『にあんちゃん 』(1958年)などはベストセラーになり、映画化もされて大きな話題を巻き起こした。これらは作文や日記であったが、創作では第8回 福島正実記念SF童話賞を受賞した竹下龍之介 『天才えりちゃん 金魚を食べた』(1991年)が6歳の子が書いた作品として話題になり、シリーズ化作品も出版された。
最 も 制 限 的 な 児 童 文 学 の 定 義 は 、 各 種 の 権 威 が 子 ど も に ﹁ 相 応 し い ﹂ と 認 定 し た 本 と い う も の で あ る 。 こ こ で の 権 威 に は 教 師 、 書 評 家 、 学 者 、 親 、 出 版 社 、 司 書 、 小 売 商 、 出 版 賞 の 選 考 委 員 な ど が あ る 。 一 例 と し て 日 本 で は 全 国 学 校 図 書 館 協 議 会 が 推 薦 図 書 を 選 定 し て い る 。
子 ど も を 人 生 の あ ま り 幸 福 で な い 側 面 か ら 守 り た い と 願 う 両 親 は し ば し ば 伝 統 的 な 童 話 、 童 謡 や そ の 他 の 冒 険 譚 な ど を 問 題 視 す る 。 こ う し た 物 語 で 得 て し て 最 初 に 起 こ る の は 大 人 の 影 響 の 除 去 で あ り 、 主 人 公 は 自 分 自 身 で 物 事 に 対 処 せ ざ る を 得 な く な る 。 有 名 な 例 と し て は ﹃ 白 雪 姫 ﹄ ﹃ ヘ ン ゼ ル と グ レ ー テ ル ﹄ ﹃ バ ン ビ ﹄ ﹃ 世 に も 不 幸 な で き ご と ﹄ な ど が あ る 。 し か し な が ら こ う し た 要 素 は 物 語 に 必 要 な も の と 考 え ら れ て い る 。 結 局 の と こ ろ 、 ほ と ん ど の 場 合 で 物 語 の 本 質 は 人 物 た ち が ﹁ 大 人 に な っ て ゆ く ﹂ こ と な の で あ る 。
ハックルベリー・フィン
児童文学の最も広い定義は、子どもたちが実際に選んで読む本というものである。子どもたちは、たとえば漫画のような、伝統的な意味では文学とは全く考えようとしない人達もいる本も選んで読む。また子どもたちは古典文学や、現代作家による世に認められた偉大な作品も読むことがあるし、重層的な語りを持つ複雑な物語も楽しむ。小説家オースン・スコット・カード の意見によれば、「子どもたちはしばしば真に偉大な世界の文学の守り手となると考えることができる。子どもたちは物語を愛す一方で文体の流行や文学的な仕掛けには無関心であり、的確に真実と力の方へと引き寄せられるのであるから。」[4] 子ども時代に『不思議の国のアリス 』を楽しんだ人が、大人となって再読した時に、子どもの時には気付かなかったその暗いテーマに気付くといったこともあるであろう。
加えて、当初は大人に向けて書かれた古典的な作品が今日では子ども向けと考えられるようになっている例も多い。マーク・トウェイン の『ハックルベリー・フィンの冒険 』も本来は大人向けに書かれたものであったが[5] 、今日ではアメリカ合衆国の小学校のカリキュラムの一環として広く読まれている。
児童文学はさまざまな観点から分類されうる。
文 学 ジ ャ ン ル と は 、 文 芸 作 品 の カ テ ゴ リ で あ る 。
ジ ャ ン ル は 技 法 、 口 調 、 内 容 、 長 さ な ど に よ っ て 決 定 さ れ る 。
ナ ン シ ー ・ ア ン ダ ー ソ ン は 児 童 文 学 を 6 つ の 大 き な カ テ ゴ リ と 、 い く つ か の 重 要 な サ ブ ジ ャ ン ル に 分 類 し て い る [ 6 ] ― ―
(一) 絵 本 。 ア ル フ ァ ベ ッ ト 文 字 や 数 字 を 教 え る 教 本 、 パ タ ー ン ブ ッ ク [ 訳 語 疑 問 点 ] 、 文 字 の な い 本 な ど を 含 む 。
(二) 伝 承 文 学 。 こ れ に は 10 の 特 徴 が あ る [ 7 ] ― ― ( 1 ) 作 者 不 明 、 ( 2 ) 紋 切 り 型 の 出 だ し と 終 わ り ︵ ﹁ む か し む か し あ る と こ ろ に … … ﹂ ︶ 、 ( 3 ) 漠 然 と し た 設 定 、 ( 4 ) ス テ レ オ タ イ プ の 人 物 、 ( 5 ) 擬 人 観 、 ( 6 ) 原 因 と 結 果 、 ( 7 ) 主 人 公 の ハ ッ ピ ー エ ン ド 、 ( 8 ) 魔 法 が 普 通 に 受 け 入 れ ら れ て い る 、 ( 9 ) 単 純 で 直 接 的 な プ ロ ッ ト を 持 つ 簡 潔 な 話 、 ( 10 ) 行 動 と 言 葉 の パ タ ー ン の 反 復 。 伝 承 文 学 の 大 部 分 は 民 話 か ら な っ て お り 、 昔 の 人 々 の 伝 説 、 習 慣 、 迷 信 、 信 仰 な ど を 伝 え て い る 。 こ の 大 ジ ャ ン ル は さ ら に サ ブ ジ ャ ン ル に 分 け る こ と が で き る ― ― 神 話 、 寓 話 、 バ ラ ッ ド 、 フ ォ ー ク ミ ュ ー ジ ッ ク 、 伝 説 、 童 話 [ 8 ] 。
(三) フ ィ ク シ ョ ン 。 フ ァ ン タ ジ ー と 現 実 的 な フ ィ ク シ ョ ン ︵ 現 代 的 ・ 歴 史 的 の 双 方 を 含 む ︶ か ら な る 。
(四) ノ ン フ ィ ク シ ョ ン
(五) 伝 記 。 自 伝 を 含 む 。
(六) 詩 と 韻 文
こ れ ら は 最 も 広 い 意 味 で の ﹁ 児 童 文 学 ﹂ も し く は ﹁ 児 童 書 ﹂ で あ り 、 児 童 文 学 と い う 分 野 を 限 定 的 に 考 え る 場 合 に は 、 実 用 的 な 教 本 や 文 章 に よ ら な い 絵 本 、 さ ら に は 固 有 の 創 作 者 を 持 た な い 昔 話 や 神 話 、 娯 楽 を 主 体 と し た フ ィ ク シ ョ ン な ど は 除 外 さ れ る こ と も あ る 。
児 童 文 学 そ の も の も 大 人 の 文 学 と 対 に な る 年 齢 に よ る カ テ ゴ リ で あ る が 、 0 歳 か ら 18 歳 ま で で は 子 ど も の 理 解 力 や 興 味 も さ ま ざ ま で あ る た め 発 達 段 階 に 応 じ て 形 態 や 内 容 も 違 っ て く る 。
● 絵 本 は 0 - 5 歳 程 度 の 、 ま だ 文 字 を ︵ 充 分 に は ︶ 読 め な い ﹁ 読 者 以 前 ﹂ の 子 ど も た ち に も 向 い て い る 。
● 5 - 7 歳 頃 の 、 読 み 書 き を 覚 え た ば か り の 子 ど も に 向 け た 本 は 、 簡 単 な 童 話 や 昔 話 な ど を 主 題 と し 、 子 ど も に 読 書 力 を つ け る よ う 工 夫 さ れ て い る こ と が 多 い 。
● 7 - 1 2 歳 頃 の 子 ど も は 発 達 に 応 じ て 、 も う 少 し 長 い 、 章 立 て の あ る 本 ︵ チ ャ プ タ ー ブ ッ ク ︶ も 読 め る よ う に な り 、 児 童 文 学 の 中 核 と な っ て い る 。
● ヤ ン グ ア ダ ル ト 小 説 ︵ ジ ュ ブ ナ イ ル ︶ は 概 ね 13 歳 以 降 の テ ィ ー ン エ イ ジ ャ ー ︵ ヤ ン グ ア ダ ル ト ︶ を 読 者 に 想 定 し て い る 。
こ う し た 分 類 の 基 準 は 、 児 童 文 学 そ の も の を 定 義 す る 基 準 と 同 様 に 、 曖 昧 で 問 題 を 含 む も の で あ る 。 明 確 な 違 い の 1 つ に 幼 い 子 ど も 向 け の 本 は イ ラ ス ト レ ー シ ョ ン が 添 え ら れ る こ と が 多 い と い う こ と が 挙 げ ら れ る が 、 絵 を 作 品 の 不 可 分 な 一 部 と し て 持 つ 絵 本 で あ っ て も こ う し た ジ ャ ン ル や 年 齢 層 に 収 ま ら な い も の が あ る 。 ピ ー タ ー ・ シ ス の ﹃ チ ベ ッ ト ― ― 赤 い 箱 を 通 し て ﹄ は 大 人 の 読 者 に 向 け た 絵 本 の 1 例 で あ る 。
ライマン・フランク・ボーム 『オズの魔法使い 』(1900)。W・W・デンズロー (英語版 ) 画
子 ど も や 若 年 者 の 成 長 へ の 感 化 を 念 頭 に 置 い た 、 教 育 的 な 意 図 、 配 慮 が そ の 根 底 に あ る も の が 多 く 、 子 ど も の 興 味 や 発 育 に 応 じ た 平 易 な 言 葉 で 書 か れ る 。 し か し 難 し い 内 容 を 扱 わ な い と い う 訳 で は な く 、 難 し い 内 容 で も 子 ど も に 必 要 と 考 え 、 わ か り や す い 例 や 言 葉 で 表 現 す る 作 家 も い る 。 平 易 な 表 現 で 根 源 的 な こ と を 語 っ て い る 場 合 が あ り 、 子 ど も に 受 け 入 れ ら れ る 児 童 文 学 作 品 に は 大 人 の 鑑 賞 に も 堪 え ら れ る 秀 逸 な も の も 多 い 。 た と え ば 灰 谷 健 次 郎 著 の ﹃ 兎 の 眼 ﹄ や あ さ の あ つ こ 著 の ﹃ バ ッ テ リ ー ﹄ な ど 一 般 の 文 庫 本 と な っ て 大 人 読 者 に 広 く 流 布 す る 作 品 が あ る 。 児 童 文 学 は 大 人 向 け に 書 か れ た ﹁ 文 学 ﹂ の 価 値 観 が 持 ち 込 ま れ て い る と い う 指 摘 が あ る 。
お お む ね 10 代 中 ・ 後 半 か ら 20 代 初 め 頃 の 時 期 を ヤ ン グ ア ダ ル ト と 呼 ぶ が 、 児 童 の 年 代 を 超 え た 年 齢 層 に も 児 童 文 学 的 な 内 容 が 求 め ら れ る 事 が あ る 。 J ・ D ・ サ リ ン ジ ャ ー の ﹃ ラ イ 麦 畑 で つ か ま え て ﹄ ︵ 1 9 5 1 年 ︶ に 見 ら れ る よ う に 、 こ の 世 代 特 有 の 問 題 、 例 え ば 、 恋 愛 、 い じ め 、 薬 物 依 存 、 自 殺 な ど を 扱 っ た ジ ャ ン ル も 登 場 し 、 ﹁ ヤ ン グ ア ダ ル ト ﹂ と い う 名 称 で 呼 ば れ る 事 も あ る 。 日 本 で は 重 松 清 ︵ 作 品 は ナ イ フ ・ エ イ ジ な ど ︶ ら が ヤ ン グ ア ダ ル ト 世 代 向 け の 作 品 を 手 が け て い る 。
創 作 童 話 と 呼 ば れ る 作 品 は 文 学 性 を 有 す る 場 合 が 多 い 。 創 作 童 話 は 狭 義 の 童 話 概 念 で あ る た め ヤ ン グ ア ダ ル ト 層 は 対 象 と し な い が 、 小 学 校 高 学 年 程 度 向 け の 作 品 も 含 ま れ る 事 が あ る 。
エリザベス・シッペン・グリーン (英語版 ) 『旅』(1903)
児童書にはしばしばイラストレーション がふんだんに添えられている。一般的に、幼い読者に向けた本であるほど絵が果たす役割は大きくなり、特にまだ文字を読めない幼児向けの本がそうである。子ども向けの絵本は幼い子どもにとって、高水準な芸術 に認識可能な形で触れることのできる機会となりうる。
多くの児童文学作家は気に入ったイラストレーター(挿絵画家、イラストレーター 、漫画家 )に自分の言葉を絵にしてもらうが、最初からイラストレーターと共に本作りをする場合もあれば、イラストレーターが自分自身で本を書く場合もある。イラストなしでも話を楽しめるだけの読書力に達した後も、子どもたちは本に時々出て来る絵を楽しんで眺めるものである。
児童文学の定義自体が明確なものではないので、その歴史がいつ始まったのかを特定するのも難しい。ここでは子どもに向けた、もしくは子どもに広く受容された書物あるいは文学の発達を概観する。
子どもに人気のある物語の中には非常に古い時代に書かれたものもある。『イソップ寓話 』は紀元前3世紀に成立し今も世界中の子どもたちに愛されているし、トマス・マロリー の『アーサー王の死 』(1486年)や『ロビン・フッド 』(1450年頃)は子どものことを念頭に置いて書かれたものではないが、何世紀にも亘って子どもたちを魅了してきた。
1658年、チェコ のコメニウス がイラスト入りの知識の書『世界図絵 』を著した。これが明確に子どもに向けて書かれた最初の絵入り本であると考えられている。また、この時代にはフランスのシャルル・ペロー (1628-1703)が童話 の基礎を築いた。ペローの物語には『赤ずきん 』『眠れる森の美女 』『長靴をはいた猫 』『シンデレラ 』などが含まれている。
1 7 4 4 年 、 イ ギ リ ス で ジ ョ ン ・ ニ ュ ー ベ リ ー ︵ 英 語 版 ︶ が ﹃ 小 さ な か わ い い ポ ケ ッ ト ブ ッ ク ﹄ を 出 版 し た 。 ニ ュ ー ベ リ ー は こ の 本 を 男 の 子 に は ボ ー ル 、 女 の 子 に は 針 刺 し 付 き で 販 売 し た 。 明 確 に 子 ど も に 向 け て 販 売 さ れ た 娯 楽 書 の 始 ま り と し て 時 代 を 画 す る も の で あ っ た と 考 え ら れ て い る 。 ニ ュ ー ベ リ ー 以 前 は 、 子 ど も と 大 人 の た め の 物 語 の 豊 か な 口 承 は 存 在 し た が 、 子 ど も に 向 け て 販 売 さ れ る 文 学 は 子 ど も を 教 育 す る こ と を 意 図 し た も の で あ っ た 。
ウィルヘルム(左)とヤコブ(右)のグリム兄弟 。Elisabeth Jerichau-Baumann [訳語疑問点 ] 画(1855)
1 9 0 0 年 、 ア メ リ カ 合 衆 国 で ラ イ マ ン ・ フ ラ ン ク ・ ボ ー ム が ﹃ オ ズ の 魔 法 使 い ﹄ を 発 表 し た 。 以 後 、 さ ま ざ ま な 版 が 絶 え ず 刊 行 さ れ て い る 。 1 9 0 2 年 に は 舞 台 化 さ れ 、 1 9 3 9 年 に は 映 画 化 さ れ た 。 ア メ リ カ 文 化 の 中 で も 最 も 知 ら れ た 物 語 の 1 つ で あ り 、 40 ヵ 国 語 に 翻 訳 さ れ た 。 ﹃ オ ズ ﹄ の 大 成 功 を 受 け て ボ ー ム は 13 篇 の 続 編 を 書 き 、 ボ ー ム の 死 後 も 複 数 の 作 者 が 数 十 年 間 に 亘 り 続 編 を 書 き 続 け た 。
﹃ ピ ー タ ー ラ ビ ッ ト の お は な し ﹄
1 9 0 2 年 、 ビ ア ト リ ク ス ・ ポ タ ー は ﹃ ピ ー タ ー ラ ビ ッ ト の お は な し ﹄ を 発 表 し た 。 い た ず ら 好 き で 反 抗 的 な 若 い 兎 の ピ ー タ ー ラ ビ ッ ト が 、 マ ク レ ガ ー さ ん の 農 場 に 忍 び 込 む 話 で あ る 。 発 表 以 降 1 0 0 年 以 上 に 亘 り 、 こ の 本 を 基 に し た 玩 具 、 皿 、 食 品 、 衣 類 、 ビ デ オ な ど の 夥 し い グ ッ ズ が 生 み 出 さ れ た 。 1 9 0 3 年 に ピ ー タ ー ラ ビ ッ ト 人 形 の 特 許 権 を 取 得 し た ポ タ ー は 、 こ う し た グ ッ ズ 化 の 先 駆 け の 一 人 と な っ た 。
1 9 1 1 年 、 ジ ェ ー ム ス ・ マ シ ュ ー ・ バ リ ー は ﹃ ピ ー タ ー ・ パ ン と ウ ェ ン デ ィ ︵ 英 語 版 ︶ ﹄ を 著 し た 。 ピ ー タ ー ・ パ ン は 児 童 文 学 で 最 も 有 名 な キ ャ ラ ク タ ー の 1 人 で あ り 、 魔 法 に よ っ て 歳 を 取 ら な く な っ て ネ バ ー ラ ン ド と 呼 ば れ る 小 さ な 島 で 終 わ る こ と の な い 子 ど も 時 代 を 過 ご し て い る 。
第 二 次 世 界 大 戦 中 の 1 9 4 3 年 に 、 飛 行 士 ア ン ト ワ ー ヌ ・ ド ・ サ ン = テ グ ジ ュ ペ リ ︵ 1 9 0 0 年 - 1 9 4 4 年 ︶ は ﹃ 星 の 王 子 さ ま ﹄ を 出 版 し た 。 砂 漠 に 不 時 着 し た 主 人 公 が 、 星 か ら や っ て 来 た 子 ど も の 心 を 持 っ た 王 子 と 語 ら う こ の 物 語 は 人 間 性 の 洞 察 に 富 み 、 現 在 ま で に 1 8 0 ヶ 国 語 に 翻 訳 さ れ 8 0 0 0 万 部 を 売 り 上 げ て い る 。
グ ロ ー バ リ ゼ ー シ ョ ン に 伴 い 翻 訳 に よ る 創 作 児 童 文 学 作 品 の 世 界 的 ・ 爆 発 的 な 普 及 が 見 ら れ る よ う に な り 、 イ ギ リ ス の C ・ S ・ ル イ ス ︵ 1 8 9 8 年 - 1 9 6 3 年 ︶ の ﹃ ナ ル ニ ア 国 も の が た り ﹄ ︵ 1 9 5 0 年 - 1 9 5 6 年 ︶ シ リ ー ズ は 41 言 語 で 通 算 1 億 2 千 万 部 以 上 、 同 じ く イ ギ リ ス の J ・ K ・ ロ ー リ ン グ ︵ 1 9 6 5 年 - ︶ の ﹃ ハ リ ー ・ ポ ッ タ ー ﹄ ︵ 1 9 9 7 年 - 2 0 0 7 年 ︶ シ リ ー ズ は 63 ヵ 国 語 以 上 に 翻 訳 さ れ 4 億 部 以 上 を 売 り 上 げ た 。
雑誌『赤い鳥 』創刊号(1918)
日 本 の 児 童 文 学 は 、 近 代 文 学 成 立 と ほ ぼ 同 時 期 に 確 立 さ れ た と 考 え ら れ る 。 巖 谷 小 波 に よ る ﹃ こ が ね 丸 ﹄ や 小 川 未 明 の 第 一 童 話 集 ﹃ 赤 い 船 ﹄ ︵ 1 9 1 0 年 12 月 ︶ が 始 ま り と さ れ る 。 1 9 1 8 年 に は 鈴 木 三 重 吉 主 宰 の 雑 誌 ﹃ 赤 い 鳥 ﹄ が 刊 行 さ れ た 。 芥 川 龍 之 介 ・ 有 島 武 郎 ・ 北 原 白 秋 な ど が 参 加 し た こ の 雑 誌 は 、 後 に 新 美 南 吉 ら を 輩 出 す る な ど 児 童 文 学 の 普 及 ・ 発 展 に 貢 献 し た 。 宮 沢 賢 治 は 同 時 代 の 作 家 だ が 、 擬 声 語 や リ ズ ム 感 が 当 時 の 童 話 と し て は 異 質 だ っ た た め 、 生 前 は 評 価 さ れ る こ と が な か っ た 。 そ の 後 日 本 で は 、 大 人 か ら 児 童 に 向 け た 教 育 を 主 眼 と し た 内 容 の も の が 主 流 と な っ て い た が 、 1 9 6 0 年 代 頃 か ら 遊 び の 要 素 を 持 ち エ ン タ ー テ イ メ ン ト と し て も 優 れ た も の や 、 大 人 の 文 学 表 現 に も 匹 敵 す る 作 品 が 登 場 す る よ う に な っ た 。 詩 に お い て は ま ど ・ み ち お が 著 名 で あ る 。 当 時 の 絵 本 は 文 字 を 主 、 絵 を 従 と し た も の だ っ た が 、 い わ さ き ち ひ ろ は 絵 で 展 開 す る 絵 本 を 制 作 し 、 国 際 的 に も 高 い 評 価 を 得 た 。 や な せ た か し の ﹃ ア ン パ ン マ ン ﹄ は 当 初 大 人 向 け に 書 か れ た が 後 に 幼 児 向 け の 絵 本 と し て 再 発 表 さ れ 、 テ レ ビ ア ニ メ で 絶 大 な 人 気 を 博 し た 。
日 本 に お け る 児 童 文 学 の 学 問 的 研 究 は 体 系 的 に 整 備 さ れ て い る と は 言 い 難 い が 、 白 百 合 女 子 大 学 ・ 玉 川 大 学 ・ 梅 花 女 子 大 学 ・ 東 京 純 心 大 学 な ど は 専 門 の 学 科 ・ 研 究 科 を 設 置 し て い る 。 ま た 他 の 大 学 ・ 短 大 も 、 何 ら か の 形 で 児 童 文 学 関 連 の 講 座 を 設 置 し て い る と こ ろ が 多 い 。 な お 、 教 育 系 の 学 部 ・ 学 科 に お い て は 、 幼 児 教 育 や 児 童 学 と 関 連 づ け ら れ る 場 合 が ほ と ん ど で あ る 。
児 童 文 学 な ど 児 童 書 関 連 が 公 開 さ れ て い る 資 料 セ ン タ ー と し て 国 際 子 ど も 図 書 館 ︵ 東 京 ・ 上 野 公 園 内 ︶ と 大 阪 府 立 国 際 児 童 文 学 館 ︵ 大 阪 府 立 中 央 図 書 館 内 ︶ が あ る 。 国 際 子 ど も 図 書 館 は 国 立 国 会 図 書 館 の 児 童 書 関 連 を 移 管 し て 2 0 0 0 年 に 開 館 し た ︵ 全 面 開 館 は 2 0 0 2 年 ︶ 。 大 阪 国 際 児 童 文 学 館 は 1 9 8 4 年 に 鳥 越 信 の 蔵 書 12 万 点 の コ レ ク シ ョ ン を も と に マ ン ガ 、 紙 芝 居 な ど を 含 め た 児 童 文 化 の 資 料 館 ・ 研 究 施 設 と し て 開 館 し た 。 両 者 の 資 料 点 数 は 拮 抗 し て い る が 、 研 究 ・ レ フ ァ レ ン ス 及 び 収 集 方 針 の 専 門 員 に よ る 差 異 に よ り 、 貴 重 本 の 収 集 や 資 料 保 存 方 法 な ど で は 大 阪 の 方 が 充 実 し て い る 。 例 え ば 、 国 際 子 ど も 図 書 館 で は 、 旧 来 の 図 書 館 と し て の 保 存 方 法 で 、 カ バ ー ・ 帯 の 廃 棄 や 保 存 カ バ ー ・ バ ー コ ー ド の 装 備 で 資 料 が 変 形 さ れ た り 、 雑 誌 が 合 本 化 さ れ て 閲 覧 し に く く 資 料 性 が 欠 損 し た り し て い る 場 合 が あ る 。 一 方 、 大 阪 国 際 児 童 文 学 館 で は 、 1 点 ず つ の 個 別 保 存 で 雑 誌 の 合 本 化 も な く 付 録 も 貴 重 な 児 童 文 化 財 と し て 保 存 し て い る 。
児 童 文 学 者 の 団 体 と し て は 、 1 9 4 6 年 に 児 童 文 学 者 協 会 ︵ 後 の 日 本 児 童 文 学 者 協 会 ︶ が 設 立 さ れ 、 1 9 5 5 年 に 日 本 児 童 文 芸 家 協 会 が 成 立 し た 。 そ れ ぞ れ 機 関 誌 と し て ﹁ 日 本 児 童 文 学 ﹂ 、 ﹁ 児 童 文 芸 ﹂ を 刊 行 し て い る 。 他 に 児 童 書 の イ ラ ス ト レ ー タ ー の 団 体 と し て 日 本 児 童 出 版 美 術 家 連 盟 ︵ 童 美 連 ︶ が あ り 、 こ の 三 者 に 日 本 書 籍 出 版 協 会 の 児 童 書 部 門 を 含 め た 通 称 “ 四 者 懇 ” が あ り 、 児 童 書 を め ぐ る 著 作 権 等 の 諸 問 題 に つ い て 協 調 し て 行 動 し て い る 。
ま た 、 研 究 者 の 団 体 と し て は 、 日 本 児 童 文 学 学 会 や 英 米 児 童 文 学 学 会 が あ り 、 読 書 運 動 で は 、 親 子 読 書 地 域 文 庫 全 国 連 絡 会 ︵ 機 関 誌 ﹃ 子 ど も と 読 書 ﹄ ︶ な ど が あ る 。
ボローニャ国際児童図書賞が発表されるボローニャ国際児童図書展 の様子
日本において、児童文学作品を主に扱っている出版社には次のようなものがある。
日本において、児童文学作品を扱っているレーベルには次のようなものがある。
(一) ^ a b 大 橋 2 0 1 4 , p . 1 8 .
(二) ^ “ B i o g r a p h y o f N a n c y A . A n d e r s o n , E d D ” . 2 0 0 9 年 3 月 3 日 閲 覧 。
(三) ^ A n d e r s o n 2 0 0 6 , p . 2 .
(四) ^ C a r d , O r s o n S c o t t ( 2 0 0 1 年 11 月 5 日 ) . “ H o g w a r t s ” . U n c l e O r s o n R e v i e w s E v e r y t h i n g . H a t r a c k R i v e r E n t e r p r i s e s I n c . 2 0 0 9 年 3 月 3 日 閲 覧 。
(五) ^ L i u k k o n e n , P e t r i ( 2 0 0 8 年 ) . “ M a r k T w a i n ” . 2 0 0 9 年 3 月 3 日 閲 覧 。
(六) ^ A n d e r s o n 2 0 0 6
(七) ^ A n d e r s o n 2 0 0 6 , p p . 8 4 – 8 5 .
(八) ^ A n d e r s o n 2 0 0 6 , p . 8 9 .
(九) ^ 大 橋 2 0 1 4 , p . 1 0 3 .
(十) ^ E l i a s B r e d s d o r f f , H a n s C h r i s t i a n A n d e r s e n : t h e s t o r y o f h i s l i f e a n d w o r k 1 8 0 5 – 7 5 , P h a i d o n ( 1 9 7 5 ) I S B N 0 - 7 1 4 8 - 1 6 3 6 - 1
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The Oxford encyclopedia of children's literature , ed. by Jack Zipes, Oxford [etc]: Oxford Univ. Press, 2006, 4 vls.
『ブックバード日本版』
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