阿閦如来
阿閦如来[注1]︵あしゅくにょらい、梵: Akṣobhya, アクショーブヤ︶は、大乗仏教における信仰対象である如来の一尊[3]。東方の現在仏[4]。阿閦仏︵あしゅくぶつ︶ともいう[3]。漢訳仏典では阿閦婆などとも音写し、無動︵無動如来︶[5]、無瞋恚[3]、無怒、不動[6]などと訳す[4]。
阿閦如来 | |
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名 | 阿閦如来 |
梵名 |
Akṣobhya (アクショーブヤ) |
蔵名 | མི་འཁྲུགས་པ། |
別名 |
阿閦仏 無動如来 無動 無瞋恚 無怒 不動 |
種字 |
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真言・陀羅尼 | オン・アキシュビヤ・ウン |
経典 | 『大宝積経』 |
信仰 |
密教 チベット仏教 ネパールの仏教 |
浄土 | 東方妙喜世界 |
関連項目 |
薬師如来 宝幢如来 降三世明王 |
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/d/df/AshukuNyorai.jpg/220px-AshukuNyorai.jpg)
概説
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﹁阿閦仏国経﹂︵﹃大宝積経﹄第六不動如来会︶によれば、[要出典]昔、東方の阿比羅提︵あびらだい、梵: Abhirati︵アビラティ︶。妙喜・善快と訳す︶という国に現れた大目︵不動如来会には広目と記される︶如来のところで無瞋恚・無婬欲の願を発し修行して、東方世界で成仏したといわれる[4]。阿閦仏はその国土で説法中であるという[4]。
梵名のアクショーブヤとは﹁揺れ動かない者﹂という意味で、この如来の悟りの境地が金剛︵ダイヤモンド︶のように堅固であることを示す[6]。
大乗仏教の空思想を説いた﹃維摩経﹄の主人公維摩居士も、阿閦仏国より来生したとされている[8]。
阿閦如来は密教における金剛界五仏︵五智如来︶の一尊で[3]、金剛界曼荼羅では大日如来の東方︵画面では大日如来の下方︶に位置する。唯識思想でいう﹁大円鏡智﹂︵だいえんきょうち︶を具現化したものとされる。また胎蔵界の東方、宝幢如来と同体と考えられている。印相は、右手を手の甲を外側に向けて下げ、指先で地に触れる﹁触地印﹂︵そくちいん、﹁降魔印‥ごうまいん﹂とも︶を結ぶ。これは、釈迦が悟りを求めて修行中に悪魔の誘惑を受けたが、これを退けたという伝説に由来するもので、煩悩に屈しない堅固な決意を示す[6]。
日本の仏教︵主に真言宗と天台宗︶では、五大明王のうち東方に位置する降三世明王を阿閦如来の化身とする[9]。また、同じく東方を仏国土とする薬師如来と同一視されることもある[10]。
造像
編集後期密教
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インド仏教の後期に主流となった後期密教においては、忿怒形︵ふんぬぎょう︶の護法尊が多数信仰されるようになった。また後期密教では最高位の仏︵本初仏、勝初仏︶が、大日如来から、法身普賢、金剛薩埵、持金剛仏等へと変化していった。また阿閦如来は阿閦金剛として、無上瑜伽タントラ各経典の主尊と同一視されつつ、曼荼羅の中尊を担うようになった。特に﹃秘密集会タントラ﹄と結びつけられることが多く、青色の歓喜仏︵ヤブユム︶の姿で、タンカなどの美術品に描かれることが多い。イスラム教の台頭と仏教の衰退を背景として成立した、インド仏教・後期密教の終末期の経典である﹃カーラ・チャクラ︵時輪︶タントラ﹄でも、護法尊を統括する本初仏として阿閦金剛仏たる阿閦如来が主尊である。時輪タントラでは、シャンバラは阿閦如来の変化身である忿怒尊ヘーヴァジュラ仏︵呼金剛仏、喜金剛仏︶[12]を本尊とするカーラ・チャクラで満ちているとされ、無上不動の信仰・智慧を得ることが説かれる。
インド後期密教の流れを受け継ぐチベット仏教やネパールの仏教では、阿閦如来は単独で広く信仰され、造像例も多い[13]。
エピソード
編集![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/a/a2/No._57_Akasaka_%E8%B5%A4%E5%9D%82_%28BM_2008%2C3037.14757%29.jpg/220px-No._57_Akasaka_%E8%B5%A4%E5%9D%82_%28BM_2008%2C3037.14757%29.jpg)
脚注
編集注釈
編集出典
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(一)^ “阿閃如来”. 龍光山正宝院. 2021年8月30日閲覧。
(二)^ “十一 知名度は低いけどダイナマイトパワー 阿閃如来︻あしゅくにょらい︼”. 高野山真言宗 末代山 妙楽寺. 2021年8月30日閲覧。
(三)^ abcd“阿閦仏(あしゅくぶつ)とは - コトバンク”. 朝日新聞社. 2017年10月6日閲覧。
(四)^ abcde﹃総合仏教大辞典﹄ 1988, p. 13.
(五)^ 金子大輔﹃阿閦仏の研究﹄, p. 82.
(六)^ abc“ブッダの教えを読みとく︵2︶阿閦仏と触地印”. 宗教情報センター. 2021年8月30日閲覧。
(七)^ ab藤巻一保・羽田守快・大宮司朗 ﹃印と真言の本﹄ 学研、2004年2月、p.97。
(八)^ 金子大輔﹃阿閦仏の研究﹄, p. 82-84.
(九)^ ﹃精選版 日本国語大辞典﹄︽﹁降三世明王﹂の解説︾小学館。
(十)^ “阿閦如来の役割・由来・見られる寺院・レプリカ通販可否まとめ”. 和のすてき 和の心を感じるメディア. 2021年8月30日閲覧。
(11)^ ab“高野山霊宝館︻高野山と文化財‥文化財年表 金堂焼失諸仏︼”. 高野山霊宝館. 2017年10月6日閲覧。
(12)^ “Hevajra Buddha”. Tibetan Buddhist Encyclopedia. 2021年8月30日閲覧。
(13)^ “Akshobhya”. Tibetan Buddhist Encyclopedia. 2021年8月30日閲覧。 “Aksobhya is well known in Nepal and Tibet.”
参考文献
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●総合仏教大辞典編集委員会︵編︶﹃総合仏教大辞典﹄ 上、法蔵館、1988年。
●金子大輔﹃阿閦仏の研究﹄龍谷大学大学院文学研究科︿平成23年度学位(博士)申請論文﹀、2011年9月16日。2021年8月30日閲覧。