音圧
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音圧︵おんあつ、英: sound pressure︶とは、音波によって生じる媒質の静圧からの変動分[1]である。大気中においては大気圧からの変動分である[2][3]。媒質中のある点の瞬間圧力が静圧から変化した分を瞬時音圧といい、ある時間内の瞬時音圧の実効値を実効音圧という[4][5]。通常は実効音圧を単に音圧という[4][6]。音圧のSI単位はパスカル(Pa = N/m2)[7]。
![](//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/7a/Sound_pressure_diagram.svg/250px-Sound_pressure_diagram.svg.png)
音圧の図解:
(一)無音状態
(二)音
(三)静圧
(四)音圧
伝送媒質中の音波は局所的な環境圧力の静圧に偏差を引き起こす。この動圧が音圧である。
pで表される音圧は、次のように定義される[10]。
このとき
●ptotal は総圧。
●pstat は静圧。
と表される[11]。
ここで、日本産業規格 JIS Z 8106:2000﹁音響用語﹂では、対象とする瞬間の音圧p(t)を瞬時音圧と定義し、また、特に指定しない限り、ある時間内の瞬時音圧の実効値prmsが音圧であると定義する[12]。
波形が正弦波で表される純音など瞬時音圧が周期的に変化する音の音圧の実効値については、平均する時間Tとして変化の1周期をとる[6]。
これにより、どの時点から算定しても実効値は同じ値となる。また、変化の周期の整数倍の時間、無限時間でも1周期と同じ値となる。
一方、非周期の︵ランダムな︶波であれば、以下の式で定義される[13]。
実際には、有限長の時間で平均して近似する[14]。
測定により求める場合、瞬時音圧が周期的に変動する音については、その間隔は周期の整数倍、または、周期に比べて長い間隔とし、非周期的に変動する音については、その間隔は求められた数値︵音圧の実効値︶が、その時間範囲中の小変化に実質的に独立であるようにするだけ長くなければならないとされる[15]。
すなわち、音圧レベル︵騒音レベル︶の測定においては、ある時間tにおける音圧の実効値について、実効値検波動特性回路の時定数をτとして
と表される値が用いられていることになる。
JIS C 1509-1:2017﹁電気音響−サウンドレベルメータ︵騒音計︶﹂によれば、当該規格に基づくサウンドレベルメータの時間重み付け特性Fの時定数は0.125 s,時間重み付け特性Sの時定数は1 sである。︵Fはfast︵速い︶,Sはslow︵遅い︶を意味する。︶[18]
概要
空気中の微粒子の密度についてみると、粒子が密になった部分では圧力が増加し、疎になった部分では圧力が低下する。このような圧力の変化が伝播していくのが、空気中の音波であり、音波による大気圧からの圧力の変化が音圧である。この空気中の音圧の変化が耳に達すると、音がするという感覚が得られる。耳では音圧の振幅の大小により基底膜の振幅が定まり、それに応じた数のインパルスをコルチ器官が発して大脳へ伝えることで、知覚される音の大きさの大小が定まる。一方で、基底膜の振動部位は音の周波数によって異なるため、音の大きさは周波数によっても左右される[8]。 音波は、一般的には、固体、液体、気体などの媒質中を伝わる密度変化の波である[8]。液体が水である場合は特に水中音と呼ばれ、水中音響学という研究分野もある。また、固体の場合は、気体や液体のような伸縮に対する弾性だけでなく、ねじり変形と曲げ変形に対する弾性もあり、ねじり波と曲げ波も伝搬される[9]。 音波は疎密波であることから、音圧は粒子が密の部分では正の値、疎の部分では負の値をとるが、交流の電圧を実効値として示すように、一般に音響学では、特段の明示がない場合でも音圧を実効値として扱うことが多い[8]。 媒質中の単位面積に含まれる波のエネルギーであるエネルギー密度は、音圧︵実効音圧︶の2乗に比例し、1秒間に単位面積を通過する音のエネルギーとして定義される音の強さ︵単位:W/m2︶に比例する[8]。定義
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/7a/Sound_pressure_diagram.svg/250px-Sound_pressure_diagram.svg.png)
音圧の実効値
音圧や交流電圧のような、値が時間的に正負の間を変動する量では、単純な時間平均の値は0または0に近い値となり、変動の大きさを表すことができない。そういった量の変動の大きさを表現する値の1つが実効値である。実効値とは、時間的に大きさの変化する量の2乗の時間平均の平方根である。式で書くと、音圧pの実効値︵実効音圧︶prms[注釈 1]は、平均する時間をTとして、実効値の時間変化
音をサンプリングして得られた時間波形について、時間波形全体の平均をとることにより全体の実効値を算定することができるが、実効値の時間変化を算定することはできない。時間変化を得る方法としては、時間波形を分割してそれぞれ実効値を求める方法のほか、実効値検波動特性回路による方法がある[16] 。 実効値検波動特性回路は、︵瞬時︶音圧を変換した電気信号の時間波形を、2乗してRC直列回路により交直変換するものであり、アナログ回路で容易に実現することができ、また人の感覚︵聴覚の時間応答︶ともよく合うことから、近似的な方法であるものの広く使われている。RC直列回路におけるτ=RCのτがこの回路の特性を定めるパラメータでこれを﹁時定数﹂という。[16] このとき、実効値検波動特性回路の時定数がτであるサウンドレベルメータが出力する音圧レベル︵後述︶は、時間tの関数として、以下のように示される[17]。音圧の用語
音圧の語を含む用語には、以下のようなものがある。 瞬時音圧 空気中[注釈 2]の1点におけるある瞬間の圧力において、音の無い場合[注釈 3]に比べて変化した分の圧力[19]。JISでの定義は﹁媒質中のある点で、対象とする瞬間に存在する圧力から静圧を引いた値﹂︵英: instantaneous sound pressure︶[20]。 ピーク音圧 瞬時音圧のうち、対象時間中の最大絶対値︵=最大振幅︶をピーク音圧と呼ぶ。JISでの定義は﹁ある時間内で最大の絶対瞬時音圧﹂︵英: peak sound pressure︶[20]。 実効音圧 周期的に変化する音については、変化の1周期における瞬時音圧の実効値を実効音圧といい、これも音圧と呼ぶ[6]。JISにおいては﹁音圧﹂を﹁特に指定しない限り、ある時間内の瞬時音圧の実効値﹂と定義する[20]。 基準音圧 JISでは﹁習慣的に選ばれた音圧で、気体の場合には20μPa、液体及び固体の場合には1 Pa﹂と定義される。︵英: reference sound pressure︶[20] 20μPaは非常に聴力のよい人がかろうじて聞きうる1kHzの純音の音圧︵実効値︶にほぼ相当する[8]。大気圧と音圧
大気圧はおよそ105(Pa)[注釈 4]であるが、人間が聞く音は大きな場合でも102(Pa)程度であり、大気圧に比べれば音圧は非常に小さい値である[3]。音圧と音圧レベル
「音圧レベル」も参照
人間の感覚量は物理量に対して対数比例で増減することが知られている。音圧については、人間の聴覚では音の周波数にも関係するが、おおよそ 2×10-5 から 20 (Pa)の音圧範囲が可聴域︵ダイナミックレンジ︶であり非常に広い[21]。このため、実効音圧pに対し、基準となる音圧をp0 としたときの対数値をとり、
(dB)
とし、Lp を音圧レベル(Sound pressure level、SPL)︵単位はデシベル︶という。
ここで基準となる音圧p0 は、1 (kHz)において聞き取れる最小値とされ、
(Pa)
である[22]。
脚注
出典
(一)^ 音響用語辞典 2003, p. 45.
(二)^ 大野・山崎﹃機械音響工学﹄ 2010, pp. 2, 13.
(三)^ ab電気音響振動学 1978, p. 5.
(四)^ ab電気音響振動学 1978, p. 6.
(五)^ 音響・音声工学 1992, p. 7.
(六)^ abc音楽工学 1969, p. 9.
(七)^ 電気音響振動学 1978, pp. 5–6.
(八)^ abcde山本剛夫; 高木興一﹃環境衛生工学﹄朝倉書店、1988年、72-77,80頁。ISBN 4-254-26123-3。
(九)^ 大野・山崎﹃機械音響工学﹄ 2010, p. 1.
(十)^ ISO/TR 25417:2007 https://www.iso.org/standard/42915.html
(11)^ 大野・山崎﹃機械音響工学﹄ 2010, p. 13.
(12)^ JIS Z 8106:2000 https://kikakurui.com/z8/Z8106-2000-01.html
(13)^ “小野測器-FFT基本 FAQ -﹁実効値とは何ですか?﹂”. 2023年5月12日閲覧。
(14)^ “計測コラム第76号 ディジタル計測の基礎 - 第4回﹁時間波形と実効値︵その2︶﹂”. 2023年5月12日閲覧。
(15)^ 米国防省﹃環境用語辞典﹄(1986)の﹁有効音圧(effective sound predssure)﹂の項[1]
(16)^ ab“計測コラム第190号 計測に関するよくある質問から 第13回 ﹁時定数について﹂”. 2023年5月12日閲覧。
(17)^ JIS Z 8731:2019 環境騒音の表示・測定方法 ﹁附属書JB︵参考︶ 騒音計の時間重み付け特性﹂
(18)^ JIS C 1509-1:2017 ﹁5.8 時間重み付け特性F及び時間重み付け特性S﹂
(19)^ 音響・音声工学 1992, pp. 7–8.
(20)^ abcdJIS Z 8106:2000﹁音響用語﹂︵https://kikakurui.com/z8/Z8106-2000-01.html︶
(21)^ 電気音響振動学 1978, pp. 8–9.
(22)^ 音響・音声工学 1992, pp. 8–9.