映画﹃君の名は。﹄の発声可能上映イベント、﹁﹃君の名は。﹄2016 クリスマス&年忘れSP大合唱上映会﹂が12月23日︵金︶、東京・新宿バルト9で行われた。
当日のチケットは発売開始から3分で完売。幸運なファン350人とともに、新海誠監督、神木隆之介さん︵立花瀧役︶、上白石萌音さん︵宮水三葉役︶も参加して上映を楽しんだ。
上映中に応援・発声・コスプレ・歌唱などができる発声可能上映は、昨今、盛り上がりを見せている。今回は、劇中で流れるRADWIMPSの楽曲﹁前前前世︵movie ver.︶﹂﹁スパークル︵movie ver.︶﹂﹁夢灯籠﹂﹁なんでもないや︵movie ver.︶﹂の歌詞を字幕で表示。より合唱しやすい環境を整えた。
※本記事には作品のネタバレを含みます
取材・文‥恩田雄多
新海監督・神木・上白石の合唱アドバイスは﹁ブレスを大切に﹂
上映前には、新海監督、神木さん、上白石さんが壇上へ。新海監督は、﹁まさかこの作品でこうした上映会ができるとは︵笑︶﹂と、一体どんなものになるのか監督自身もわからない様子だった。
それでも、﹁以前に神木さん、上白石さん、そしてRADWIMPSの野田洋次郎さんと一緒に、カラオケで﹃前前前世﹄を歌ったんです。すごくよかったので、みなさんも楽しんでほしい﹂とコメント。
神木さんと上白石さんの2人は、合唱上映に向けたアドバイスとして、﹁﹃夢灯籠﹄の前のブレス﹂︵神木さん︶、﹁﹃なんでもないや﹄の転調前のブレス﹂︵上白石さん︶と、ともに“ブレス”の重要さに言及。
すると監督も、﹁そういう意味では、“入れ替わってる〜〜〜!!?”の前のブレスも……﹂とコメント。アフレコ時から息づかいの演出にこだわったことを語る。
トーク後はいよいよ上映開始。映画﹃3月のライオン﹄の予告編での拍手、さらには、﹁東宝﹂﹁CoMix Wave FILMS﹂のロゴが登場すると、﹁東宝ー!﹂﹁コミックス・ウェーブ・フィルムゥゥゥゥ!﹂と社名を叫び、感謝を伝える観客。
冒頭、瀧と三葉のモノローグが静かに始まったと思ったのもつかの間、﹁夢灯籠﹂のイントロが流れ出すと手拍子が自然発生。歌詞の字幕が表示されるのが先か、観客が歌い出すのが先か――もはやわからないほどのテンションで大合唱がスタートした。
劇中の展開に応じて、キャラクターの名前を叫んだり、歓声を上げたり、ツッコみを入れたり、サイリウムを振ったりと、心の声や思いの丈を実際に表現できる﹁発生可能上映﹂。﹃君の名は。﹄においても、印象的なシーンでは一段と声のボリュームが増していた。
”名セリフ”に向けてシンクロ率が上昇
前半のハイライトは、思いのほか……いや、予想通り早く訪れた。入れ替わった瀧が、三葉として目覚めるシーン。自分の身体を確認する視線に合わせて、﹁お?……おぉ!?……おぉぉぉぉ!!?﹂と、その後の展開を予期しながら観客の歓声と期待感が上昇。
ついに、その手が胸に触れた瞬間、﹁イェェェェェェェェェェェィ!!!!!!!!!﹂――興奮の頂点を突き破ったかのような歓声が上がった。
すでにお気づきかもしれないが、その後、三葉が瀧として目覚めるシーンでも、﹁お?……お??﹂からの﹁いったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!﹂が繰り返されたことは、言うまでもない。
衝撃的な冒頭のシーン以降は、三葉の生活を描くシーンが続く。
劇中 自転車に乗った勅使河原克彦︵テッシー︶と名取早耶香︵サヤちん︶が登場
観客 ﹁テッシー!!リア充!!!はよ結婚しろ!!!!﹂
劇中 教室で古典の授業中
観客 ﹁ユキちゃん先生ェェェェェ!!!﹂︵声優は花澤香菜さん、前作﹃言の葉の庭﹄に登場?︶
劇中 巫女となった三葉が口噛み酒をつくる
観客 ﹁たまらん!!言い値で買おう!!!﹂
﹁来世は東京のイケメンに〜﹂という三葉と観客の叫びが響き渡ると、続いて描かれるのは瀧の日常。前述の目覚めのシーンを経て、友人である藤井司や高木真太らとの絡みでは、女性とみられる黄色い声援が飛ぶ。
かと思えば、奥寺先輩︵奥寺ミキ︶が登場するやいなや﹁フォォォォォォォォオ!!!!﹂と素直な興奮が伝わってくる。
ここから展開にスピード感が増す。互いの日常を通じて、2人に起こっている現象を理解し始める。そう、“もしかして”……。
劇中・観客 ﹁入れ替わってる〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!?﹂
この日最高レベルの一体感で﹁前前前世﹂の大合唱がスタート。今年の夏、何度も耳にしてきただろう曲だけに、歌い出しは完璧。
さらに、曲中の2人のモノローグへの反応もぬかりない。互いに彼氏・彼女がいないことを言われたときの、﹁いないんじゃなくてつくらないの!!﹂という一言も、寸分違わず決まった。
シリアスな空気を一変させた女性の一声
「君の名は。」上映中の新海監督、神木さん、上白石さんの3人
物語は後半になるにつれて、シリアスなトーンに。三葉との入れ替わりが途絶え、記憶を頼りに描いたスケッチを手に、糸守町へと向かう瀧︵と奥寺先輩と司︶。
途中、現地を訪れたとみられるファンから﹁行ったよ!﹂﹁高山らーめん!﹂などの声が上がるものの、劇中では三葉に起こったことなどが明らかになる。旅館で朝を迎える場面まで、誰もが真剣な表情で映画に見入っていた。
そんな静寂に風穴を空けたのは、1人の女性だった。
﹁うなじー!!黒ォォォォォ!!!﹂︵拍手︶
目覚める奥寺先輩。はだけた浴衣からのぞく下着。それ以上でもそれ以下でもないが、観客のエンジンに火をつけるには十分だった。今にして思えば、メインの2人以外で唯一、寝起きが描かれたのが奥寺先輩。そう考えると、ファンの思い入れの強さも十二分に理解できる。
まさかのコールも飛び出した﹁君の名は。﹂上映後半
ともかく、観客は改めて盛り上がり始めた。象徴的だったのは御神体でのシーン。瀧が口噛み酒を飲もうとした瞬間だった。
﹁瀧くんの、ちょっといいとこ見てみたい。それ、イッキ!イッキ!イッキ!イッキ!﹂
コールだ。まさかのコールの合唱に、不覚にも驚き、そして笑ってしまった。なお、未成年の飲酒は法律で禁じられている。
以降、前半以上にヒートアップ。
劇中 三葉︵中身は瀧︶が父親に病院に行けと言われる
三葉・観客 ﹁バカにしやがって!!﹂
劇中 三葉が電車の中で瀧と向かい合う
観客 ﹁キャァァァァァァァァァァァァ!!!密着ゥゥゥゥゥ!!!﹂
劇中 電話を降りるとき、瀧から名前を聞かれる
三葉・観客 ﹁三葉……名前は、三葉!!!﹂
口噛み酒を飲んだことで、急速に近づいていく瀧と三葉。御神体を介して、互いに声をかけ合う中、ついに訪れた“カタワレ時”、2人は出会った。
﹁フゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!!!!!!!!﹂︵拍手︶
﹁かっこいい!!!﹂﹁かわいい!!!!﹂﹁うらやまっ!!!!!﹂など、思い思いの言葉が2人を包み込む。そして、瀧のある提案に、盛り上がりは最高潮。
しかし次の瞬間、三葉が手にしていたペンが地に落ちる。
﹁アァァァァァァァァァァァァ……!!!!﹂
絶叫ともため息とも取れる声。それでもあきらめない観客。瀧に対して、﹁︵落ちた︶ペン拾え!﹂﹁早く書いて〜〜〜!!﹂と声援が相次ぐ。
しかし、﹁君の名前は……!!!?﹂と名前が言えない瀧。
﹁三葉ァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!﹂
観客の代弁もむなしく、瀧がその名前を口にすることはなかった。
糸守町の行方は、そして2人が出会うことはあるのか、果たして――。
ファンの前で“入れ替わってる!?”を生披露
上映終了後には、新海監督、神木さん、上白石さんが再び登場。﹁心の中で叫びたいことを聞くことができて、愛情が伝わってきました﹂︵神木さん︶、﹁まるでライブ会場に来てるみたい。︵観客は︶セリフが全部頭に入っているんですね!﹂︵上白石さん︶と、興奮気味にコメント。
一方、﹁疲れる上映ですね︵笑︶﹂と率直な感想を語った新海監督。
﹁泣かせるためのシーンなのに、全部泣けなくなる。“イッキ”コールとか、みなさんすごく訓練されていて……﹃シン・ゴジラ﹄︵とかの影響︶ですかね︵笑︶﹂︵新海監督︶
鑑賞直後ということもあって、やや興奮気味の3人。試写会の思い出を話す中、神木さんから﹁そういえば、“入れ替わってる〜〜!?“って︵試写会の︶会場でやりましたね﹂と絶妙なフリ。熱心なファンにその場でセリフを確認しつつ、入念なリハーサルを経て披露された生﹁入れ替わってる〜〜!?﹂に、観客からはこの日一番の拍手が贈られた。
また、当日は、﹁﹃君の名は。﹄クリスマス検定﹂と題した◯×クイズを実施。賞品を手にするために、強者︵ファン︶同士の白熱した戦いが繰り広げられた。
とはいえ、上映中の盛り上がりを見て、急きょ差し替えたという問題は難問揃い。﹁糸守町に電気が通ったのは昭和42年?﹂﹁サヤちんが買い出しに行ったコンビニの店員が来ていたエプロンに描いてある動物はウサギ?﹂と、複数回見ていても難しいものばかり。
にも関わらず、最後の問題終了時点で6〜7人が残り、決着がつかない。最終的に上白石さんとのじゃんけんで決定。勝者となった2人には、登壇者3人のサイン入りの新ビジュアルポスターがプレゼントされた。
自分たちでも興収200億円超えの作品がつくれる
8月26日の公開から、現在も上映中の映画﹃君の名は。﹄。12月22日の時点で、興行収入210億円を突破、1620万人を動員している。数字上、日本人の8人に1人が見ていることになる。
﹁100億円や200億円という数字は、ディズニー/ピクサーをはじめとするハリウッド作品や、スタジオジブリ作品だけのものだと考えていた﹂という新海監督。
﹁自分たちでもこういう作品がつくれる、それがわかったことは大きな自信になったし、映画業界にとっても少し良いことができたのかもしれない﹂と、本作を通じてつくり手としての手応えを感じているようだった。
最後に﹁今日は、神木さんと上白石さん、ファンのみなさんと見ることができて楽しかった。もしかしたら、2回目、3回目もあるかもしれない﹂と、ファンの期待感をさらに押し上げて、イベントは幕を閉じた。
ポップポータルメディア﹁KAI-YOU.net﹂編集長。1985年生まれ。東京工芸大学アニメーション学科卒業後、エンタメのマーケティング・コンサル会社で業界誌やフリーマガジンの編集/記者として従事。2017年からKAI-YOU inc.、2020年1月から現職。アニメや声優といった領域を中心に、取材・編集・執筆を行っている。KAI-YOUフットサル主催。
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