彫師
浮世絵版画で版下絵を板木に彫る職人
(彫刻師から転送)
概要
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絵師が描き、版元のチェック、及び版元業者の検閲を通って﹁改印︵あらためいん︶﹂[2][3][4]を捺された、輪郭線のみの版下が、彫師に届く。それを糊付けした版木に裏返しに貼る。そうしないと完成品が鏡像、つまり裏返しになってしまうからである。その後版木を日陰干して、線を見やすくするため、糊が効いていない和紙の上部を剥ぎ取ったうえで、彫る[5]。
木版画は凸版印刷なので、顔料を乗せたい箇所を彫り残す。よって、輪郭線の両側を小刀で彫り込んだうえで、それ以外の不要な部分を各種鑿で浚う。﹁毛割﹂︵けわり︶若しくは﹁毛彫り﹂と呼ばれる、髪の生え際のような細かい箇所は、絵師の指定ではなく、彫師に任せることが多い[6][7][8]。
また多色摺をする際に、紙がずれないよう、﹁見当﹂︵けんとう︶と呼ばれる、目印を2か所、手前側の左右いづれかの端を矩形に、および逆側の端を水平に彫り残す[9]。出来上がった版木を﹁主版﹂︵おもはん︶と呼ぶ[5]。これを摺ったものを﹁校合摺り﹂︵きょうごうずり︶と呼ぶ。これを10ないし20枚摺って、絵師に戻す[10]。校合摺りは摺師ではなく、彫師が行うことが多い[9][11]。
絵師は校合摺りに、その色にする箇所を朱で囲い、色指定をする。1色ごとに一枚の校合摺りを用いて指定する。そして再び彫師に戻す。これをもとに彫師は、色版を彫る。1枚の版木にではなく、色ごとに版木を分けて彫る。但し、面積の狭い色の場合は、1枚に複数色を含めることもある[12]。全ての色版が出来たら、あとは摺師の仕事である。
出典
編集- ^ 松村 1988, p. 2245.
- ^ 菊地ほか 1982, pp. 126–132「改印」
- ^ 小林・大久保 1994, pp. 218–219森山悦乃「江戸幕府の出版統制」
- ^ 国際浮世絵学会 2008, pp. 14–16佐藤悟「改印」
- ^ a b 国際浮世絵学会 2008, pp. 110安達以乍牟「主版」
- ^ 菊地ほか 1982, p. 85「毛割」
- ^ 国際浮世絵学会 2008, pp. 447–448大久保純一「彫」「彫師」
- ^ 国際浮世絵学会 2008, p. 189安達以乍牟「毛彫り」
- ^ a b 鈴木 1962, p. 6「多色摺りについて」
- ^ 国際浮世絵学会 2008, pp. 173安達以乍牟「校合摺」
- ^ 菊地ほか 1982, p. 86「校合摺」
- ^ 国際浮世絵学会 2008, pp. 37–38安達以乍牟「色版」
参考文献
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●鈴木重三﹃日本版画美術全集 別巻 日本版画便覧﹄講談社、1962年3月4日。
●菊地貞夫、ほか﹃原色浮世絵大百科事典3様式・彫摺・版元﹄大修館書店、1982年4月15日。
●松村明 編﹁彫︵り︶物師﹂﹃大辞林﹄三省堂、1988年、2245頁。ISBN 4-385-14001-4。
●小林忠 著、大久保純一 編﹃浮世絵の鑑賞基礎知識﹄至文堂、1994年5月20日。ISBN 978-4-7843-0150-8。
●国際浮世絵学会 編﹃浮世絵大事典﹄東京堂出版、2008年6月30日。ISBN 978-4-4901-0720-3。