日本大百科全書(ニッポニカ) 「グラス」の意味・わかりやすい解説
グラス(Günter Grass)
ぐらす
Günter Grass
(1927―2015)
ドイツの小説家。ダンツィヒ︵現、ポーランドのグダニスク︶に食料品店主の子として生まれる。父はドイツ人で、母は西スラブ系少数民族のカシュバイ人。第二次世界大戦下、17歳で戦車兵となり、負傷して入院、アメリカ軍捕虜となり、1946年に釈放される。のち、旧西ドイツでカリ鉱山の運搬係、石工見習、ジャズバンドマンなどの職につき、1948年から3年間はデュッセルドルフ美術学校で彫刻と版画を学ぶ。1955年、南ドイツ放送の叙情詩コンクールに入賞してから詩人、不条理演劇の作家として一部に認められるが、やがて長編処女作﹃ブリキの太鼓﹄︵1959︶を発表し、戦後最大の物語作家として世界の注目を浴びた。続く中編﹃猫と鼠(ねずみ)﹄︵1961︶、長編﹃犬の年﹄︵1963︶でも前作同様ダンツィヒを舞台に、戦前から戦後にわたる時代の過誤と対決している。1961年から政治に参加し、終始社会民主党にくみして精力的に応援活動を続けてきた。その模様は戯曲﹃賤民(せんみん)の暴動稽古(けいこ)﹄︵1966︶、評論集﹃自明のことについて﹄︵1968︶、中編﹃蝸牛(かたつむり)の日記から﹄︵1972︶などに端的に示されている。1977年には、人類の歴史全般を視野に収める大作﹃ひらめ﹄を発表し、物語作家としても健在ぶりを示した。その後も創作活動は活発で、﹃頭脳の所産﹄︵1980︶、﹃女ねずみ﹄︵1984︶、﹃鈴蛙(すずがえる)の呼び声﹄︵1992︶、﹃はてしなき荒野﹄︵1995︶、評論集﹃抵抗を学ぶ﹄︵1984︶、﹃ドイツ統一問題について﹄︵1990︶などがある。1981年核兵器の廃絶を訴える文学者声明に署名。1982年社会民主党に入党︵1992年離党︶。1990年10月のドイツ統一に際しては、西ドイツ政府の統一政策に反対した。1978年︵昭和53︶来日。1999年ノーベル文学賞受賞。
﹇宮原 朗﹈
﹃中野孝次訳﹃犬の年﹄上下︵1969・集英社︶﹄▽﹃高本研一訳﹃蝸牛の日記から﹄︵1976・集英社︶﹄▽﹃マルグル・フリッツェ編、高本研一・斎藤寛訳﹃ギュンター・グラスの40年――仕事場からの報告﹄︵1996・法政大学出版局︶﹄
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