﹁MCバトルを愛し、MCバトルに愛された男﹂──ラッパーの晋平太さんを表すのにここまで的確な表現はない。
﹁ULTIMATE MC BATTLE︵以下、UMB︶﹂の2連覇という偉業を成し遂げ、数々のフリースタイルMCバトルの大会で優勝。そして新たに前人未到の﹁フリースタイルダンジョン﹂の制覇を達成した。
ここに来るまでに、数々のドラマがあり、またヒップホップが生んだしがらみもあった。様々なバックグラウンドの中で、当初つとめていた﹁フリースタイルダンジョン﹂の審査員を降板した晋平太さん。
しかし、晋平太さんは突如、﹁フリースタイルダンジョン﹂へ挑戦者として帰還。自身が背負ってきた業を、モンスターたちに叩きつけていく様は、数多くの名バトルを生んだ。
改めて、晋平太さんは何を思ってMCバトルの最前線に舞い戻ってきたのか。KAI-YOUで2度目となるソロインタビューで、現在の胸中と、過去/未来を見据えた自身のヒップホップ観を語ってもらった。
文‥米村智水 取材‥米村智水、山下智也 企画‥かよちゃん
﹁フリースタイルダンジョン﹂に戻ってきた理由、晋平太は番組をどう見ていた?
──﹁フリースタイルダンジョン﹂完全制覇おめでとうございます。番組はじまって以来の快挙となりましたが、収録から1ヶ月経って、改めてどんな心境でしょうか?
晋平太 後追いでテレビの放送がやってくるので、リアクションとるのが大変だなぁと……。地元の友達とかから、﹁来週も頑張れよ。絶対負けんなよ﹂みたいなこと言われたりしてます︵笑︶。改めて、メディアの力って怖いなと思ってる。
──﹁フリースタイルダンジョン﹂の初期では晋平太さんは審査員をされていて、その後離れましたが、番組はチェックしていましたか?
晋平太 やめた後も、見れる時は見るという感じでした。
──﹁フリースタイルダンジョン﹂以降、それまでキッズやヒップホップヘッズの間で楽しまれてきたフリースタイルのムーブメントは一般層まで一気に広がりました。
晋平太 マジですごいなぁって。僕は﹁ダンジョン﹂では審査員をやってただけじゃないですか。番組でラップなんてしてないんですよ。それでも全国を回ると"顔さす"と言ったら変ですけど﹁ワーー! 晋平太だ!﹂みたいな。いやいや、座って旗あげてただけやないかって思いはありました。
でも、僕のそういう部分しか見てない人もいる。もし僕が全くヒップホップに関係ない立場から﹁ダンジョン﹂を見てたら、本当にすごい人たちなんだろうなって思っちゃう。﹁ダンジョン﹂に関しては、審査員にいとうせいこうさんとかもいますし、僕もどうやらすごい偉いやつに見えてるっぽい……。
──見えてます。
晋平太 ですよね︵笑︶。良いのか悪いのか、テレビってそういうものだから。
──このインタビューは、漢 a.k.a GAMIさんと対決した回が放送された直後の収録ですが、晋平太さんの快進撃は﹁フリースタイルダンジョン﹂はじまって以来の盛り上がりになっています。反響は感じますか?
晋平太 母ちゃんが﹁あんた大丈夫なの?﹂って連絡してきました。ほんとやめて欲しい……。
──今まで長くダンジョンから離れていた晋平太さんの復活、しかも前人未到の完全制覇で100万円を獲ってしまう展開となりました。今までどんな気持ちで﹁フリースタイルダンジョン﹂を見ていたのでしょうか?
晋平太 マジですごいなあって思ってましたよ。変な話、主役はモンスターかチャレンジャーじゃないですか。
僕は審査員として一番エキサイトして近くで観れたので、MCバトルがこんなところまで来ちゃったのかって。おこぼれ貰ってありがたいなあって思ってますね︵笑︶。
──なぜこのタイミングで、﹁フリースタイルダンジョン﹂に復活されたんですか?
晋平太 いろいろ整ったんじゃないですかね。世の中の流れとかもありました。僕は単純にオファーを頂いたので出演させてもらいました。
時間が経って人間関係も変化して──僕も﹁UMB﹂やってた時は、毎週毎週一生懸命やってたので、他のことを気にしている余裕もなかった。それで1月くらいからいろいろ考えた結果、﹁やっぱり僕はMCバトルしたいな﹂っていう気持ちになったんです。
3月に、代々木公園でやった﹁渋谷サイファー祭り﹂で、漢くんとバトルする機会があって。それは負けちゃうんですけど──MCバトルをしたいけど、どこか全力が出せなくなっていた。大会の予選に復帰して、ここで優勝したらカッチョええって思っても全然負けるし。それぐらいのモチベーションじゃ、やっぱり負けるよなって。
改めて僕にとって一番気持ちをぶち込めるのはどこか? って考えると﹁フリースタイルダンジョン﹂だった。そこで僕の考えているMCバトルの価値観を提示できたらいいなと思いました。
──言いたいことは、試合の中で全部、言えましたか?
晋平太 全部は、不可能ですけどね。言いたいことが言えたというよりは、僕がやってるMCバトルは、どういう姿勢だったか、それを見てもらいたい。お客さんにも本質的にはそれしか、伝わってないんじゃないかと思ってます。
とりあえず、自分を信じて真正面からぶつかってやったぜ、っていう姿勢が全力で出ていれば、人になにか与えれることができる。それが自分にできることなんじゃないかと思ってます。
──出てました。
晋平太 ︵笑︶︵笑︶︵笑︶
漢 a.k.a GAMIとの因縁に決着、その胸中は?
──どのモンスターとの試合が一番、記憶に残ってますか?
晋平太 やっぱり一番大変だったのは、漢くんじゃないですか。
──漢さんと試合の時に、晋平太さんの代表曲である﹁CHECK YOUR MIC﹂でも使われているリリックから入りましたが、戦う前から決めていたんでしょうか?
晋平太 決めていたというか、そもそも漢くんのパンチラインなので、それを使わせて貰った感じです。でも﹁とうとう来たなこの時が﹂ってまさに今言うっしょ? みたいな︵笑︶。漢くんも、絶対そう思ってたでしょうし、被せてきましたね。
みんなが知っての通り、漢くんと僕は対立してました。
でも漢くんの方が先輩でプロップスもあるし、僕なんて相手にするまでもないだろうなって思ってたんです。代々木公園の時もそうですけど、僕と試合なんてする必要なかったと思うんですよ。漢くんが一言﹁あんな奴とやるのは嫌だ﹂って言ったら僕は﹁ダンジョン﹂に出れなかっただろうし。でもそれを﹁いいんじゃない、挑戦させなよ﹂って1度ならず2度も戦ってくれた。
──漢さんとの試合は壮絶な戦いでしたが、最後は握手で終わってました。実際、和解はできたのでしょうか?
晋平太 おかげでと言ったら変ですけど、和解に向かって話をさせてもらえましたね。
──﹁ダンジョン﹂での漢さんの試合は、晋平太さんの長いキャリアの中でも、特に多くのヘッズから注目されているかなと僭越ながら思っているのですが。
晋平太 そうなんですか︵笑︶。Twitterとか見ないから本当にわからないんですよね。
──﹁晋平太も漢もマジでやべえ﹂っていう意見がすごいです。最初にヒップホップにハマってからここまでのキャリアを積み上げてきて、晋平太さんの中でいま﹁ヒップホップ﹂ってどういう位置付けになっているのでしょうか。MCバトルも含めて。
晋平太 すげえ変な言い方かもしれないですけど、僕の中で、いまが一番ヒップホップをやれているのかはわからないですが、でも一番ヒップホップの凄さやMCバトルの影響力を感じてるのはいまなんですよ。
だから、いま僕に注目が集まってくれてるのはありがたい。夢中になって、本当に狂ったようにラップばかりやってた時に僕が戻れるんだとしたら、だいぶやらかすだろうなぁって思います。若い時とか、違うタイミングだったら﹁俺が王様だ﹂とか﹁俺が世界一だ﹂とか容易に横柄になっちゃう。
正直、﹁ダンジョン﹂で僕が勝ったことは、降って湧いたもので、ボーナスステージだと思ってます。僕は過去に何度も調子に乗って、ヘコんで、いまがあるので淡々としてます。またMCバトルにも出ても、普通に負けるとも思うし︵笑︶。そうやって今後も勝った負けたを繰り返すわけじゃないですか。周りはそれで一気一憂してくれるだろうけど。
──狂ったようにラップばかりやっていた時期というのは?
晋平太 10代の時もそうだし、﹁UMB﹂を現役でやってた時もそう。
今も変わらずラップするのは大好きですけど、司会をやらせてもらったり、運営として支える役割を行うことで、いろんな立場の大切さを理解できるようになった。﹁UMB﹂もそうだし、﹁戦極MC BATTLE﹂もそうだし、﹁KING OF KINGS﹂も、﹁B-BOY PARK﹂も、あの熱狂を生み出すためにスケジュールを組んで出てくれるMCがいて、裏方の人もいて、その中でチャンピオンがいるんですよね。
ヒップホップの停滞期を経て、掴むことができた現在
──晋平太さんがのめり込んでいた2010年前後は、日本のヒップホップとしては停滞期とも言われています。当時のヒップホップにかけるモチベーションはどこからきてたんですか?
晋平太 いま振り返ると、僕もそう思うんですよね︵笑︶。この間、宇多丸さんの番組に出してもらった時も﹁泥水飲むような思いでここまでよく続けたな﹂って言われて。
僕はそんなことまったく思ってなかったんだけど、泥水飲んでたように見えてたなら恐ろしいですよね。それこそ﹁戦極﹂だって客は30人で、しかもエントリーMCしかフロアにいねえよっていう状況が当たり前で──でも僕はその中でも1番になりたいって思っていた。注目が集まってるのか集まってないのかとか、そんなことほとんど考えてなかったです。
逆に僕はいまのほうが異常なんじゃないかって思ってます。R-指定やDOTAMA、ACEとかもそうだけど、みんな変わってないんです。みんな僕の友達とか、ラップなんてやってない普通のやつらと一緒に飲んでるところにいたり、誕生会にNAIKA MCが来てくれたり、そういう奴らなんで。だから今の状況が僕には不思議なんです。
晋平太 いま頑張ってる奴は超チャンスだと思います。大会で優勝し続けたら、お膳立ての状況は整う。
サッカー選手とかもそうなんじゃないですか。﹁俺が現役のとき、この状況だったらなあ﹂って思う人がいっぱいいただろうし。でもその人たちがインフラを整えたおかげでプレイヤー全体のレベルが上がって、文化として浸透していく。
僕はいまの年齢やポジションでできることをやりたい。いま34歳なんですけど、NAIKA MCとか呂布カルマとか崇勲とかがタメなんですよ。他の3人は30歳超えても注目されているし。まだまだいけるじゃんって。
晋平太 僕らがどこまで頑張るかによって──30歳を超えてもヒップホップをやれる状況がつくれると思ってる。僕は幸運にも仕事を辞めてヒップホップに打ち込んでいるけど、崇勲やNAIKAは働きながらでも、あれだけかませると証明した。正直僕は、3人にまくられたなぁって思ってます。しかもみんな、東京じゃないし。3人の存在は、すごいモチベーションになってます。
──以前のインタビューだと、世間体という意味で、20代の時にヒップホップを続けているのが精神的にまいっていたとおっしゃってました。現在は、ラッパーを取り巻く状況が変わりつつある?
晋平太 確実に変わりつつあります。
──家族からも応援されたり?
晋平太 家族とか、変な話、NHKに出たときもばあちゃんとかが見るわけじゃないですか。﹁ウチの孫よ﹂みたいな︵笑︶。
商店街でのウケが半端じゃないみたいで。﹁ねぇ。また出ないの?﹂とか近所のおばちゃんや子供も言ってくれます。
仮にそれが、今のような状況じゃなくて﹁ラップやってるらしいよ﹂って聞いたら全然印象違うじゃないですか。あのおじさんいつもブラブラしてるよねみたいな︵笑︶。
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