デジタル大辞泉
「レーザー」の意味・読み・例文・類語
レーザー(laser)
︽light amplification by stimulated emission of radiationから︾メーザーと同じ原理を用い、誘導放出によって光を増幅・発振する装置。また、その増幅された光。ほとんど散乱しないためエネルギーが高く、単色光で位相のそろった指向性の鋭い平行光線が得られる。光ディスクや通信・精密工作・医療・物性研究などに広く利用。→メーザー
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レーザー
(一)〘 名詞 〙 ( [英語] laser [英語] light amplification by stimulated emission of radiation の略 )
(二)① 誘導放出による光の増幅装置。
(三)② ①によって放出される周波数・位相とも一定な平行光線。固体レーザー、気体レーザー、半導体レーザーなどがある。光通信、音・映像・データの記録・再生、物性研究、医療など多方面で応用されている。レーザー光線。︹世界を変える現代物理︵1963︶︺
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レーザー
laser
light amplification by stimulated emission of radiation︵誘導放出による光の増幅︶の頭文字をつづってつくられたことば。低いエネルギー状態︵エネルギー準位︶にある分子︵あるいは原子,イオン︶の数より高いエネルギー状態にある分子の数のほうが多いという非熱平衡分布︵反転分布︶をしている物質系に,共鳴する光を作用させて,誘導放出過程によって,コヒーレントな光の増幅を起こさせることおよびそのための装置をいう。lightをmicrowave︵マイクロ波︶におきかえたメーザーmaserと同じ原理に基づく。
原理
分子︵または原子,イオン︶から電磁波︵光もマイクロ波もその一種︶が放射される機構は,自然放出と誘導放出の二つに大別される。分子の二つのエネルギー準位E1,E2︵E2>E1︶に注目して考えると,自然放出は,E2の状態にある分子が外部からの刺激なしにE1の状態に遷移し,その際に電磁波が放射される現象である。これに対して誘導放出は,外部からν=︵E2-E1︶/h︵hはプランク定数︶なる振動数の電磁波が入射したとき,E2の状態にある分子が入射電磁波と同一振動数および同一位相の電磁波を放射してE1の状態に遷移する現象で,レーザー,メーザーはこちらを利用したものである。誘導放出が起こる確率は入射電磁波の強度に比例する。ただし電磁波が入射したときには,E1の状態にある分子が電磁波のエネルギーを吸収してE2に遷移する誘導吸収も同時に起こる。一般にふつうの熱平衡状態にある物質では,高いエネルギー準位にある分子の数は低いエネルギー準位にある分子の数より少なく,このため電磁波が入射しても誘導放出よりも誘導吸収のほうが卓越してしまう。
以上のことからわかるように,メーザーやレーザー作用を起こさせるためには二つの要件が満たされる必要がある。すなわち,上準位の分子数が下準位の分子数よりも多い反転分布状態をつくりだすことと,電磁波のモードを選択しかつそのモードの電磁波の強度を維持するための共振器をつくることである。
この原理が1953年まずメーザーにおいて実験的に実現︵発表は1954︶できたのにはそれだけの理由がある。すなわち,マイクロ波に共鳴するような2準位の間では,もともとエネルギー差が小さいので,上準位と下準位の分子の分布数に大きな差がない。また自然放出できまる上準位の寿命が非常に長い。このため多少の細工をすれば容易に反転分布をつくることができる。さらにマイクロ波領域には空洞というQ値の高い共振器があり,共振器の大きさとマイクロ波の波長とが同じ程度なので,モード密度が小さく,特定のモードを容易に選択できる。
この原理を光の領域に拡張するにあたり,いかにして反転分布をつくるかということと,どんな共振器を用いるかが最大の難問となった。光に共鳴するような2準位では,上準位にある分子の分布数は無視できるほど少なく,しかも自然放出寿命も非常に短い。また電磁波のモード密度が高く,この中から一つのモードだけを分離選択することがむずかしいためである。
58年C.H.タウンズとA.L.ショーロウは光領域でメーザー作用を実現するのに有効と思われる方法を提案した。それは反転分布をつくるために,光その他の手段で励起︵ポンピング︶を行い,下準位にある分子を上準位に急速にくみ上げることである。光に対する共振器には,2枚の平面鏡を向かい合わせた装置︵ファブリー=ペロー型共振器︶を用いられる。この鏡の間隔をLとすると,共鳴する光の波長λは,Nを正の整数として近似的に,
の式で与えられる。この式は本質的に一次元共鳴の条件であって,三次元共鳴に比べると共鳴するモードの数が著しく減少している。鏡面に対して垂直に進む光のみが,繰返しの反射で鏡間に蓄えられるが,光軸に対して斜めに進む光は共振器からやがては外に出ていってしまうからである。この二つのアイデアは今にしてみれば当然のことであるが,メーザー装置の延長上にあるものではなく,当時としては画期的なものであった。これによってメーザーの原理が実現できる波長はマイクロ波から可視光まで一気に4桁以上も飛躍したのである。
60年にT.H.メイマンがルビーの結晶を用いて波長694.3nmのレーザー発振に成功し,次いで61年にはA.ジャバンらがヘリウムとネオンの混合気体を用いて632.8nmのレーザー発振に成功した。その後10年間のレーザーの研究開発はめざましく,種類も気体,液体,固体,半導体のさまざまなスペクトル線について発振が成功し,ことにおもなレーザー線についてはその出力が毎年ほぼ1桁ずつ改良されてきた。発振波長を長波長側へ伸ばすことは順調に進み,数mmのレーザーができるに及んで,メーザー側あるいは電子管によって発生されるミリ波領域と完全に重なるようになった。
しかし短波長側への拡張はまもなく行詰りをみせ,約100nmの真空紫外域が限度となっている。この限界をこえるためには,反転分布をつくるための有効な方法と,よい共振器をつくる方法とが再び解決されなければならない。波長が短くなると上準位の寿命がますます短くなり,強力な励起をもってしても有効な反転分布をつくることがむずかしい。また波長の短い光は,さまざまな光学過程をおこし,それだけ損失が大きい。鏡面の反射率も短波長では著しく低下する。
→誘導放出
装置の概要
大部分のレーザーは,活性媒質を2枚の鏡ではさむ形に構成され,媒質を励起して反転分布をつくるための装置がこれに付随する。媒質が固体や液体の場合には,フラッシュランプなどの強力な光源で光励起する。気体の場合には放電励起が一般的である。p-n接合型の半導体レーザーの場合には接合面を通して電流を流すことでレーザー発振を起こすことができる。気体レーザーの励起の手段としては,このほかに高速の電子線を照射する方法,化学反応を利用する方法,断熱膨張を利用する方法などが試みられている。
2枚の鏡を用いた標準的な共振器のほかに,単一縦モードを選びだすための複合型共振器,往復の光が干渉してできる定常波構造をさけるため3枚以上の鏡と光単行器とを用い,光を一定の方向にのみまわすリング型共振器などが使われる。発振波長が短くなると,励起状態の寿命も短くなるので,鏡で光を折り返してきても意味がない。このような場合には,増幅される光と励起とがレーザー媒質内を同時に進行するようなくふうをし,媒質を1回通過させるだけで十分な出力がとれるようにする。
レーザー共振器は必ずしも安定なものばかりとは限らない。目的に応じて,共振のQ値をあるときはパルス的にあるときは周期的に変調したり,また不安定な構造にしたりする。
特徴
一口にレーザーといってもいろいろな種類のものがあるので,一概にその光︵レーザー光︶の性質を述べることはできない。しかしいずれにしても共通していえることは,光のエネルギーがスペクトル的に,あるいは空間的に,あるいは時間的に集中していることである。気体レーザーでは,ふつうコヒーレントで単色性のよい光を発生する。これは狭いスペクトル幅の中にエネルギーが集中していることである。連続的に発振する可視,近赤外域の気体レーザーでは,スペクトル幅を振動数にして1Hzの程度にまでできる。波長を1μmとするとその振動数は3×1014Hzであるから,このレーザーのスペクトル純度は3×10⁻15という驚異的な値となる。ふつうの光源から分光器を使って単色性のよい光をつくりだす場合には,スペクトル幅を狭くするほど,とりだせる光のエネルギーは小さくなる。これに対してレーザーの場合には,強い光ほどより強く増幅されるので,出力が大きくなるほどスペクトル幅が狭くなるという特徴がある。実用的な気体レーザーの発振幅は数十kHz前後であるが,これとてもコヒーレンスの長さにして104mとなるから,ふつうの光源のコヒーレンス長1mと比較して桁違いに質のよい光であることがわかる。
広い幅をもつスペクトル線の中で,たくさんの縦モードを発振させ,しかも互いの発振が一定の位相関係を保つようにする︵モード同期法︶と,時間幅が非常に狭い︵ps=10⁻12sの程度︶光パルスをつくることができる。フーリエ反転の関係からスペクトル幅⊿νとパルス幅⊿tの間には⊿ν・⊿t~1の制約があるから,⊿tが小さいことは⊿νが大きいことで,これはちょうど単色性とはうらはらの関係になっている。
またレーザー装置は,それ自体が出射光の指向性をよくする機構をもっている。2枚の鏡の間で繰り返し反射されている間に光の進む方向がおのずから決まってくるからである︵幾何学的指向性︶。それでも光波である以上,出射後の光が回折現象によって広がっていくことは避けられないが,レーザー光の場合それが小さいのは,波長λに比べて十分大きな範囲で,空間的に位相のそろった︵空間的コヒーレンスのよい︶光束となっているからである︵物理光学的指向性︶。このような光束は適当な光学系によってλ2の程度の狭い面積に絞りこむことができる。
→干渉
種類
レーザーの種類は多いといっても,実用面で広く使われているものはそれほどの数はない。気体を媒質として用いる気体レーザーのうち,ヘリウム-ネオンレーザー︵波長3.4μm帯,1.1μm帯,632.8nm帯︶は出力は小さいが,安定で単色性がよいので,長さの二次標準や精密実験に使用される。アルゴンイオンレーザー︵アルゴンレーザーともいう︶は514.5nm,488.0nmなど可視域で数本の強い発振線をもつほか,紫外から近赤外の広い範囲で50本以上の発振線をもつ。可視域の発振線は連続的に数Wの出力をだすことが可能で,色素レーザーの励起やラマン分光など強い光が要求される分野で多用されている。これに性質の似たレーザーにクリプトンイオンレーザー︵クリプトンレーザー︶などがある。水素分子の電子状態間の遷移で発振する水素レーザーは真空紫外域︵124.6~164.6nm,109.8~126.8nmなど︶で200本近い発振線を供給するので貴重な存在であるが,短波長レーザーであるため,光共振器を使えないとか,高速励起が必要であるとかの困難があり,使いよいレーザーとはいえない。窒素レーザーも0.316~8.21μmの間に400本以上の発振線をもつが,よく利用されるのは紫外部の337.1nmの発振線で,1kW~1MW程度のパルス出力が得られる。CO2気体の放電を用いる炭酸ガスレーザーは9.6μm帯,10.6μm帯の赤外域でそれぞれ数十本の振動・回転遷移が発振する。炭素Cおよび酸素Oの同位体置換分子を用いれば発振線の数はさらに増す。このレーザーは,電気的入力からレーザー出力への変換効率がよい︵10%程度︶ことでも知られ,安定した高出力のレーザー光︵大きいものでは数十kW︶が得られる。また気体圧力を大気圧程度にし,横方向放電を行うレーザー︵TEAレーザー。transversely excited atmospheric laserの略︶では,GW程度︵一つのパルス当りのエネルギーは1kJ程度︶の出力が得られる。この波長域では熱作用が大きいので,科学の分野ばかりでなく各種の工業的応用も多い。
媒質として固体を用いる固体レーザーの代表的なものは,Al2O3の中に不純物として含まれるクロムイオンCr3⁺が発振する︵694.3nm︶ルビーレーザーや,YAG︵yittrium aluminum garnetの略。Y3Al5O12︶結晶やガラスの中に含まれたネオジウムイオンNd3⁺が発振する︵1.06μm︶YAGレーザー︵ヤグレーザーともいう︶またはガラスレーザーなどである。
半導体レーザーは小型であること,発振させるための励起装置が簡単であること,製造原価が安価であることなどの理由で,これからの広い応用が期待されている。レーザー光の質としては,大型レーザーに比べるとよくなかったが,ダブルヘテロ構造と呼ばれる電子・正孔の流れや発振光を共振器部分にとじこめる手段が開発されてくるようになって,大きく改善された。可視域から近赤外域の固定波長で発振するものと,数μmから数十μmの赤外,遠赤外域で,発振波長をある範囲で変えられる周波数可変レーザーとがある。
液体はレーザー媒質としてはもっとも開発がおくれた材料である。液体分子の不規則な運動のためスペクトル線が広くなり,励起エネルギーを効果的に集中することができず,発振させることが困難であるからである。レーザー開発が進み各種の強力なレーザーができてくると,これらが液体の励起に使えるようになり,液体レーザー実用の道が開かれた。そこで注目されたのが有機色素である。有機色素は種類も豊富でそのスペクトルも赤外,可視,紫外域全体にわたっている。スペクトル幅が広いこともかえって好都合で,共振器に同調機能をもたせれば,広いスペクトル線の中の任意の波長で発振させることができる。発振波長可変の色素レーザーはこうして誕生した。励起にはアルゴンイオンレーザー,窒素レーザー,YAGレーザー︵2倍波,3倍波︶などが用いられる。
エキシマーレーザー,ガスダイナミックレーザー,自由電子レーザーなど新しいタイプのレーザー開発も盛んである。エキシマーレーザーは紫外域の光源として実用の域に達している。いまレーザー研究に課せられているもっとも大きな課題はX線レーザーの開発であろう。
執筆者‥清水 忠雄
レーザー応用技術
今世紀最大,最後の発明といわれるレーザーは今や光産業技術の中心として,大きな期待をもたれている。その理由は,レーザーがふつうの光とまったく異なる優れた特徴をもつからである。レーザー光はコヒーレントな電磁波としての性質を備えており,単色性がよく,電波でできることはすべてレーザーでこなしうるのである。電波に比べ1万倍も周波数が高いから,エレクトロニクス技術はレーザーの出現により周波数帯域をきわめて広く拡張することができた。またレーザーは指向性に優れており,平行ビームとして遠距離の伝搬が可能である。大気中では散乱や吸収をうけるので,むしろ光ファイバーの中を伝送する方式が優れている。大気圏外ではまったくその心配がない。レーザー光はレンズで集光すると波長程度の微小焦点にエネルギーを集中することができる。集光点の電磁界はきわめて強く,100億V/m程度が容易に実現される。このような極度に高い電磁界を用いると非線形光学効果が発生し,高周波光の生成や誘導ラマン,誘導ブリュアン散乱,さらには光の自己集束現象などを引きおこす。ふつうの光では不可能な物質処理に威力を発揮する。レーザーのこのような特徴は,原子,分子内の電子の軌道準位間の遷移という量子効果を利用するため実現されるのである。量子効果はふつうミクロな世界にしか現れないのであるが,レーザーでは光共振器によるフィードバック作用のため,原子,分子と光との共鳴を生じ,人間の五感にうったえるマクロの世界に現象が発現するのである。
このような特徴をもつレーザーの応用技術はその特性に応じて光波としての応用と光エネルギーとしての応用に大別される。
光波としての応用
光波としての応用については,まずレーザー計測が開発された。その長所は次の4点である。︵1︶レーザー光は輝度が高いので,周囲の雑音光に対し検知信号の割合,SN比が大きい。︵2︶光波としての性質である干渉効果が明確にあらわれるので距離や速度の測定が精度よく可能である。︵3︶単色性に優れ,特定の周波数にエネルギーが集中しているから,レーザー分光学はすばらしい発展をとげている。︵4︶レーザーは非常に短いパルス光を発生できるので,時間分解計測がピコ秒領域︵10⁻12s︶にまで拡張された。計測応用として,直線の規準を与えるレーザーレベル計,レーザートランシット照準器,レーザーアライナーがある。レーザー光の直進性と平行度の高いことで土木計測機械として有用である。測距への応用としては短いパルス光を送出し,目標物から戻ってくるまでの時間を測定して直接距離を出す方法や,連続した光波を出して,反射光との位相の相違から算出する方法がある。精度から見ると連続波方式が優れているが,パルス方式は測定時間が短いので実用性が高い。
レーザーレーダーは環境保全や監視用として広く使われている。レーザーレーダーは反射光によって遠方物体を検知し,距離,速度,密度,組成なども調べることができる。レーザーは波長の短い光を用いるので対象媒質中の粒子によるミー散乱や原子,分子によるレーリー散乱,ラマン散乱︵光散乱︶,蛍光などを利用できるので,大気汚染物質の同定や海洋観測にも使われる。送出レーザー光は広がることなく目標物に照射されるが,反射光は散乱光としてレーザーレーダーに戻るので,測定感度は距離の2乗に反比例して弱くなる。長距離の測定例としては月レーザー測距装置があり,月までの距離40万kmが±10cmの精度で測定されている。この精度は±2.5×10⁻10に達する。レーザー計測器の特殊な例としてレーザージャイロがある。これは慣性航法に必要な輸送機の運動検出にきわめて有力なセンサーである。光通信は今やますますその重要性を加えている。これは光伝送路に使われる光ファイバーの性能の向上と半導体レーザーの発達によるものである。光ファイバーはすでに銅電線を伝わる電気信号の伝導損失よりはるかに小さい0.5dB/kmを達成しており,石英の資源量の豊富さともあいまって将来はきわめて明るい。伝送周波数帯域が広く,軽量であり,電磁誘導雑音の妨害をうけないことから通信革命を招来するものと受け取られている。
光情報処理技術もレーザーにより大きく進展した。その中心はレンズを用いたアナログフーリエ変換の手法と光の複素振幅の記録を可能にしたホログラムである。前者に関しては画像を回折現象によりフーリエ変換像にして,空間周波数スペクトルに分解し,マッチドフィルターを通して,信号対雑音比を改良したり,また非線形光学素子を組み合わせた光論理演算器の研究が進んでいる。ホログラムは光波のもつ情報として波の振幅と位相とを記録するものである。これは信号光と参照光の干渉縞を写真乾板により作製し,あとで,レーザー光を照射すると元の光波像が浮かび出る技術である。三次元像を記録し,再生することができる。種々の応用が科学計測に適用されている。またレーザーアートとしてディスプレーに応用されている。レーザーを用いた情報処理応用機器としてはホログラムを用いた画像ファイルとかレーザーファクシミリやレーザープリンター,レーザー印刷製版機がある。なかでもカラースキャナーは広く普及し,カラー印刷用の色分解画像を自由に作製することができる。ビデオディスクやディジタルオーディオ︵ディスク︶にもレーザーが利用され,無接触で画像,音響を再生でき,商用価値が高いので盛んに開発が進められている。
光エネルギーとしての応用
レーザーの光エネルギーとしての応用として最初に工業にとり入れられ成果を出したのはレーザー加工である。レーザーのエネルギーを集中して穴あけ,切断,溶接,表面処理などがあげられる。これと関連して医用レーザーが登場し,無血手術に利用されている。またアメリカやソ連ではレーザー兵器の開発が行われ,誘導ミサイル破壊用のレーザー研究も提唱されている。レーザーのエネルギーとその単色性を応用した同位体分離技術も重要である。レーザーを用いた化学反応の機構解明も化学技術に大きな影響を与えている。レーザーによる核融合の実現も人類究極のエネルギーとして全世界的に研究が進められている。さてレーザー加工の特徴としては,︵1︶レーザー光は微小点に集光できるので,加工部位のパワーは従来の加工法より格段に大きく1010W/km2以上にも達し,他の方法では加工困難なセラミックス,宝石,耐熱合金などに適用される,︵2︶マイクロ加工が可能で,コンピューター制御が容易である,︵3︶非接触加工であるから対象物からはなれて工作ができる,︵4︶透明体の内部の加工が外部から実施できる。眼底手術などへの応用がある,︵5︶加工空間を真空にする必要がなく,人体への障害もない。レーザーによる穴あけはダイヤモンドダイスなどにYAGレーザーが適用され効率が高い。レーザーによる切断には炭酸ガスレーザーがよく用いられ,酸素ガスを吹き付けながら加工すると効率が高い。レーザークラフトとして木彫品がある。服地の切断も自動化され商業的に実用に供されている。レーザー溶接はYAGレーザーを用いる微細溶接から,炭酸ガスレーザーを用いる大寸法溶接も行われている。半導体工業への応用としてレーザースクライビング,すなわちICチップの分割作業やレーザートリミングという抵抗素子の微調整にも用いられる。レーザーによる表面処理は金属の焼入れから,半導体アニーリングなど幅広い応用が開けている。
加工技術と関連して医学への応用がある。医用レーザーの最初の応用は眼底網膜凝固装置である。網膜剝離に対しレーザーを用いると瞳孔を通して眼底の手術ができ,すばらしい治療効果をあげている。また外科用のレーザーメスは切開と同時に血管凝固による止血が行われ,無接触で手術ができる。出力10~100WのYAGレーザーや炭酸ガスレーザーが用いられる。脳外科や内臓外科に広く導入され,またあざ取りに威力を発揮している。レーザー内視鏡は体内を観察しながらレーザー照射による手術を施すことが可能で盛んに用いられている。またレーザーによるはり治療も行われ,慢性疾患に効果をあげている。
アメリカやソ連においてはレーザー兵器の研究が進められていて,レーザー測距儀やレーザーレーダーは実用化されている。ミサイルなどのレーザー誘導方式は目標にレーザー光を照射し,その光の反射点へ向けてセンサーつきのミサイルが直行するという方式である。核ミサイルは科学者が生んだ怪物として,その防御法がなく,ただ単に核のバランスに基づく抑止力のみが頼りとされてきたが,最近アメリカではミサイル迎撃用レーザーが技術的に核ミサイルを無力化あるいは破壊する手段としてとり上げられ,大々的な研究が開始されている。この目的のためのレーザーには電源を必要とせず,しかも大出力が出せる化学レーザーがその中心になるものと思われる。その代表的なものは水素とフッ素を利用したHFレーザーである。
レーザーのエネルギー集中性と波長選択性との両特徴を応用したのがレーザー同位体分離技術である。基本的には同位体間の光吸収スペクトルのわずかな相違を利用し,一方の同位体にのみ吸収されるレーザー光を与えて励起し,その同位体が元の状態に戻らないうちに第2の操作により励起同位体をとり出す方法である。この方式の特徴としては,︵1︶高い分離比が得られる,︵2︶エネルギー効率がきわめて高いことがあげられる。この方式にはたとえばウラン金属蒸気を用いる原子法とUF6など化合物を用いる分子法がある。使用レーザーは前者には可視光レーザーである銅蒸気レーザーと色素レーザーの組合せ,後者には波長16μm帯の赤外レーザーが必要となる。このようなレーザー光と原子,分子との相互作用の研究は広く化学反応解析に応用され,今まで不明であった反応生成中間状態の解明に大きな威力を発揮している。
核融合にレーザーを応用する研究が最近急速に発展してきた。重水素,三重水素を融合させると1反応当り17.4MeVのエネルギーが発生する。水の中の水素の5000分の1は重水素であるから,資源的にみれば水1lはガソリン300l分のエネルギーを発生することができる。このような融合反応を生成するには重水素原子核を300km/sにして衝突させることが必要である。このような速度を熱で与えることが条件となる。すなわち1億Kが目標である。レーザー光を1点に集光するとこの程度の高温を発生することができる。このため必要なレーザーのエネルギーは100kJ内外となる。このレーザーを直径1mmくらいの重水素,三重水素充てん球に照射し,この燃料球を爆縮し,反応率を高め,数百倍のエネルギー利得をうる研究が進められている。大阪大学に設置された激光X11号ガラスレーザーは,世界一の出力をもつ全50TW,20kJの12ビームレーザー光を直径800μmのターゲットに照射し,核反応中性子400億個を検出している。大阪大学の二重殻ターゲット︿キャノンボール﹀はきわめて一様に加熱圧縮ができることで有名である。
執筆者‥山中 千代衛
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
レーザー
出を利用して光の増幅,発振︵主として発振︶を行わせる装置。1950年代から各種の実験が試みられたが,1960年アメリカのT.H.メイマンがルビーを使ってレーザー光線の発振に成功したことで,一気に実用化が進んだ。レーザーlaserの名はlight amplification by stimulated emission of radiation︵誘導放出による光の増幅︶の略。原子や分子を高いエネルギー準位にあげるには,強い光や電子線をあてて励起する,半導体ではpn接合に順方向電圧をかけて直接励起する,気体では放電によって励起するなどの方法がある。発振させるには共振器が必要であるが,普通2枚の平面鏡または球面鏡を,光軸を一致させて向かい合わせたファブリー=ペロー干渉計型の共振器が使われる。レーザー光は位相がそろい干渉性のよいコヒーレントな光で,普通の光より指向性と単色性がすぐれている。オプトエレクトロニクスと呼ぶ分野でのレーザー光の素子や装置として応用され,また強力なエネルギー源として利用される。材料により次のようなものがある。︵1︶固体レーザー。ルビーなどが使われ,キセノンフラッシュランプの強い光で励起。大出力のパルスが得られ,眼科などの手術,精密加工,核融合,兵器︵俗に殺人光線という︶などに応用される。︵2︶気体レーザー。ヘリウム,ネオンの混合気体や炭酸ガスが代表的で,連続発振も可能。最もコヒーレントな光が得られるので,通信,計測,ホログラフィーなどに利用される。︵3︶半導体レーザー。ヒ化ガリウム,インジウム・ヒ素・リンなどのダブルヘテロジャンクション型ダイオードを使用。小型,軽量で応答速度が速く,光ファイバー通信の発光素子として重要な役割をになうとともに,コンパクトディスク︵CD︶など光ディスクの情報読取り用光源として民生用機器にも多用されている。→レーザー加工
→関連項目ガスレーザー|ガリウムヒ︵砒︶素|干渉縞|光源|固体レーザー|タウンズ|電子製版|光通信|非線形光学|プロホロフ|ページプリンター|量子エレクトロニクス|レーザー兵器
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
レーザー
レーザー
laser
光メーザーともいう.光の誘導放出を利用して,強力な,単色性の高い,かつまた位相のそろった光線を発生させる装置.レーザー(LASER)の名称はlight amplification by stimulated emission of radiationの頭文字をとってつけられた.通常のこの装置の主要部分は,相互に向かい合わせて置かれた2枚の反射鏡と,その2枚の反射鏡の間に置かれたレーザー作用を示す活性物質とからなっている.2枚の反射鏡はその間を光が何回も往復でき,横にそれて逃げないように平行して置かれ,光学的共振器を形成している.活性物質のレーザー作用に関係する二つのエネルギー準位間に,物理的あるいは化学的方法を用いて負温度の状態を出現させると,そこを通過する特定の波長の光は誘導放出により増幅される.このような波長の光が光学的共振器のなかを往復するとき,光は増幅され強力な位相のそろった光となりレーザー発振をすることになる.レーザーの発振出力は,一方の反射鏡の反射率が100% ではなくやや小さくつくられており,それを通して取り出される.レーザーは用いられる活性物質,負温度を発生させる方法,発振波長,動作の特性などにより分類され,それぞれ名称がつけられている.活性物質によるものの例としては,固体レーザー,液体レーザー,気体レーザー,あるいはイオンレーザー,半導体レーザー,ルビーレーザー,He-Ne(ヘリウムネオン)レーザー,窒素レーザー,キレートレーザー,色素レーザー,ガラスレーザー,YAG(ヤグ)レーザーなどがある.動作特性によるものとしてはパルスレーザー,ジャイアントパルスレーザー,CWレーザー,波長可変レーザー,モードロックレーザーなどがある.そのほか,化学レーザー,X線レーザー,紫外あるいは赤外線レーザー,ラマンレーザーなどの名称もある.応用としては,干渉性が高く周波数安定性のよい点を用いた長さの精密測定,またブリルアン散乱の測定,ホログラフィー([別用語参照]ホログラム)などがある.強力な単色光源として用いられ,ラマン分光分析への応用,レイリー散乱への応用がある.とくに共鳴ラマンとよばれる現象は,レーザーの出現によって確実な測定が可能になった.また,高分解能の分光学への応用,強力なパルス光を用いる種々の非線形光学への応用,励起分子の研究への応用がある.とくにフェムト秒(10-15s)パルス光を用いて,励起分子がごく短時間に起こす反応の研究も可能になっている.レーザーの実用的応用としては,光通信用ガラス繊維を用いた光通信の開発研究が進められている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
レーザー〔クライスラー〕
アメリカのクライスラーがプリマスのブランドで1989年から1994年まで販売していた乗用車。3ドアクーペ。三菱自動車のエクリプスのOEM車。
レーザー︹フォード︺
アメリカのフォードが1982年から2000年まで製造、販売していた乗用車。4ドアセダンを中心とする。マツダのファミリアの姉妹車。
出典 小学館デジタル大辞泉プラスについて 情報