移植片対宿主病
移植片対宿主病︵いしょくへんたいしゅくしゅびょう、graft versus host disease; GVHD︶とは臓器移植に伴う合併症のひとつ。
移植片︵グラフト︶にとって、レシピエント︵臓器受給者︶の体は異物である。GVHDとはドナー︵臓器提供者︶の臓器が、免疫応答によってレシピエントの臓器を攻撃することによって起こる症状の総称である。
混同されることがある病態として、いわゆる拒絶反応がある。拒絶反応はレシピエントの免疫応答によってドナーの移植片が攻撃されることによる合併症の総称であり、GVHDとは、攻撃する側と攻撃される側が反対である。
GVHDは様々な他家臓器移植の後に発生するが、特に免疫組織を直接移植する、造血幹細胞移植︵骨髄移植︶後や輸血後のものが知られている︵GVHDの分類と診断︶。
造血幹細胞移植後GVHD
編集概念
編集移植による血液提供者の免疫機構が、受血者の全身組織を攻撃、破壊する疾患である。
原因
編集症状
編集移植から1~2週間程度で発症する急性GVHDと移植から120日以降に発症する慢性GVHDに分類するが、必ずしも発症時期から分類できる病態ではない。
予防
編集急性期には免疫抑制剤やステロイドが有効であるが、慢性期の予防法は確立されていない。
治療と予後
編集輸血後GVHD
編集詳細は「輸血後移植片対宿主病」を参照
概念
編集
輸血血液中に含まれる血液提供者のリンパ球が増殖し、受血者の全身組織を攻撃、破壊する疾患である。輸血を伴った術後に激烈なアレルギー様反応を来して死亡する例は昔から知られており﹁術後紅皮症﹂とも呼ばれていたが、1980年代から1990年代にかけて原因がほぼ解明され、医療従事者に広く認知されるようになった[1][2][3][4]。
現在では赤血球・血小板など血液の構成成分ごとの輸血が普及し、輸血製剤中のリンパ球は、製剤過程中にほぼ取り除かれているが、それでも少量のリンパ球が製剤中に残存する。通常の場合は輸血血液に含まれるリンパ球と受血者の体組織は、お互いを異物と認識して攻撃し合うが、輸血内のリンパ球は少数であり、前者が後者に勢力で勝ることは通常あり得ない。結局、残存リンパ球は、受血者の免疫応答によって完全に排除される。
しかし、稀に輸血中の残存リンパ球が、受血者の体内で制限を受けず増殖し、ついには受血者の正常な体組織を傷害するに至ることがあり、これを輸血後GVHDと呼ぶ[1][2]。
原因
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原因ははっきりとは確立されていないが、以下のようなことが考えられている。
HLAが供血者のHLA型がホモ結合で、かつ受血者と半合一致している。
HLAの一方通行適合(one-way match)と呼ばれる﹁供血者のリンパ球にとって受血者は異物であるが、受血者にとって供血者の血液を異物として認識できない﹂状態があり得ることが知られており、このようなケースでは供血者のリンパ球は、受血者の体内で攻撃を受けずに増殖できる。親族間での輸血で発症率が高いことはHLA適合が重要な役割を果たしていることを説明している。[1][2][4]
受血者の免疫機能が低下している
輸血後GVHDは、老人や免疫不全時、手術時に高頻度で発生する。ただし以前は受給者が免疫不全状態にある場合にのみ発症すると考えられていたが、現在では免疫正常者にも発症することが知られている。そのため、HLAが類似しない供血者からの輸血時に起こるGVHDはこちらが原因だと考えることができる[1][2]。
症状
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輸血から約1~2週間後に発熱や赤斑が現れ、やがて赤斑は全身に及ぶ。さらに下の症状が起こる。
●発熱
●発疹
●下痢
●肝機能障害
●顆粒球減少と、それに伴う重篤な日和見感染症
●血小板減少
●貧血
●多臓器不全
これらの症状は激烈かつ難治性であり、ほとんどの場合、骨髄無形成をきたして程なく死亡に至る。多くの症状があるが、急性GVHDの標的は皮膚、消化管、肝臓、慢性GVHDの標的は多臓器に及ぶというイメージで推定は可能である[1][2]。
予防
編集脚注
編集- ^ a b c d e f g 浅野茂隆、池田康夫、内山卓 監修 『三輪血液病学』文光堂、2006年、ISBN 4-8306-1419-6、pp.709-710
- ^ a b c d e f 遠山 博、他、編著『輸血学』改訂第3版、中外医学社、2004年、ISBN 4-498-01912-1、pp.636-644
- ^ 小川 聡 総編集 『内科学書』Vol.6 改訂第7版、中山書店、2009年、ISBN 978-4-521-73173-5、p.54
- ^ a b c d 徳島大学医学部附属病院輸血部 廣瀬政雄, 輸血後移植片対宿主病 2000年10月4日改訂 大阪大学大学院医学系研究科・医学部HP寄稿記事