漁
人間がさまざまな漁具を用いて、水産資源を捕獲する行為
(漁獲から転送)
概要
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漁の歴史的起源は古く、捕獲の対象となる生物の生態にあわせて、また、時代の技術的制約のもとで、さまざまな漁具や漁法が用いられてきた。
伝統的な漁では、漁具の材料は基本的に天然素材のもので、その生産性は低かったが、漁の規模と水産資源の生態が調和し、水域の水産資源は再生産されていた。
漁の規模が大きくなると、数人で共同して漁をおこなったり、とくに近世以降は、網主が大人数を雇って漁をおこなうような例︵地引き網や敷き網など︶もあらわれた。
20世紀に入ったころから漁船の動力化︵機関、エンジンの導入︶が進み、また合成繊維網の普及、漁の生産性の向上、世界人口の急速な増加、漁場の広域化などの諸因が重なり、20世紀後半ころから世界各地で水産資源が減少傾向に入ることが増え、20世紀末では枯渇してしまう懸念が現実味を増している。分かりやすく言うと﹁さかなのとりすぎ﹂により、さかなが減ってしまう海域が増えてきており、漁をしてもさかなが以前ほど獲れないことが世界各地で増えてきている。わかりやすい例を挙げると日本では北海道︵特に石狩湾あたり︶でニシンが大量にとれたが、漁師が︵当時はまだ、水産資源保護という概念すら持っていなかったので、目先の金儲けにばかり意識を向け、調子に乗って︶乱獲を明治末から大正︵1910年代︶にかけて続けた結果、ニシンの数が減ってしまい収穫量が激減し、やがてニシンがまったくとれなくなる事態に陥り、ニシン漁自体が途絶えてしまう悲惨な事態をまねいた。ニシンがようやく北海道・石狩に戻ってくるようになり普通に漁が行えるようになったのは2010年代であり、つまり一旦水産資源を枯渇させてしまうと、その復旧に百年もの年月がかかってしまった。水産資源のとりすぎを抑止するなどして水産資源を護ることを水産資源保護という。
各国により水産資源保護の進展状態は異なっているが、漁は場所︵海域︶、捕獲対象︵魚介の種類︶、時期︵具体的な月日、何月何日から何月何日まで︶、漁具などに関して法令で規制されている国は増えている。日本では水産資源保護法が1952年から施行されている。あくまで水産資源の保護が目的であるので、たとえプロの漁師であっても規制の対象である︵というより、プロの漁師こそが商業主義で、プロ用の巨大な道具を使いしばしば乱獲を行うため︶。
漁法の種類
編集詳細は「漁法」を参照
漁にはさまざまな漁法がある。もっとも素朴なものは、徒手採捕、ヌードリングと呼ばれる漁具を用いずに人間が直接素手で魚類などを掴み取る方法である。
漁具を用いる漁法では、漁獲の対象となる水生生物の生態や、漁場環境、漁期などを考慮して、その漁撈活動に最適の漁具を用いて、もっとも効率のよい漁法が選択される。以下に、代表的な漁法を紹介する。
網漁業
編集- 投網(被網)
- 底引き網
- 遠洋底引き網 - 北方トロール、転換トロール、北転船、南方トロール、えびトロールの総称
- 以西底引き網
- 沖合底引き網
- 小型底引き網
- 船引き網(中層引き網)
- 引き回し網
- 引き寄せ網
- 地引き網
- 巻き網
- 吾智網
- 刺し網
- 敷網 - 棒受け網、四つ手網など
- 定置網
- すくい網
釣漁業
編集- 延縄(はえなわ) - まぐろ延縄、さけ・ます延縄など
- 手釣り漁
- 竿釣り漁 - 遠洋かつお一本釣など
- 機械釣り漁 - 遠洋いか釣など
- 曳縄釣り漁
- 立縄釣り漁
刺突漁
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徒行や船上から突具・鉤具を用いて、移動する魚類などを直接刺突する漁法である。見突き漁や突きん棒漁と呼ばれる岸辺や船上から目視して刺突する方法や[2]、潜水して移動中の魚を﹁追突﹂︵おいづき︶する例などがある。以下のような刺突具がある。
モリ︵銛︶
モリはクジラや海洋の大型魚の刺突に用いられた遊撃刺突具。
ヤス︵簎・矠︶
長い柄の先端に、数本の尖った鉄製の突き刺し具が付けられている。
カギ︵鉤︶
長い柄の先端に、先端が曲がった鉤状の金属が付けられている。
むつかけ
有明海の干潟に生息するムツゴロウを捕獲する漁法。
陥穽漁法
編集詳細は「陥穽漁法」を参照
陥穽漁法とは、魚類の習性︵遡上や降下性︶を利用する、餌で誘導する、水流を利用するなど、さまざまな工夫によって魚を誘い込み、何らかのしかけ・罠によって魚を逃げられないようにする漁法である。以下のようなしかけ、漁具がある。
潜水漁法(潜水器漁業)
編集素潜りまたは潜水器具を着用して、素手または刺突具など道具を用いて水生動物を捕獲する。
その他
編集日本で禁止されている漁法
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爆発漁法
爆発物をもちいて、水中の魚群を気絶させ、または死亡させて、漁獲する。海獣捕獲を目的とする場合を除き、水産資源保護法第5条により禁止されている。
毒流し漁
青酸、樒、椿の油粕、山椒などの毒物を流して魚群を浮上させる漁法。毒もみ、毒流し、アメながし、根流しとも呼ばれる。調査研究のため農林水産大臣の許可を得た場合を除き、水産資源保護法第6条により禁止されている。
電気ショック漁法
電気ショッカー、エレクトロフィッシャー、鉛蓄電池などによって電流を流して、魚群に電気的ショックを与えて気絶させ、浮上させる漁法。ビリとも呼ばれる。各県の漁業調整規則などにより、有害魚種駆除の目的で許可を受けた場合以外、原則的に禁止されている。カジキの突きん棒漁では先端から電流を流す銛が使われており、こちらは合法である[3]。
一本釣り
棒またはロープに多数のスマルを付けた漁具を海底に定置させるか船で引き、根魚を引っ掛けて採取する漁法。無差別に魚介類を傷つけることから、地域によって禁止・制限されている[4]。
日本では免許を持たない人がヤスで刺突漁を行うのは問題ないが、同じことを水中メガネを付けて行うと漁業権を侵害したことになる[5]。
脚注
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(一)^ The State of World Fisheries and Aquaculture 2016︵国際連合食糧農業機関(国際連合食糧農業機関︶pdfファイル。P.3
(二)^ “︻見突き漁︼”. 日本財団. 2016年1月9日閲覧。
(三)^ 一本釣り - マリン製品 - ヤマハ発動機
(四)^ 金田 1995, pp. 140–147.
(五)^ 亀井まさのり﹃あぁ、そういうことか!漁業のしくみ﹄恒星社厚生閣、2013年、ISBN 9784769912965 pp.57-58,114.
参考文献
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●桜田勝徳 ﹃漁撈の伝統﹄、岩崎美術社<民俗民芸双書>、1977年
●森浩一編﹃日本民俗文化体系13技術と民俗︵上︶海と山の生活技術史﹄、小学館、1995年︵普及版︶
●大林太良編﹃日本民俗文化体系5山民と海人 非平地民の生活と伝承﹄、小学館、1995年︵普及版︶
●金田禎之﹃和文・英文 日本の漁業と漁法﹄成山堂書店、1995年。ISBN 4425810910。
●田辺悟 ﹃網﹄︵ものと人間の文化史 106︶、法政大学出版局、2002年