デジタル大辞泉
「性犯罪」の意味・読み・例文・類語
せい‐はんざい【性犯罪】
違法な方法によって性欲を満足させる行為で罪となるもの。広義では、変態性欲に基づく犯罪を含むことがある。
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せい‐はんざい【性犯罪】
- 〘 名詞 〙 性的な欲望を動機とする犯罪。
- [初出の実例]「性犯罪を肯定しないかぎり、仮面におまえを誘惑させる計画も、実際には成り立たない」(出典:他人の顔(1964)〈安部公房〉灰色のノート)
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性犯罪
せいはんざい
﹁性犯罪﹂につき確立した定義があるわけではないが、広義では性に関するすべての犯罪をいい、狭義では刑法第二編第22章に規定されたわいせつ、強制性交等の罪をさすものと考えておく。性欲は食欲とともに、人間の基本的な本能に属するが、性的行動や性文化は時代や地域によって大きな違いがみられ、歴史的、相対的であるから、性の領域に対する公権力の介入・干渉は、法の機能をも考慮に入れて検討されなければならない。とくに、﹁性の自由﹂とか﹁性の解放﹂が時代的風潮となっている現代においては、性文化の歴史性と相対性を十分念頭に置く必要があろう。
広義の性犯罪についていえば、その根拠︵保護法益︶として、大きく次の三つに大別することができよう。
第一に、個人の性的自由を保護目的とする一連の刑罰法規がある。すなわち、刑法第176条から第181条までの強制わいせつ罪、強制性交等罪、監護者性交等罪などがそれである。これらの罪は、被害者の性的自由を侵害して、性的衝動を満足させようとする点において性犯罪の典型である。ただ、﹁13歳未満の者﹂に対する罪については、第三点として述べる青少年を保護する目的が含まれている。
第二に、社会法益としての健全な性道徳または性風俗を保護するさまざまな刑罰法規がみられる。これは、さらに次の三つのグループに分類することができる。
(1)性行為非公然の原則とよばれる性的タブーを侵害するものとして、刑法第174条の公然わいせつ罪、同法第175条のわいせつ物頒布等の罪がこれにあたる。このうち、後者の罪は、性表現に関するものだけに、憲法が保障する自由権、とくに表現の自由︵21条︶との調整が大きな問題となり、ローレンスの﹃チャタレイ夫人の恋人﹄やサドの﹃悪徳の栄え﹄などの小説をめぐって文芸裁判としてしばしば争われてきた。
(2)一夫一婦制を基本とする家庭︵夫婦︶生活の保護を目的とする罪として、刑法第184条の重婚罪がある。なお、かつて姦通(かんつう)罪︵旧刑法183条︶の規定があったが、1947年︵昭和22︶刑法一部改正で、本罪は廃止された。
(3)性の非商品化︵非営利化︶の原則に関連して、1956年の売春防止法により、売春を助長する行為等︵売春の勧誘、周旋、売春をさせる契約、場所の提供、売春をさせる業など︶が処罰されることとなった︵ただ、売春やその相手方となること自体は処罰の対象となっていない︶。それにもかかわらず、この売春防止法は、実際上、手口の巧妙化、ネット化などによって、いわゆるざる法化していることが指摘されている。
第三に、青少年保護の立場から、とくに青少年︵満18歳未満の者︶とのみだらな性交または性交類似行為を禁止し、これに違反すると処罰される︵﹁東京都青少年の健全な育成に関する条例﹂18条の6、24条の3など︶。また、児童︵前記﹁青少年﹂と同じく満18歳未満の者︶に対する買春、児童買春の周旋・勧誘のほか、児童ポルノ所持・提供などの行為も処罰される︵﹁児童買春児童ポルノ処罰法﹂4条~7条︶。
また、性犯罪そのものではないが、性的な動機や衝動から、窃盗罪、住居侵入罪、傷害罪などが犯されるケースがあることを指摘しておこう。軽犯罪法第1条23号の窃視罪︵のぞき︶はこの種の犯罪の典型といえよう。なお、アメリカ合衆国においては、再犯の危険性がある性犯罪者の名前や住所、犯罪歴などの個人情報を住民に公開することを定めた﹁メーガン法﹂が制定されている。
﹇名和鐵郎 2018年1月19日﹈
2017年︵平成29︶7月、刑法における性犯罪の規定は110年ぶりに大幅な改正がなされた。性犯罪については事案の増加と多様化に対応するため、第177条の強姦罪については罪名を変更し処罰範囲を拡大した。すなわち、(1)罪名を強姦罪から強制性交等罪に変更し、(2)処罰の対象として姦淫のほか肛門(こうもん)性交、口腔(こうくう)性交を追加するとともに、被害者については女性だけではなく男性も対象とし、(3)監護者性交等罪を新設した。また(4)強姦罪の法定刑は、従来は3年以上の有期懲役であったが、この改正によって5年以上の有期懲役に引き上げられた。
罪名が強姦罪から強制性交等罪に改定されたことに伴って、刑法第178条2項の準強姦罪︵3年以上の懲役︶は準強制性交罪︵5年以上の懲役︶に、第181条の強姦致死傷罪︵無期または5年以上の懲役︶は強制性交等致死傷罪︵無期または6年以上の懲役︶に、第241条の強盗強姦罪︵無期または7年以上の懲役︶は強盗・強制性交等罪︵無期または7年以上の懲役︶に、強盗強姦致死傷罪︵死刑または無期懲役︶は強盗・強制性交等致死傷罪︵死刑または無期懲役︶へと変更された。これらの罪の未遂も処罰される︵同法180条、243条など︶。
集団強姦等罪︵旧刑法178条の2。4年以上の懲役︶および集団強姦等致死傷罪︵旧刑法181条3項。無期または6年以上の懲役︶は、2014年の改正の際に強姦罪等よりも重い刑を科す趣旨で設けられたが、前述のように強制性交等罪などの法定刑が引き上げられたため、集団強姦等罪および同致死傷罪の規定は削除され、強制性交等罪および同致死傷罪に含められることになった。
これらの罪は、改正前の刑法第180条では被害者の意思やプライバシーを尊重して親告罪︵告訴がなければ公訴を提起できない罪︶とされていたが、改正後は、加害者等からの干渉や報復を回避するため、この規定が削除され非親告罪となった。
﹇名和鐵郎 2018年1月19日﹈
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せいはんざい
性犯罪
sex crime
性犯罪とは,性にかかわる犯罪で,強姦rape︵レイプ︶,強制わいせつ,性器露出,覗き,盗撮,色情盗,児童ポルノグラフィーの所持などが含まれる。これらは,それぞれの刑罰法規に定められた構成要件に該当する違法かつ有責な行為である。しかし,心理学的に性犯罪の防止,性犯罪者の矯正,性犯罪被害者の支援などを考える場合,法に基づく定義では対象が狭すぎる場合がある。たとえば,強姦と強制わいせつは,親告罪であるため基本的に告訴がないと起訴されない。また,日本の強姦罪は,男性器の女性器への挿入が条件となっていて,肛門や口への挿入,女性器への異物挿入には強姦罪が適用されず,男性が被害者とされることもない。さらに,家庭内暴力つまりドメスティック・バイオレンスdomestic violence︵DV︶の中での性的被害や,子どもに対する性的虐待sexual abuse,デートレイプdate rape,セクシュアルハラスメントsexual harassmentなどの問題を含めると,法に基づく定義では対象が狭すぎ,より広い性暴力を心理学では対象とする必要がある。
性犯罪は,警察に認知されない暗数dark figureが多いことも特徴である。法務総合研究所が,2008年に16歳以上の6000人を対象として実施した第3回犯罪被害実態︵暗数︶調査によると,性的事件の申告率は13.3%であり,強盗︵強盗未遂も含む︶の65.6%と比較して約5倍も暗数化していた。暗数が多い原因としては,捜査や公判段階での2次的被害を避けようとする心理,親族や知人が加害者であるために通報をしない場合などが挙げられる。また,﹁本気で抵抗すれば強姦されるはずがない﹂﹁ほんとうは強引な性的アプローチを望んでいる﹂などの誤った性犯罪神話が信じられていることも,家族や知人への相談および警察への通報が妨げられる理由となっている。
︻性犯罪者の特徴と累犯性︼ 性犯罪者の特徴に関しては,年齢,性別,面識の有無,接触型と非接触型,養育時における愛着欠如,被虐待経験からの説明が数多く行なわれている。強姦に関しては,動機や犯行テーマから類型化が行なわれている。たとえば,アメリカ連邦捜査局︵FBI︶は強姦が性的欲求という動機のみならず,力の誇示や相手の支配に関する動機も含まれていることを見いだし,パワー確認型,パワー主張型,怒り報復型,怒り興奮型の4類型を示している。日本では,横田賀英子ら︵2004︶が,被害者を身体的・物理的に支配するために脅迫や暴力を使う支配性,性的欲求を満たすために被害者を媒体として用いる性愛性,被害者との人間関係を構築しようとする親密性の三つの犯行テーマを示している。これらの類型は,犯罪者の人物像を推定する方法である犯罪者プロファイリングoffender profilingに活用されている。
性犯罪は累犯性の高い犯罪だと一般に考えられているが,﹃犯罪白書﹄や﹃警察白書﹄に基づく統計からは,必ずしも性犯罪者が性犯罪を繰り返すという再犯率は高くない。2006年版の﹃犯罪白書﹄によれば,性犯罪再犯率は11.3%である。﹃警察白書﹄に基づく再犯率も強姦,強制わいせつともに毎年10%前後である。ただし,2010年11月に警察庁が発表した,﹁子ども対象・暴力的性犯罪の出所者﹂の再犯などに関する分析では,再犯防止措置対象者740人のうち105人が性的犯罪で再検挙されていたが,その105人のうち49人︵46.7%︶は子ども対象・暴力的性犯罪により再検挙された者であった。つまり,年少者を対象とした性犯罪者は,出所後も年少者への性的指向性が強い傾向が見いだされている。なお,累犯性の統計はいずれも警察が認知した性犯罪者が対象であり,約90%が暗数となっている性犯罪においては,累犯傾向は現在の統計資料に基づく性犯罪再犯率よりも高いことが予想される。
︻性犯罪者処遇プログラム︼ 2004年11月,奈良県で性犯罪の前歴をもつ男性による女児誘拐殺害事件が発生した。この事件を契機として,2005年6月から,警察庁と法務省は﹁子ども対象・暴力的性犯罪の出所者情報﹂制度を実施して,出所後の性犯罪者の再犯防止に努めている。さらに,2006年3月に法務省の矯正局および保護局が﹁性犯罪者処遇プログラム研究会報告書﹂を発表し,同年4月以降刑事施設および保護観察所において,性犯罪者処遇プログラムが実施されている。このプログラムは,認知行動療法cognitive behavior therapy︵CBT︶に基づき,再犯の恐れの高さと,再犯した場合に社会に与える損害の大きさの観点から,優先的にプログラムを受講させるべき対象者を選定し,その問題性の大きさに応じて,異なる密度の処遇プログラムを受講させている︵朝比奈牧子,2010︶。今後,CBTに基づく性犯罪者処遇プログラムの効果測定と改善,および諸外国で実施されている薬物療法の導入の検討が重要な課題である。
︻性犯罪被害者の心理と支援︼ 性犯罪は﹁魂の殺人﹂ともよばれるほど,被害者に与える心理的影響は大きい。アメリカでは,ベトナム戦争の帰還兵の心的外傷後ストレス障害post traumatic stress disorder︵PTSD︶が社会問題になっているとき,性犯罪被害者にも急性ストレス障害やPTSDが生じることを,バージェスBurgess,A.W.とホルムストロームHolmstrom,L.L.︵1974︶が,レイプトラウマ症候群rape trauma syndromeと名づけて報告した。日本の性犯罪被害調査でも,﹁病気になった﹂﹁精神的に不安定になった﹂﹁落ち込んだ﹂﹁汚れてしまった﹂﹁自責感・無力感を感じる﹂﹁男性が怖くなった﹂などの重篤な心理的被害が報告されている。また,事件を契機として転居を含むなんらかの社会生活上の変化を余儀なくされた人が,強姦被害者で約4割,強制わいせつの被害者で約3割に見られたとの報告もある。
性犯罪被害者の精神症状は,PTSDと解離症状,抑うつ,自殺および自傷,薬物およびアルコール乱用など多岐にわたる。性犯罪被害者のPTSD治療に関しては,CBT,とくに,安全な環境で恐怖が低減するまで恐怖を喚起させる刺激に直面させるエクスポージャー療法prolonged exposure therapy︵PE︶が最も有効である。
強姦被害者に関しては,妊娠や性感染症のリスクが考えられるため,産婦人科や泌尿器科の受診による危機介入も必要である。被害直後は被害者自身での判断が困難な状況にあるため,捜査関係者や民間の被害者支援センターによる支援も重要である。また,2004年に成立した﹁犯罪被害者等基本法﹂の基本理念に基づき,性犯罪被害者の尊厳を重んじ,被害を受けたときから再び平穏な生活を営むことができるようになるまで,途切れない支援が必要である。 →矯正心理学 →児童虐待 →ドメスティック・バイオレンス →認知行動療法 →被害者学 →不安関連障害
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性犯罪 (せいはんざい)
性に関連する犯罪の総称。刑法典には,公然わいせつ,わいせつ文書等頒布,強姦,強制わいせつ,淫行勧誘,重婚,わいせつ・結婚目的の略取,誘拐等の処罰が規定されており,特別法には売春防止法や軽犯罪法に関連規定があるほか,各種条例による取締りが行われている。︵なお,1995年刑法の表記現代化により,従来の︿猥褻﹀は︿わいせつ﹀と改められた︶一般犯罪の中にも,性衝動を契機に行われるものがあり,姦淫・わいせつ目的の殺人,傷害,女性の下着の窃盗,窃視やわいせつ目的の住居侵入,晴れ着魔等の器物損壊等があげられる。ヨーロッパやアメリカの諸州では,姦通,近親相姦等の性道徳に反する行為を処罰の対象としているところがあるが,日本においてはそのような規定はない。性犯罪には種々の態様のものが含まれるが,動機別に分類すると,︵1︶直接的な性欲求充足をはかるもの--強姦,強制わいせつ等,︵2︶性倒錯に基づく代償的行為--下着盗,窃視,性器露出,幼児へのわいせつ行為等,︵3︶利欲犯--売春,わいせつ文書販売等に分けうる。保護法益別では,強姦,強制わいせつ等は個人の性的自由を侵害するものであり,売春,わいせつ文書頒布等は,健全な性風俗を侵害するものと考えられている。
対策としては,たとえば,強姦罪は,青少年の集団による輪姦事件が多数を占め,青少年期のある程度一過性のものと考えうるものもある。しかし,過剰性欲や性倒錯等の性的異常者による犯行は,ときに常習性をもちやすいため,刑事政策上困難な問題を提供する。アメリカのいくつかの州では,犯罪を犯した性的精神病質者に対する特別立法をもち,強制治療施設への収容を規定しているが,この概念の明確性には疑問がもたれている。治療方法として,各種心理療法のほか,身体療法として,去勢,女性ホルモン療法,抗男性ホルモン療法,定位脳手術等がときに有効であるとされているが,日本ではこれら身体療法は刑事政策の枠内では行われていない。他方,わいせつ文書頒布罪についてはわいせつの基準の不明確性,表現・出版の自由との抵触等が論議の対象となっているが,近年,性道徳の刑罰による強制の可否も問題とされ,日本の猥褻性についての判断基準もかなりゆるやかなものとなってきている。
→風俗犯 →猥褻
執筆者‥岩井 宜子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報