無能の人

日本の漫画シリーズ

無能の人』(むのうのひと)は、つげ義春による日本漫画。『COMICばく』(日本文芸社)の1985年6月号より「石を売る」からのシリーズ連作で、「鳥師」「探石行」「カメラを売る」「蒸発」と続いた。

読切短編の多いつげ作品としては異例の連続シリーズとして知られるが、この作品を機につげは長い休筆期間に入る。主人公の助川は、つげ自身がモデルという指摘もある[誰によって?]1991年竹中直人監督・主演で映画化された。

概要

編集
 
舞台は多摩川

197910調""""[1]

2-3COMIC使[1]
 
宿使

3122-3使[1]

宿[1]

虫けらってどんな虫?

編集

?使[2]

あらすじ

編集

主人公の助川助三は、かつてはそれなりに名の知れた漫画家であった。だが近年は仕事も減り、たまに執筆の依頼が入っても、自ら「芸術漫画家」を自称しているプライドがあるため、断り続けている貧乏な日々を送っている。妻のモモ子からは漫画を描けと時になじられるが、助川は全く描こうとはしない。そこで助川は漫画以外の新たな道を模索するが…[3]

石を売る

編集

10使100[3]

無能の人

編集

古本業者の山井から、石の愛好家の専門誌を貰った助川は、石のオークションに自分の石を出品しようと主催者の「美石狂会」の石山とその妻のたつ子を訪問する。採石した石を抱え、オークションに参加する。結局石はひとつも売れず、家族で絶望する[3]

鳥師

編集

知人の鳥屋のおやじは、インコなどの人気のある外来種を嫌い、飼育の難しい和鳥のみを扱っている。丹精こめて育てたメジロだが、今は昔と違い誰も見向きもされない。助川と同じく女房にも罵倒されながら、和鳥の愛好家が店に集まってきていた過去の栄光が忘れられない。そのおやじから助川は、昔店に鳥を売りに来ていた「鳥師」の話を聞く[3]

探石行

編集

3宿宿[3]

カメラを売る

編集

かつて、漫画に限界を感じた助川が、偶然立ち寄った骨董屋で見つけた壊れたカメラを修理したところ思わぬ高値で売る事ができた。これに味を占めた助川はたまに来る漫画の依頼もそっちのけで妻の不安をよそに中古カメラの販売を始める[3]

蒸発

編集

いつも寝てばかりで無気力の古本屋「山井書店」(病をもじったものとの説あり)の山井から、彼の故郷の誇りだと言う井上井月(いのうえせいげつ)と言う隠れた俳人の全集を借りる。読み進んでいるうち、「乞食井月」と言われた俳人の一生と自分や山井の人生を重ねて行く。一般にあまり知られていなかった井月の半生や俳句を、詳しく紹介することになった漫画である[3]

評価

編集

川本三郎

編集

つげの隠者志向がさらにいちだんと際立ってきて、一種壮絶な哀しみを感じさせる。とりわけ、信州伊那谷で野垂れ死にした井上井月にモチーフを得た『蒸発』は読むものを粛然とさせる。(中略)いうまでもなくこれはもはや「私小説」ではない。「私小説のパロディ」である。つげ義春はだからフィクションとしてあえて貧乏を作り出さねばならない。『無能の人』で描かれる貧乏は正真正銘の貧乏というよりは、つげ義春によって夢見られ、作られたフィクションとしての貧乏である。だからどの作品にもどこか余裕が感じられるのだし、ユーモアも生まれてくる。にもかかわらず、つげ義春が世捨て人になりたいと思う隠者願望だけは作られたものではない。彼は現代では不可能だとは百も承知で世俗から降りてしまった世捨て人を夢見る。川辺は都市の中の見捨てられた場所だ。つげ義春は、世捨て人になりたいという気持ちと、いやそれはもう不可能だという気持ちとに引き裂かれている『無能の人』は、この両極の緊張のドラマである。(「川本三郎の注目したい表現者たち④隠者願望」『COMICばく』NO.14 1987年夏号 日本文芸社より要約)[4]

吉本隆明

編集

吉本は、新潮文庫版『無能の人・日の戯れ』の解説において、以下のように述べている。

高みに登ったり、張り切ったりすると不安でいたたまれなくなるので、いつもじぶんを最低のところにおいているような性格の主人公が演じる亭主の無能さに絶望した女房や、どこかうらぶれた周囲の人びとや、に出掛ける山や谷川沿いのさびれた鉱泉宿の風景などを背景にしたつげ義春ドラマには、作者の資質の悲しさが、幾分かの度合いでからんでいるようにおもえて、ひとつの醇乎とした世界を作っている。 — 新潮文庫版『無能の人・日の戯れ』解説[5]

映画

編集

竹中直人の映画初監督作品。上記の原作がモチーフとなっているが、つげの他の作品「退屈な部屋」「日の戯れ」などが、助川夫妻の過去のエピソードとして使用されている。また予告編はおよそ、つげ作品とは思えない、「制作費××円」などのアメリカ大作映画のような大袈裟な演出がなされている。ナレーションは竹中本人によるもので、最後に「僕、無能ー!」と素っ頓狂に叫ぶのも特徴。映画内容は原作を忠実に再現することにこだわり、これにはつげ本人も相当驚いていた。

また、ゴンチチによるテーマ曲(インストゥルメンタル)は、竹中による詞が後付けされ、当時発売されたガイド本『無能の人のススメ』に掲載された。ビデオソフトの特典映像にはこの曲を竹中が歌うバージョンが収められている。

出演

編集

スタッフ

編集

受賞

編集

エピソード

編集
  • 原作者のつげ義春は、ロケ地の一つである多摩川へロケの終わった翌日に再度訪れるが、石屋のセットや小屋は跡形もなく、寒風に吹かれる河原の枯れたを眺めながら、祭りの過ぎ去った後の一人取り残された寂しさを味わったという(『つげ義春ワールド ゲンセンカン主人』(ワイズ出版))。

テレビドラマ

編集

1998年7月にテレビ東京の深夜ドラマ『つげ義春ワールド』において放送された。

出演(テレビドラマ)

編集

スタッフ(テレビドラマ)

編集

脚注

編集
  1. ^ a b c d つげ義春 『つげ義春漫画術』(下) ワイズ出版、1993年10月 ISBN 4-948735-19-1
  2. ^ 芸術新潮』2021年9月号「矢部太郎×つげ正助 ぼくたちのお父さん」(新潮社
  3. ^ a b c d e f g つげ義春漫画術(上巻)』(1995年10月 ワイズ出版ISBN 4948735183ISBN 978-4948735187
  4. ^ 「川本三郎の注目したい表現者たち④隠者願望」『COMICばく』NO.14 1987年夏号 日本文芸社より要約
  5. ^ 新潮文庫版『無能の人・日の戯れ』1998年7月15日発行

外部リンク

編集