抽象データ型
抽象データ型︵ちゅうしょうデータがた、英: abstract data type、ADT︶とは、データ構造とその操作手続きを定義したデータ型、またはデータ抽象[注釈1]の方法の1つ。通常のデータ型であれば変数宣言で変数に束縛されるものは値であるが、抽象データ型の世界において値に相当するものはデータ構造とその操作[注釈2]のまとまり[注釈3]である。
抽象データ型を用いない場合、データ構造またはデータの操作手続きのアルゴリズムの変更を行うとソースコード中にその変更部分が散在してしまい規模によっては修正困難となるが、データとその操作がひとまとめに記載されることになる抽象データ型においては、型の定義における実装部分を変更するだけで修正が完了する。
概要
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1960年代の構造化プログラミングの時点で既に、︵よく知られている︶段階的詳細化といった手法や制御構造の利用の励行などの他、データ構造とコードを連携させ、データ構造の変更を行うと変更部分がソースコード中に散在してしまうというそれ以前のプログラミングにおける問題点への対処にもなる、データ抽象に関する議論は現れている︵﹃構造化プログラミング﹄︵日本版はサイエンス社、1975年︶の、全体の約半分はダイクストラによる考察だが、残り約半分はホーアとダール︵Simulaの設計者︶によるデータ論である︶。抽象データ型はデータ抽象の具体的手法として1974年にバーバラ・リスコフの提案した言語CLUにおいて提案された。
インタフェースと実装の分離
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プログラムが実装されたとき、抽象データ型は実装を隠蔽するインタフェースを表す。実装は将来において変更されうるので、抽象データ型のユーザーは実装ではなくインタフェースに関心がある。
抽象データ型の強みはユーザーから実装が隠蔽されていることである。インタフェースのみが公開されるのである。このことは、抽象データ型がいろいろな方法で実装されうることを意味するが、インタフェースに忠実な限りユーザープログラムは影響を受けないのである。
例えば、二分探索木抽象データ型はいくつかの方法で実装できる。例えば、二分木、AVL木、赤黒木、配列である。しかし実装に関わらず二分探索木は﹁挿入﹂﹁削除﹂﹁検索﹂といった同じ操作が可能である。
抽象データ構造
編集具体例
編集抽象データ型としての有理数
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有理数は計算機においてはそのまま扱うことはできない。有理数の抽象データ型は以下のように定義できる。
コンストラクタ: 2つの整数
、
を用いて有理数の抽象データ型のインスタンスを作成する。ここで
は分子で
は分母である。
関数: 加算,減算,乗算,除算,指数計算,比較,約分,実数への変換
完全な記述にするためには、それぞれの関数はデータに言及して記述されるべきである。例えば、有理数
と
を乗算するときには結果は
と定義される。通常は入力、出力、実行前条件、実行後条件、抽象データ型に対する仮定も記述される。
脚注
編集注釈
編集- ^ データ抽象(英: data abstraction)とは、データ型の詳細定義とその操作に関する手続きを情報の局所性が高まるようにソースコード中の一カ所にまとめて記述するための記法のことを言う。情報が一カ所に局所的にまとめて記載されているため、非公開(private)部分の変更であればその定義部分の詳細を変更するだけでソースコード全体の修正が完了する。 データ型の詳細定義とその操作手続きの局所的記述を実現する方法は複数あり、抽象データ型はその一例である。
- ^ 言語に応じて名称が異なり、C++であればメンバ関数(member function)、Javaであればメソッド(method)と呼ばれる
- ^ データ型の値に相当するこのまとまりのことを抽象データ型の実体(インスタンス , instance)と呼ぶ。
参考文献
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●落水 浩一郎﹃ソフトウェア工学実践の基礎 -分析・設計・プログラミング﹄日科技連出版社、1993年。
●飯泉 純子, 大槻 繁﹃ずっと受けたかったソフトウェア設計の授業﹄翔泳社。
●D.L.Parnas (1975), Use of the concept of transparency in the design of hierarchically structured systems
●D.L.Parnas (1971), Information Distribution Aspects of Design Methodology
●B.H.Liskov, S.N.Zilles (1974), Programming with Abstract Data Type
●Niklaus Wirth (1971), Program Development by Stepwise Refinement, Communications of the ACM, Vol. 14, No. 4, April 1971, pp. 221-227
●N.Gehani (1980), Program Development by Stepwise Refinement and Related Topics
●二木 厚吉 (1996), 代数モデルの基礎 (<特集>ソフトウェア工学の基礎)
●鳥居 宏次 , 二木 厚吉 , 真野 芳久 (1984), プログラミング方法論の展望
●二木 厚吉、中川 中 著﹁第4章‥抽象データ型とOBJ2﹂、井田 哲雄、田中 二郎 編﹃続 新しいプログラミング・パラダイム﹄1990年。