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'''ミレトスのヘカタイオス'''︵{{lang-grc-short|'''Ἑκαταῖος'''}}, {{ラテン翻字|el|Hekataïos}}, [[紀元前550年]]頃 - [[紀元前476年]]頃︶は、[[古代ギリシア]]の[[著作家]]、[[歴史家]]、[[神話学者]]。
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ヘカタイオスは富裕な家に生まれた。名前は[[ギリシア神話]]の[[女神]][[ヘカテー]]にちなんでつけられた。全盛期は[[ペルシア戦争]]の頃である。広範囲にわたって旅した後、生まれ故郷の[[ミレトス]]に定住した。高い地位に就き、神話学や歴史の本の執筆に専念した。[[アリスタゴラス]]がミレトスの僭主として、[[ペルシア]]に対して[[イオニアの反乱]]を計画した時、ヘカタイオスは説得してやめさせようとした<ref>[[ヘロドトス]]﹃歴史﹄v.36, 125</ref>。[[紀元前494年]]、敗北した[[イオニア]]諸都市がいろいろな条件を要求された時には、ヘカタイオスは大使の一人としてペルシアの[[サトラップ]]、[[アルタフェルネス]]のところに行き、イオニア諸都市の国体の復活を説得した<ref>[[シケリアのディオドロス]]﹃歴史叢書﹄10.25</ref>。ヘカタイオスはギリシアで最初の[[歴史家]]とも言われ<ref name="lamberg-karlovsky-p4">{{cite book |title=Ancient Civilizations: The Near East and Mesoamerica |author=Lamberg-Karlovsky, C. C. and Jeremy A. Sabloff |publisher=Benjamin/Cummings Publishing |year=1979 |pages=p. 5}}</ref>、[[ケルト人]]について言及した最初期の著作家の1人でもある。
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ヘカタイオスは富裕な家に生まれた。名前は[[ギリシア神話]]の[[女神]][[ヘカテー]]にちなんでつけられた。全盛期は[[ペルシア戦争]]の頃である。広範囲にわたって旅した後、生まれ故郷の[[ミレトス]]に定住した。高い地位に就き、神話学や歴史の本の執筆に専念した。[[アリスタゴラス]]がミレトスの僭主として、[[ペルシア]]に対して[[イオニアの反乱]]を計画した時、ヘカタイオスは説得してやめさせようとした<ref>[[ヘロドトス]]﹃歴史﹄v.36, 125</ref>。[[紀元前494年]]、敗北した[[イオニア]]諸都市がいろいろな条件を要求された時には、ヘカタイオスは大使の一人としてペルシアの[[サトラップ]]、[[アルタフェルネス]]のところに行き、イオニア諸都市の国体の復活を説得した<ref>[[シケリアのディオドロス]]﹃歴史叢書﹄10.25</ref>。ヘカタイオスはギリシアで最初の[[歴史家]]とも言われ<ref name="lamberg-karlovsky-p4">{{cite book |title=Ancient Civilizations: The Near East and Mesoamerica |author=Lamberg-Karlovsky, C. C. and Jeremy A. Sabloff |publisher=Benjamin/Cummings Publishing |year=1979 |pages=p. 5}}</ref>、[[ケルト人]]について言及した最初期の著作家の1人でもある。
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==作品== |
== 作品 == |
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[[File:Hecataeus world map-en.svg|thumb|right|280px|ヘカタイオスの世界地図の復元(著作:[http://commons.wikimedia.org/wiki/User:Bibi_Saint-Pol Bibi Saint-Pol])]] |
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2巻から成る『Ges Periodos(地球を回る旅、世界概観)』と題された本をヘカタイオスの作とする意見がある。どちらの巻も[[ペリプルス]]の形式で書かれていて、沿岸を点々に眺めたものである。1巻は[[ヨーロッパ]]についてのもので基本的に地中海の周航記である。[[スキタイ]]の北まで各地域を順番に記述している。もう1巻は[[アジア]]についてで、[[1世紀]]の周航記『[[エリュトゥラー海案内記]]』と似た構成になっている。ヘカタイオスは既知の世界の国々とそこに住む住人を記述している。[[エジプト]]についてはとくに広範囲に及んでいる。解説には[[アナクシマンドロス]]の世界地図を修正・拡大した地図がついている。この本は374の断片が現存している。[[ビザンティウムのステファヌス]]編纂の地理用語集『Ethnika』にも多数引用されている。 |
2巻から成る『Ges Periodos(地球を回る旅、世界概観)』と題された本をヘカタイオスの作とする意見がある。どちらの巻も[[ペリプルス]]の形式で書かれていて、沿岸を点々に眺めたものである。1巻は[[ヨーロッパ]]についてのもので基本的に地中海の周航記である。[[スキタイ]]の北まで各地域を順番に記述している。もう1巻は[[アジア]]についてで、[[1世紀]]の周航記『[[エリュトゥラー海案内記]]』と似た構成になっている。ヘカタイオスは既知の世界の国々とそこに住む住人を記述している。[[エジプト]]についてはとくに広範囲に及んでいる。解説には[[アナクシマンドロス]]の世界地図を修正・拡大した地図がついている。この本は374の断片が現存している。[[ビザンティウムのステファヌス]]編纂の地理用語集『Ethnika』にも多数引用されている。 |
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==懐疑主義== |
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ヘカタイオスの著作、とくに『Genealogiai』は顕著な懐疑主義を示している。『Genealogiai』は次の言葉で始まる。「ミレトスのヘカタイオスはかく語りき。私は真実と思うことを書く。ギリシア人の話は多種多様で、私にはばかげたものに思われる」<ref>''The History of History''; Shotwell, James T. (NY, Columbia University Press, 1939) p. 172</ref>。しかし、同時代の[[クセノパネス]]と違って、ヘカタイオスは神話を批判しなかった。ヘカタイオスの疑問はむしろ、旅で知った神話の多くの矛盾から生じたものだった。 |
ヘカタイオスの著作、とくに『Genealogiai』は顕著な懐疑主義を示している。『Genealogiai』は次の言葉で始まる。「ミレトスのヘカタイオスはかく語りき。私は真実と思うことを書く。ギリシア人の話は多種多様で、私にはばかげたものに思われる」<ref>''The History of History''; Shotwell, James T. (NY, Columbia University Press, 1939) p. 172</ref>。しかし、同時代の[[クセノパネス]]と違って、ヘカタイオスは神話を批判しなかった。ヘカタイオスの疑問はむしろ、旅で知った神話の多くの矛盾から生じたものだった。 |
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ヘカタイオスは[[ホメーロス]]など詩人たちの信頼性は認めるものの、神話と歴史的事実とは区別して、散文による歴史を書こうとした最初の[[ロゴグラポス]]であったと思われる。 |
ヘカタイオスは[[ホメーロス]]など詩人たちの信頼性は認めるものの、神話と歴史的事実とは区別して、散文による歴史を書こうとした最初の[[ロゴグラポス]]であったと思われる。 |
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ところで、同じように散文で歴史を書いたヘロドトスは、[[古代エジプト]]の[[テーベ]]の神殿を訪ねた時、エジプトの祭司たちから、神殿内の広間にあった歴代の祭司長の木像を見せられた。ヘロドトスは、ヘカタイオスが自分の系譜を調べたら16代目で神に辿り着いたと言ったことを思いだし、エジプトの祭司たちにそう話すと、エジプト人たちはそんなことはありえないと否定する。なぜなら自分たちは神から数えて345世代目だからと言う<ref>ヘロドトス『歴史』ii.143</ref>。この話はヘカタイオスの懐疑主義とは関係ないが、ギリシア人の神話化された歴史が、[[ミケーネ]]誕生前(紀元前2000年頃)からあった文明の歴史を途方もなく短く縮めていることを示すものである<ref>Ibid., pp. 172–173; also ''The Ancient Greek Historians''; Bury, John Bagnell (NY, Dover Publications, 1958), pp. 14, 48</ref>。 |
ところで、同じように散文で歴史を書いた[[ヘロドトス]]は、[[古代エジプト]]の[[テーベ]]の神殿を訪ねた時、エジプトの祭司たちから、神殿内の広間にあった歴代の祭司長の木像を見せられた。ヘロドトスは、ヘカタイオスが自分の系譜を調べたら16代目で神に辿り着いたと言ったことを思いだし、エジプトの祭司たちにそう話すと、エジプト人たちはそんなことはありえないと否定する。なぜなら自分たちは神から数えて345世代目だからと言う<ref>ヘロドトス『歴史』ii.143</ref>。この話はヘカタイオスの懐疑主義とは関係ないが、ギリシア人の神話化された歴史が、[[ミケーネ]]誕生前(紀元前2000年頃)からあった文明の歴史を途方もなく短く縮めていることを示すものである<ref>Ibid., pp. 172–173; also ''The Ancient Greek Historians''; Bury, John Bagnell (NY, Dover Publications, 1958), pp. 14, 48</ref>。 |
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==参考文献== |
== 参考文献 == |
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* {{1911|wstitle=Hecataeus of Miletus|volume=13|page=193}} |
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{{1911}} |
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*ヘロドトス『[[歴史 (ヘロドトス)|歴史]]』([[松平千秋]]・訳。[[岩波文庫]]) |
* [[ヘロドトス]]『[[歴史 (ヘロドトス)|歴史]]』([[松平千秋]]・訳。[[岩波文庫]]) |
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⚫ | * [http://www.livius.org Livius], [http://www.livius.org/he-hg/hecataeus/hecataeus.htm Hecataeus of Miletus] by Jona Lendering |
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⚫ | * [http://www.iranica.com/articles/v12f1/v12f1092.html Iranica:] detailed article on Hecataeus of Miletus, bibliography |
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⚫ | * [https://books.google.co.jp/books?id=CjkJAAAAQAAJ&hl=el&redir_esc=y 1831 edition of Hecateus' fragments from Google Books] |
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ミレトスのヘカタイオス Ἑκαταῖος | |
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誕生 | 紀元前550年頃 |
死没 | 紀元前476年頃 |
職業 | 著作家、歴史家、神話学者 |
生涯[編集]
ヘカタイオスは富裕な家に生まれた。名前はギリシア神話の女神ヘカテーにちなんでつけられた。全盛期はペルシア戦争の頃である。広範囲にわたって旅した後、生まれ故郷のミレトスに定住した。高い地位に就き、神話学や歴史の本の執筆に専念した。アリスタゴラスがミレトスの僭主として、ペルシアに対してイオニアの反乱を計画した時、ヘカタイオスは説得してやめさせようとした[1]。紀元前494年、敗北したイオニア諸都市がいろいろな条件を要求された時には、ヘカタイオスは大使の一人としてペルシアのサトラップ、アルタフェルネスのところに行き、イオニア諸都市の国体の復活を説得した[2]。ヘカタイオスはギリシアで最初の歴史家とも言われ[3]、ケルト人について言及した最初期の著作家の1人でもある。作品[編集]
懐疑主義[編集]
ヘカタイオスの著作、とくに﹃Genealogiai﹄は顕著な懐疑主義を示している。﹃Genealogiai﹄は次の言葉で始まる。﹁ミレトスのヘカタイオスはかく語りき。私は真実と思うことを書く。ギリシア人の話は多種多様で、私にはばかげたものに思われる﹂[4]。しかし、同時代のクセノパネスと違って、ヘカタイオスは神話を批判しなかった。ヘカタイオスの疑問はむしろ、旅で知った神話の多くの矛盾から生じたものだった。 ヘカタイオスはホメーロスなど詩人たちの信頼性は認めるものの、神話と歴史的事実とは区別して、散文による歴史を書こうとした最初のロゴグラポスであったと思われる。 ところで、同じように散文で歴史を書いたヘロドトスは、古代エジプトのテーベの神殿を訪ねた時、エジプトの祭司たちから、神殿内の広間にあった歴代の祭司長の木像を見せられた。ヘロドトスは、ヘカタイオスが自分の系譜を調べたら16代目で神に辿り着いたと言ったことを思いだし、エジプトの祭司たちにそう話すと、エジプト人たちはそんなことはありえないと否定する。なぜなら自分たちは神から数えて345世代目だからと言う[5]。この話はヘカタイオスの懐疑主義とは関係ないが、ギリシア人の神話化された歴史が、ミケーネ誕生前︵紀元前2000年頃︶からあった文明の歴史を途方もなく短く縮めていることを示すものである[6]。脚注[編集]
- ^ ヘロドトス『歴史』v.36, 125
- ^ シケリアのディオドロス『歴史叢書』10.25
- ^ Lamberg-Karlovsky, C. C. and Jeremy A. Sabloff (1979). Ancient Civilizations: The Near East and Mesoamerica. Benjamin/Cummings Publishing. pp. p. 5
- ^ The History of History; Shotwell, James T. (NY, Columbia University Press, 1939) p. 172
- ^ ヘロドトス『歴史』ii.143
- ^ Ibid., pp. 172–173; also The Ancient Greek Historians; Bury, John Bagnell (NY, Dover Publications, 1958), pp. 14, 48
参考文献[編集]
- この記事にはアメリカ合衆国内で著作権が消滅した次の百科事典本文を含む: Chisholm, Hugh, ed. (1911). "Hecataeus of Miletus". Encyclopædia Britannica (英語). Vol. 13 (11th ed.). Cambridge University Press. p. 193.
- ヘロドトス『歴史』(松平千秋・訳。岩波文庫)
外部リンク[編集]
- Livius, Hecataeus of Miletus by Jona Lendering
- Iranica: detailed article on Hecataeus of Miletus, bibliography
- 1831 edition of Hecateus' fragments from Google Books