ホワイトカラーエグゼンプション
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ホワイトカラーエグゼンプション(White Collar exemption、ホワイトカラー労働時間規制撤廃制度)は、いわゆるホワイトカラー労働者に対する労働時間規制を適用免除︵exempt︶すること。ホワイトカラーを全員裁量労働制とみなすようなものである。
2005年6月に日本経団連が提言を行い、2006年6月に厚生労働省が素案を示した。
厚労省は2007年の通常国会に関連法案を提出する意向であり[1]、早ければ2008年度にも法律として施行される可能性がある。
背景
日経連が﹁新時代の日本的経営﹂という本において提案したことで注目された。 ﹁ホワイトカラー﹂は、その働き方に裁量性が高く、労働時間の長さと成果が必ずしも比例しない部分があるとしており、このため、労働時間に対して賃金を支払うのではなく、成果に対して賃金を支払う仕組みが必要、というのが提案の要旨である。 この提案については、﹁合法的に賃金を抑制したい﹂﹁労働者は、自己の健康は自分で管理すべき﹂といった経営側の飽くなき利益追求および社会的責任の放棄に過ぎないとの主張もされている[2]。 また、厚労省が過労死の元凶となっている無賃労働の取り締まりを強化したため、その回避策としての提案ではないかとの指摘もある。これらの意見を持つ者は、日経連の提案を﹁盗人猛々しい﹂と批判している。導入のメリット
経営者側
経営者側のメリットとして、達成すべき成果をもとに時間という概念を考えないで人員配置などの経営計画をたてやすくなるという点が挙げられる。 また、残業の多寡による給与変動が無くなることや、対象従業員の健康管理義務が無くなる事もメリットの一つと言える。 意図的にダラダラと残業して得をしようとする社員や労働者が減る可能性もあり、業務がさらに効率的に行われるようになるのではないかと期待している経営者もいる。労働者側
同じ成果でも時間をかけて残業してやった方が賃金が高くなる…という不公平が無くなり、人により自由な時間の使い方が可能になるという点が挙げられる。 ただし、後述するように、賃金と成果の関係などがあいまいなため、必ずしも思ったようなメリットを享受できない可能性がある。問題点
日本経団連の提案では、あるべき給与の決定方法について法案化を含めた具体的な対策が示されていない。また、超過労働への対処策については基本的に個々の企業の問題としている。そのため、短時間で成果を上げた労働者に賃金はそのままで次々に仕事を与えるだけ︵労働強化)ではないか、無賃金残業を合法化しようとするだけ︵労働時間強化)ではないか、労働者の健康管理コストを削減したいだけではないか、といった批判が発生することとなっている。サービス残業の合法化
これまでは、時間外労働に対して﹁割増賃金を支払う義務﹂が存在しており、また形骸化されているとはいえ、﹁時間外・休日労働に関する協定︵36協定︶﹂の存在もあった事で、労働時間が過剰に増える事に対する一定の歯止めがあったが、ホワイトカラーエグゼンプション導入が実現化すると、それらの歯止めが一切無くなる。 実際にホワイトカラーエグゼンプションを導入しているアメリカでも、適用除外労働者のほうが労働時間が長くなる傾向にある。[3] また、経団連の提言では、仕事と賃金の関係についても具体的な規定を想定していないので、企業によっては、仕事を増やすだけ増やして賃金は増やさない、処理しきれなかった仕事の分は減給という事にもなりかねない。﹁欠勤は減給とする﹂という提案とあわせると、休日労働の常態化の危険も指摘される。労働者の健康管理に関しての懸念
ホワイトカラーエグゼンプションにより労働時間は経営者の管理対象から外れるので、万が一従業員が過労死した場合も、従業員の自己責任で片付けられる可能性が出てくる。労災にも問われなくなるので労災保険料︵労災が出ると保険料が上がる、100%会社負担の保険料︶が抑制でき、過労死裁判などで従業員の遺族に多額の賠償金を支払う、という可能性も減少する。 日本経団連では、労働者の最大拘束時間を定めたり、一定時間勤務したものに休暇を付与したり、一定期間毎の健康診断を行ったりといった対策を提言しているが、いずれも労使で﹁自主的に取り決めるべき﹂としており、実効性に疑念がもたれている。﹁ホワイトカラー﹂の定義の曖昧さ
経団連からの提言によると﹁現行の専門業務型裁量労働制の対象業務に従事する労働者﹂は無条件で適用除外対象、としているが、提言ではこれに加えて﹁労使協定や労使委員会の決議で定めた業務で、かつ年収400万円以上﹂であれば適用除外対象、とされている。 言い方を変えれば、工場労働者やスポーツクラブのインストラクターなどの﹁肉体労働者﹂であっても、年収が400万以上であれば、適用除外とする事が可能になる、という事である。 このように定義を曖昧にすることにより、企業側が自己の裁量において適用範囲を広げることを狙っている。 しかし、現在年収300万円台の労働者に対する残業時間が多いことから、適用除外対象を徐々に広げていくことが望ましいと云われている。影響範囲
影響は非常に広範囲である。影響を受けるのは年収が一定以上の正社員だけが対象と思われやすいが、ケースによっては、パートやアルバイトにも影響がある。 今までアルバイトなどに回していた仕事を、割増賃金なしでホワイトカラーエグゼプション対象者に回し、アルバイトを解雇するといった例が典型と考えられる。このようなケースでは、労働時間の強化に苦しむ人が出る一方で、就業の機会を失う人が出てくるということになる。 具体的な想定ケースを下記に示す。Aさん(リーダー) | Bさん(部下) | Cさん(非正規雇用) |
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↓ 制度施行後 ↓ | ||
Aさん | Bさん | Cさん |
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解雇 | 解雇 |
上記は、Aさんが適用除外対象として、BさんやCさんの仕事をAさんに押し付けるケースである。
企業側としては、BさんCさんの人件費をカットした上、Aさんの残業代もカットできるので、Aさんのチームの人件費を半分以下に抑制出来る事になる。
なお、この場合のAさんの年間労働時間は約5,000時間にも及ぶが、企業側はAさんの労働時間を管理対象とする法的義務がない。仮に、激務に耐えられずにAさんが過労自殺しようがそれはAさんの自己責任ですまされる危険がある。