改訂新版 世界大百科事典 「クロマツ」の意味・わかりやすい解説
クロマツ (黒松)
Japanese black pine
Pinus thunbergii Parl.
海岸に多い二葉松で,木肌は暗灰色を呈する。また枝や葉がアカマツより太いのでオマツ︵雄松︶ともいう。マツ科。高さ40m,直径2mにも達し,幹は通直であるがしばしば著しく曲がって太い枝を張る。冬芽は灰白色。針葉は長さ7~15cmで,アカマツより緑が濃く,横断面では3~11個の樹脂道が葉肉内に見られる。4~5月ころ新条︵みどり︶端に紫紅色の雌球花1~3個が直立してつき,翌秋に熟した球果は下向きとなる。雄花は新条下部に群がってつく。
青森県から鹿児島県吐噶喇︵とから︶列島宝島までの日本と朝鮮半島南半の暖帯海岸部に分布し,暖地では多少内陸部にも生育する。秋田・山形両県で方言名をノトマツ︵能登松︶と称するように奥羽地方北部での自生には疑問がある。乾燥や潮風に強く,しばしば沿岸の砂州,砂丘,岩崖上で黒松林を形成するが,屈曲した樹形となって︿天人の羽衣﹀などの伝説を生む。とくに本州中部以西の海岸景勝地では欠くことのできない樹種である。しかし近年材線虫病のまんえんによってこれら景勝地の多くは危機に瀕︵ひん︶している。アカマツと同様,建築,土木あるいは造船用材やパルプ材として用いられる。とくに防砂,防潮の目的で海岸砂丘地,砂州あるいは堤防などに広く植栽される。樹幹から松やにをとり,セッケンやニスの原料とする。庭園樹としても植えられる。
→マツ
執筆者‥濱谷 稔夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報