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20世紀の美術史学は、こうした基礎の上にさらに多様な発展を見せる。[[アロイス・リーグル]]の﹃様式論﹄ (1893) や﹃後期ローマ帝国時代の芸術産業﹄ (1901) においては、研究対象が西欧以外の工芸にまで拡大され、また文様の発展の法則が示されて﹁様式論﹂の手法が一つの完成をみた。様式論の手法は、[[ハインリヒ・ヴェルフリン]]﹃美術史の基礎概念﹄︵1915) や[[アンリ・フォシヨン]]﹃形体の生命﹄︵1934︶ においてさらに深化を遂げ、作品分析のための有効な方法論となってゆく。<ref>神林恒道﹁様式史としての美術史﹂︵神林恒道ほか編﹃芸術学ハンドブック﹄勁草書房、1989, pp. 22-27︶</ref>
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一方、[[エミール・マール]]の図像学的研究や[[マックス・ドボジャーク]]の精神史的研究の蓄積を経て、[[アビ・ヴァールブルク]]と[[エルヴィン・パノフスキー]]の手で、新しい方法論[[イコノロジー]] (図像学) が産み落とされる。ヴェルフリンらが代表する様式論は、美術作品を形態や表現形式といった外形を通じて分析しようとするが、新しいイコノロジーは、作品の主題や意味そのものに注目する。図像を象徴的価値をはらむものとして捉え、作品を生んだ文化全体に照らし合わせて作品の意味を解読しようとするイコノロジーは、20世紀前半の美術史で大きな勢力を形成した。
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一方、[[エミール・マール]]の図像学的研究や[[マックス・ドボジャーク]]の精神史的研究の蓄積を経て、[[アビ・ヴァールブルク]]と[[エルヴィン・パノフスキー]]の手で、新しい方法論[[イコノロジー]] (図像学) が産み落とされる。ヴェルフリンらが代表する様式論は、美術作品を形態や表現形式といった外形を通じて分析しようとするが、新しいイコノロジーは、作品の主題や意味そのものに注目する。図像を象徴的価値をはらむものとして捉え、作品を生んだ文化全体に照らし合わせて作品の意味を解読しようとするイコノロジーは、20世紀前半の美術史で大きな勢力を形成した。
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このような様々な方法論開拓の試みは、第 2 次大戦後もさらに進み、心理学や社会学・文化人類学など、隣接諸科学の成果を取り入れた美術史研究が盛んに続けられている。 作品の調査技術もX 線の利用や化学分析など科学的方法の導入によって劇的に発展してゆく。 |
このような様々な方法論開拓の試みは、第 2 次大戦後もさらに進み、心理学や社会学・文化人類学など、隣接諸科学の成果を取り入れた美術史研究が盛んに続けられている。 作品の調査技術もX 線の利用や化学分析など科学的方法の導入によって劇的に発展してゆく。 |
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==美術史批判と方法の拡散== |
==美術史批判と方法の拡散== |
2012年10月31日 (水) 13:36時点における版
﹁美術史﹂︵英‥en: Art history/ 仏‥Histoire de l'art/ 独‥Kunstgeschichte︶という言葉は、1︶絵画・建築・彫刻・工芸品など造型芸術の歴史、2︶それを研究する学問、の二つの意味で用いられる。後者は美術史学とも呼ばれる。以下では︵2︶の美術史について述べる。︵前者については、西洋美術史・日本美術史・東洋美術史などの項目を参照︶[1]
歴史的展開
16世紀以前 - 旅行記と﹁列伝﹂
広い意味での美術史的記述、すなわち美術作品や芸術家の活動についての記録は、古代から存在していた。パウサニアスの﹃ギリシア案内記﹄のような旅行記・案内記と、大プリニウス﹃博物誌﹄に現れるような芸術家・作品についての記録がそれである。この二つの伝統は中世ヨーロッパにおいても、巡礼案内やルネサンス期以降の都市案内記、芸術家の伝記などの形を取って存続した。[2] しかし芸術家や作品を明確な歴史意識のもとに記述する試みが登場するのは、一般にルネサンス期、とくにヴァザーリの﹃芸術家列伝﹄ (1550) においてとされる。この著作は﹁列伝﹂︵芸術家の伝記的情報の集成︶の形式を取りながら、全体を時代の流れに沿って3部に分けて、芸術の歴史的発展をも同時に叙述している。それぞれの時代に特有の歴史的枠組みが想定されており、この点で、最初の体系的な︿美術史﹀とも呼ばれる。 [3]ヴァザーリのこの手法および﹁列伝﹂の形式は、オランダのカレル・ヴァン・マンデル﹃画家の書﹄などに受け継がれた。18世紀〜19世紀後半 - 様式論の確立と鑑定技術の進歩
18世紀に至って、明確な方法意識と体系を持った学問としての美術史が成立する。ヴィンケルマンは、﹃古代美術史﹄(1764︶や﹃ギリシア芸術模倣論﹄(1755︶において、エジプトやローマなど地域・時代ごとに整理された歴史区分を示し、またそれぞれの区分のなかで様式が展開してゆくとする﹁様式論﹂に基づく最初の美術史像を提出した。 [4] 19世紀後半になると、作品の鑑定技術が長足の進歩をとげ、独立した学問としての美術史の基礎が築かれる。とくにイタリアのモレッリは、個々の作品の細部、たとえば絵画作品の中に描かれる人物の手足や耳の形といった部分に画家の癖・特徴が現れると考え、その広範な比較対象によって、署名のない作品の作者の特定や、偽作のふるいわけを行うための技術の体系化をこころみた。その集大成﹃イタリア絵画の芸術批判的研究﹄︵1890-93︶では主要な美術館に所蔵される絵画を広く検証してみせ、当時の美術研究者に大きな影響を与える。 この視覚的データにもとづく厳密な形態研究がバーナード・ベレンソンやフリートレンダーといった研究者に継承されてゆく一方で、19世紀末には写真図版が普及し始める。20世紀以降 - イコノロジー
20世紀の美術史学は、こうした基礎の上にさらに多様な発展を見せる。アロイス・リーグルの﹃様式論﹄ (1893) や﹃後期ローマ帝国時代の芸術産業﹄ (1901) においては、研究対象が西欧以外の工芸にまで拡大され、また文様の発展の法則が示されて﹁様式論﹂の手法が一つの完成をみた。様式論の手法は、ハインリヒ・ヴェルフリン﹃美術史の基礎概念﹄︵1915) やアンリ・フォシヨン﹃形体の生命﹄︵1934︶ においてさらに深化を遂げ、作品分析のための有効な方法論となってゆく。[5] 一方、エミール・マールの図像学的研究やマックス・ドボジャークの精神史的研究の蓄積を経て、アビ・ヴァールブルクとエルヴィン・パノフスキーの手で、新しい方法論イコノロジー (図像学) が産み落とされる。ヴェルフリンらが代表する様式論は、美術作品を形態や表現形式といった外形を通じて分析しようとするが、新しいイコノロジーは、作品の主題や意味そのものに注目する。図像を象徴的価値をはらむものとして捉え、作品を生んだ文化全体に照らし合わせて作品の意味を解読しようとするイコノロジーは、20世紀前半の美術史で大きな勢力を形成した。 このような様々な方法論開拓の試みは、第2次大戦後もさらに進み、心理学や社会学・文化人類学など、隣接諸科学の成果を取り入れた美術史研究が盛んに続けられている。 作品の調査技術もX線の利用や化学分析など科学的方法の導入によって劇的に発展してゆく。美術史批判と方法の拡散
分析の視点・技術の多様化をすすめてきた美術史学は、20世紀後半になって大きな転換点を迎えた。とりわけ巨匠による傑作が、主題や表現様式によって時代を画する﹁カノン︵=規範的作品︶﹂としてを美術史の叙述の中心を占めてきたことに対しては、厳しい批判が行われるようになった[6] 。 たとえば﹁傑作﹂﹁歴史﹂といった概念が西欧世界において規定されており、したがって﹁美術史﹂も西欧の視点に大きく偏っていること、男性中心の社会や文化が生み出した価値観が作品分析に大きく影響していることなどが批判され、女性やマイノリティ、非西欧世界、労働者階級といった観点からのアプローチが積極的に追求されるようになった[7]。 こうした美術史再編の動向は、旧来の美術史の克服をめざすものとして﹁ニュー・アート・ヒストリー﹂と呼ばれる。T・J・クラークやマイケル・バクサンドール、スヴェトラーナ・アルバースといった研究者が主導したこの潮流の中で、﹁美術﹂の範囲そのものも拡大する。 伝統的なアカデミズムの理論に沿った絵画や彫刻などの﹁ハイ・アート﹂を中心にしてきたことが批判され、たとえば映画や写真、ビデオといった新しい視覚表現が新たに研究対象に加わったため、﹁美術史﹂に代えて、広く視覚的な現象全般を対象にする﹁視覚文化研究﹂︵Visual Study または en:Visual Culture︶という名称も多く用いられるようになった。 このような旧来の美術史の枠組みそのものへの問い直しが活発に進められた結果、学問の基盤となる概念や研究目的、その方法論が多様化の一途をたどり、現時点では、自律した学問領域としての﹁美術史﹂の姿は見えにくくなっている[8]。美術史の実践
●美術史家 近年では、美術史家を専門領域でさらに細分化し、﹁写真史家﹂﹁建築史家﹂などという呼び方も用いられる。写真評論家、建築評論家も参照。- 専門誌、学会
- 専門の細分化
- 教育機関
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美術史の方法論
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日本の美術史学
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脚注
(一)^ ﹁美術史﹂︵﹃日本国語大辞典﹄第2版、小学館、2002︶‥"Art history" (Grove Dictionary of Art, Oxford UP, 1996)
(二)^ 高階秀爾﹁美術史と美学﹂︵今道友信﹃講座美学‥5 美学の将来﹄東京大学出版会、1985, pp. 217-225︶
(三)^ 伊藤拓真﹁ヴァザーリの歴史記述の内と外:﹃芸術家列伝﹄の地理的構成--第1部・2部を中心として﹂︵﹃西洋美術研究﹄13号, pp. 18-43, 2007)などを参照。
(四)^ 高階秀爾﹁美術史と美学﹂︵今道友信﹃講座美学‥5 美学の将来﹄東京大学出版会、1985, pp. 217-225︶
(五)^ 神林恒道﹁様式史としての美術史﹂︵神林恒道ほか編﹃芸術学ハンドブック﹄勁草書房、1989, pp. 22-27︶
(六)^ Jonathan Harris, Art History: The Key Concepts (London: Routledge, 2006, pp. 45-46)
(七)^ ハンス・ベルティング﹃美術史の終焉?﹄元木幸一訳、勁草書房, 1991. [原著 1895年、英語版1987年]
(八)^ 荒川裕子﹁"﹃美術史﹄におけるヒストリオグラフィーをめぐって"﹂︵﹃法政大学キャリアデザイン学部紀要﹄2011年3月, pp. 69-84
文献リスト
- パノフスキー「イコノグラフィとイコノロジー」(中森義宗ほか訳『視覚芸術の意味』岩崎美術社、1971, pp. 37-66)
- 神林恒道ほか編『芸術学ハンドブック』勁草書房、1989.
- ウード・クルターマン『芸術論の歴史』神林恒道ほか訳、勁草書房、1993.
- 若桑みどり『イメージを読む 美術史入門』筑摩書房〈ちくま学芸文庫〉、2005. [親本 1993]
- 三浦篤「西洋美術史学の方法と歴史」(高階秀爾・三浦篤編『西洋美術史ハンドブック』新書館、1997, pp. 194-217).
- ロバート・S・ネルソンほか編『美術史を語る言葉:22の理論と実践』秋庭史典ほか訳、ブリュッケ、2002.
- V・ハイドマイナー『美術史の歴史』吉城寺尚子ほか訳、ブリュッケ、2003.
- ダナ・アーノルド『美術史 〈1冊でわかる〉シリーズ』鈴木杜幾子訳、岩波書店, 2006.
- 永井隆則編『フランス近代美術史の現在:ニュー・アート・ヒストリー以後の視座から』三元社, 2007.