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ロシアの現在の経済情勢では、なかなか元気な企業はなく、特に製造業では経済悪化前から好事例を探すのは難しい。
しかし、ボーイング、エアバスが頼るチタンメーカーVSMPO-AVISMAは輸出競争力があり、ルーブル安の影響を受けにくい体質を持ち、この経済情勢でも不安のない例外的な存在である。
チタンは航空機製造に必須の金属だが、伝統的にロシアが得意としてきた。チタンは軽く、強く、錆びない金属と言われる。錆びない︵耐食性が高い︶ことを利用して化学プラントや医療機器に用いられ、軽く強い性質を利用して航空機に用いられる。
VSMPO-AVISMAは特に航空産業で高い地位を築き、ボーイングは使用量の40%をロシアに頼る。エアバスはそれ以上で60%もロシアに依存している。そのため、同社は航空機メーカー関係者︵特に機体構造やエンジンの関係者︶の間では、ロシアの航空産業のサプライヤーとしては珍しく、よく知られた存在である。
航空機とチタン
軽くて強いチタンは、具体的にはどのよう金属だろうか。チタンの比重は4.5に対し、鉄は7、アルミは2.7である。チタンは鉄より軽いがアルミより重い。
一方、チタン合金では引張強度1000MPa︵メガパスカル、メガは百万︶近くにも達し、約450MPaのアルミ合金を凌ぐ。比重を強度で割った比強度を比べるとチタン合金が最もパフォーマンスが高い。
なお、チタン合金と書いたが、チタンには大きく分けてCPチタンとチタン合金に分けられ、チタン合金は強度が高いがCPチタンはそうでもない。最も一般的なCPチタンの引張強度は500MPa程度にとどまり、利用価値は耐食性の利用にある︵化学プラント、海水淡水化プラント、発電所の復水器、医療機器などに用いられる︶。
ちなみに、CPとは﹁Commercially Pure﹂の意味で、鉄などの不純物を含むため文字通りのPureではないが、取引の対象としては合金と対になるものとして純粋と見做してもよいといった意味である。日本では純チタンと呼ぶことも多い。
航空機産業で主に用いられるのはもちろんチタン合金の方である。アルミニウム6%とバナジウム4%を含む6-4合金が最も利用されている。
チタンの泣きどころは価格が高いことで、重量あたりの価格はアルミ合金の5~10倍になる。また、加工も難しいため、チタンを用いると加工費も上がり、コストアップは材料費の差にとどまらない。そのため、アルミ合金にない強度、耐熱性などが絶対に必要な部分に限られる。
それでも、近年ではチタンは炭素繊維複合材との相性が良いため、旅客機の複合材化により使用量が増えている。ボーイング787型機では機体の15%がチタンである。例えば、三菱重工製の主翼と富士重工製の中央翼を結合している大物部品には、長さ5.2メートルのVSMPO-AVISMA製のチタン部材が使われている。