デジタル大辞泉
「検察官」の意味・読み・例文・類語
けんさつかん︻検察官︼﹇戯曲﹈
︽原題、︿ロシア﹀Revizor︾ゴーゴリの戯曲。5幕。1836年初演。巡察の検察官とまちがえられた主人公を中心に、役人の不正が暴かれる喜劇。当時の社会悪を批判した作品。
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けんさつ‐かん‥クヮン【検察官】
(一)[1] 〘 名詞 〙 犯罪の捜査、刑事事件の公訴を行ない、法の正当な適用を求め、裁判の執行を監督することをおもな職務とする国家公務員。検事総長、次長検事、検事長、検事、副検事の五種類があり、検察庁のいずれかに所属する。︹仏和法律字彙︵1886︶︺
(二)[2] ( 原題[ロシア語] Rjevizor ) 戯曲。五幕。ゴーゴリ作。一八三五年成立、翌年初演。地方の小都市の悪徳官吏たちが無一文の青年フレスタコフを検察官と勘違いしたことから生ずる騒動を風刺的に描いたもの。
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検察官(司法)
けんさつかん
犯罪を捜査し︵検察庁法6条1項︶、刑事事件について公訴を行い、裁判所に法の正当な適用を請求し、かつ、裁判の執行を監督し、また、裁判所の権限に属するその他の事項についても、職務上必要と認めるときは、裁判所に通知を求め、または意見を述べ、また、公益の代表者として他の法令がその権限に属させた事務を行う国家機関をいう︵同法4条︶。検察官は、上級者から権限の委任を受けることなくそれぞれが独自に検察権を行使する官庁である︵これを独任制の官庁とよんでいる︶。なお、検察官という官名があるわけではなく、個々の検察官は官名として次のうちのいずれかに属する。検事総長︵最高検察庁の長︶、次長検事︵最高検察庁に属し、検事総長を補佐し、また、検事総長に事故のあるとき、または検事総長が欠けたとき、その職務を行う者︶、検事長︵高等検察庁の長︶、検事および副検事の5種類である。
検察官には級数による区別がある。検事総長、次長検事および各検事長は1級とし、その任免は内閣が行い、天皇がこれを認証する︵同法15条1項︶。検事は1級または2級とし、副検事は2級とする︵同法15条2項︶。公正な検察権の行使を保障するため、検察官には一般の国家公務員に比べて、欠格事由、任免・俸給等についてより厚い身分保障が与えられている︵同法25条︶。2級検察官は、司法修習生の修習を終えた者、裁判官の職にあった者および3年以上政令で定める大学において法律学の教授または准教授の職にあった者から任命される。なお、副検事の資格要件は緩和されており、3年以上一定の公務員の職にあった者のなかから、副検事選考委員会の選考を経て任命されることも可能である︵同法18条2項︶。副検事が任命されるのは、区検察庁の検察官の職についてのみである︵同法16条2項。ただし、同法12条により、例外として副検事が地方裁判所の検察官の事務を取り扱うこともある︶。検察官は、いずれかの検察庁に属し、他の法令に特別の定めのある場合を除いて、その属する検察庁の対応する裁判所の管轄区域内において、その裁判所の管轄に属する事項について、検察庁法第4条に規定する職務を行う︵同法5条︶。なお、検事正は地方検察庁の長である検察官の職名をさす。
﹇内田一郎・田口守一 2018年4月18日﹈
︹1︺犯罪の捜査 検察官は、いかなる犯罪についても捜査することができる︵検察庁法6条1項︶。検察官と他の法令により捜査の職権を有する者との関係は、刑事訴訟法の定めるところによる︵同法6条2項︶。検察官は、必要と認めるときは、自ら犯罪を捜査することができるが、検察事務官は、検察官の指揮を受け、捜査をしなければならない︵刑事訴訟法191条︶。検察官と都道府県公安委員会および司法警察職員とは、捜査に関し、互いに協力しなければならない︵同法192条︶。検察官は、その管轄区域により、司法警察職員に対し、その捜査に関し、必要な一般的指示をすることができる。この場合における指示は、捜査を適正にし、その他公訴の遂行を全うするために必要な事項に関する一般的な準則を定めることによってこれを行う︵同法193条1項︶。これは一般的指示権とよばれ、たとえば微罪処分の処理に関する指示などがある。また検察官は、その管轄区域により、司法警察職員に対し、捜査の協力を求めるため必要な一般的指揮をすることができる︵同法193条2項︶。これは一般的指揮権とよばれ、たとえば﹁選挙違反の検挙に務めよ﹂との指示等がこれにあたる。さらに検察官は、自ら犯罪を捜査する場合において必要があるときは、司法警察職員を指揮して捜査の補助をさせることができる︵同法193条3項︶。これは個別的指揮権とよばれ、個別事件についての捜査指揮をなす場合がこれである。これらの場合に、司法警察職員は検察官の指示または指揮に従わなければならない︵同法193条4項、なお同法194条参照︶。検察官および検察事務官は、捜査のため必要があるときは、管轄区域外で職務を行うことができる︵同法195条︶。
︹2︺合意手続 2016年︵平成28︶の刑事訴訟法改正により、取調べによらない供述証拠の収集方法の一つとして、合意制度が新たに導入された。検察官は、詐欺等の刑法犯、独占禁止法違反等の財政経済関係犯罪、覚せい剤取締法違反や銃砲刀剣類所持等取締法違反等の薬物銃器犯罪に関して、被疑者または被告人が真実を供述すること、犯罪の証拠を提出することなどして他人の刑事事件の捜査および公判に協力することを約束する場合に、被疑者または被告人に一定の恩典を与えることを内容とする合意をすることができる︵同法350条の2︶。一定の恩典としては、被疑者または被告人の事件を不起訴とすること、軽減された訴因で起訴すること、あるいは軽減された求刑をすること等がある。合意のための協議には弁護人が加わり、被疑者または被告人のみと協議することは許されない︵同法350条の4︶。検察官は、協議において被疑者または被告人から他人の刑事事件についての供述を求めることができる︵同法350条の5第1項︶。これを聴取手続とよぶが、協議手続の一部であって取調べとは異なる。この場合、合意が成立するに至らなかったときは、聴取された被疑者または被告人の供述を証拠とすることはできない︵同法350条の5第2項︶。
︹3︺刑事免責決定の請求 上記の合意制度と同様に、2016年の刑事訴訟法改正により、取調べによらない供述証拠の収集方法の一つとして、刑事免責制度も新たに導入された。検察官は、証人が刑事訴追を受けるなどのおそれがある事項について証人尋問を予定している場合、当該事項についての証言の重要性等の事情を考慮して、裁判所に対して、以下の条件を前提とした刑事免責決定を請求することができる︵同法157条の2第1項︶。(1)証人が尋問に応じてした供述およびこれに基づいて得られた証拠は、証人の刑事事件において証人に不利益な証拠とすることはできないこと、および(2)証人は、証言拒絶権の規定があるにもかかわらず、自己が刑事訴追を受けまたは有罪判決を受けるおそれのある証言を拒むことはできないこと、である。この場合、刑事免責の対象となる犯罪に限定はない。なお、証人が証言を拒めば過料︵同法160条1項︶や証言拒絶罪︵同法161条︶の対象となる。
︹4︺公訴の提起・維持 公訴は、検察官がこれを行う︵同法247条︶。犯人の性格、年齢および境遇、犯罪の軽重および情状ならびに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないこと︵不起訴︶ができる︵同法248条︶。公訴の提起は、起訴状を提出してこれをしなければならない。起訴状には、(1)被告人の氏名その他被告人を特定するに足りる事項、(2)公訴事実、(3)罪名を記載しなければならない。公訴事実は、訴因を明示してこれを記載しなければならない。訴因を明示するには、できる限り日時、場所および方法をもって罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない。罪名は、適用すべき罰条を示してこれを記載しなければならない。ただし、罰条の記載の誤りは、被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがない限り、公訴提起の効力に影響を及ぼさない。数個の訴因および罰条は、予備的にまたは択一的にこれを記載することができる。起訴状には、裁判官に事件について予断を生じさせるおそれのある書類その他の物を添付し、またはその内容を引用してはならない︵同法256条︶。裁判所は、検察官の請求があるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、起訴状に記載された訴因または罰条の追加、撤回または変更を許さなければならない︵同法312条1項、なお同法312条2項参照︶。公訴は、第一審の判決があるまでこれを取り消すことができる︵同法257条︶。
そのほか、検察官は証拠を提出し、意見陳述をなす等の権限をもち︵同法298条1項、293条1項等︶、また、上訴をすることができる︵同法351条︶し、再審の請求をすることができる︵同法439条1項1号︶。裁判の執行は、原則として、その裁判をした裁判所に対応する検察庁の検察官がこれを指揮し、上訴の裁判または上訴の取下げにより下級の裁判所の裁判を執行する場合には、原則として、上訴裁判所に対応する検察庁の検察官がこれを指揮する︵同法472条︶。
﹇内田一郎・田口守一 2018年4月18日﹈
検察官はそれぞれ独任制の官庁であるとともに、上命下服の関係にたち︵検察庁法7条~10条︶、職務上一体をなしている。検事総長、検事長または検事正は、その指揮監督する検察官に、各自己の管掌する事務の一部を取り扱わせ︵同法11条︶、またその指揮監督する検察官の事務を、自ら取り扱い︵職務承継権︶、またはその指揮監督する他の検察官に取り扱わせる︵職務移行権︶ことができる︵同法12条︶。その結果として、検察官の決定は検察組織全体の決定とみなされることになる。これを検察官同一体の原則とよぶ。なお、検事総長および次長検事、検事長もしくは検事正に事故のあるとき、またはこれらの者が欠けたときは、一定の順序により部下の検察官は、特別の授権なくして、これを代理する権限︵下官の上官代理権︶を有する︵同法13条︶。
法務大臣は、検察庁法第4条および第6条に定める検察官の事務に関し、検察官を一般に指揮監督することができる。ただし、個々の事件の取調べまたは処分については、検事総長のみを指揮することができる︵同法14条︶。これは指揮権発動とよばれる。法は公正な検察権の行使を期待している。
﹇内田一郎・田口守一 2018年4月18日﹈
検察官(ゴーゴリの喜劇)
けんさつかん
Ревизор/Revizor
ロシアの作家ゴーゴリの五幕喜劇。1835年初稿。36年初演。42年最終稿発表。頭のからっぽな青年官吏フレスタコーフが、ある地方都市で役人たちから微行中の検察官と間違えられ、さんざん飲み食いしたあげく、すねに傷もつ市長や役人たちから金を巻き上げて遁走(とんそう)するという筋。作者の意図は政治的ではなく道徳的なもので、政府の信用を落とす「悪(あ)しき執行者」を正義の立場から風刺するにあったことは明らかであるが、結果的には官僚制度そのものに対する痛烈な告発と受け取られ、その後もロシアではこの解釈が一般的である。芸術的には、すこしも無理のない、しかも緊密な構成、単純明快な筋の運び、みごとに書き分けられた性格、無類に生きのいい台詞(せりふ)など、完璧(かんぺき)としかいいようのないできばえを示しており、かつてロシア語で書かれたあらゆる戯曲の最高峰に位する作品といっても過言ではない。
[木村彰一]
『米川正夫訳『改訳 検察官』(岩波文庫)』
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検察官(文学)︻けんさつかん︼
ゴーゴリの風刺喜劇。︽Revizor︾。5幕。1836年初演。無一文で故郷へ帰る途中の青年フレスタコフは田舎町で検察官に間違えられたのを利用して,市長の家に泊り込み,役人や商人から賄賂(わいろ)を取って逃げる。緊密かつ明快な劇の構成や生き生きとしたせりふなど,19世紀ロシア戯曲の最高傑作とされる。
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検察官 (けんさつかん)
Revizor
ロシアの作家ゴーゴリの5幕喜劇。1835年作。︿喜劇を書きたくて手が震えるほど﹀の状態で一気呵成︵かせい︶に書き上げられた。ペテルブルグの役人生活に失敗し無一文で故郷へ帰る途中の,頭のいささかからっぽな若い男フレスタコフは,ある田舎町で町政巡察の検察官にまちがえられる。彼は,町長はじめ横領などで脛︵すね︶に傷をもつ役人たちの賄賂攻勢を利用して彼らを手玉に取り,金を巻き上げ,ころあいを見計らって遁走する。その後で本物の検察官の到着が知らされ,一同茫然︵ぼうぜん︶となったところで幕が降りる。ゴーゴリはこの作品で︿あらゆる醜悪なものをひとまとめにして一挙に嘲笑してやろう﹀としたのである。題辞︿自分のつらが曲がっているのに鏡を責めてなんになる﹀からわかるように,その意図は人々を道徳的に目覚めさせることにあったが,それは理解されず,1836年の初演後,評価をめぐって左右両派の激しい論争が起こった。劇の構成,人物の設定,せりふの卓抜さなど,19世紀ロシアを代表する戯曲である。日本では1911年楠山正雄が英語版からの訳で紹介し,22年米川正夫が原典からの訳を発表。1911年の新時代劇協会による有楽座での公演が初演。
執筆者‥灰谷 慶三
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検察官
けんさつかん
public prosecutor; Staatsanwaltschaft
刑事事件についての原告官。公訴を行い,裁判所に法の正当な適用を求め,かつ裁判の執行を監督し,その他公益の代表者として法令上権限を付与された事務を行う国家機関 (検察庁法4) 。検事総長,次長検事,検事長,検事,副検事の5種類がある (3条) 。検察官は,ひとりひとりが検察権を行使する官庁であるが,全国的に統一的,階層的な組織を成しており,不可分一体のものとして活動する (検察官一体の原則) 。基本的には行政官であるが,司法権の行使にかかわる職務を行うものであることから,裁判官に準じて法律上強い身分保障が与えられている。
検察官
けんさつかん
Revizor
ロシアの作家 N.ゴーゴリの代表的喜劇。 1836年初演。ロシアのある田舎町を舞台に,職権を乱用し,詐欺,収賄を平然と行なっている町長をはじめとする判事,病院長,郵便局長,地主といった粗野で無知な官僚一味が,ふらりと舞込んだ都会のハイカラ青年フレスタコフを検察官と勘違いしたことから巻起る滑稽な騒ぎを,辛辣な風刺と深いペーソスをたたえた筆致で描く。当時のロシア社会の恥部ともいうべき一面を鋭くえぐりだしたこの作品は,上演と同時に激しい非難を浴びた。 19世紀前半のロシア演劇の発達に新時代を画した名作。
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検察官
犯罪を捜査し、公訴を行い、裁判所に対して法の正当な適用を請求し、裁判の執行を監督する者。検事も検察官の一種だが、他にも検事総長・次長検事・検事長・副検事があり、合計五種類の検察官がいる。
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世界大百科事典(旧版)内の検察官の言及
【起訴】より
…私人訴追を伝統とするイギリスでは,刑事訴追は,おもに,法秩序維持に関心を有する一私人としての警察官をとおして行われる。一方,検察制度成立後のヨーロッパ大陸では,国家機関である検察官が刑事訴追を行う中心的存在となった(国家機関のみが刑事訴追を行うことを︿国家訴追主義﹀という)。もっとも,これらの国でも,一定範囲の軽罪に対する私人訴追や私人の公訴参加など被害者が手続を開始させたり,手続に関与することも認められている。…
【検察制度】より
…検察官は,刑事事件につき[公訴]を行うことを主たる任務とする国家機関であるが,これが制度的に確立されたのは,裁判の長い歴史に比較すればそれほど古いことではない。裁判において裁判官が必要不可欠の存在であるのに対し,訴追者としての検察官は必然的なものとはいえず,近代以前の刑事裁判では,裁判官が訴追者と判断者とを兼ね,事件は︿不告不理の原則﹀によることなく裁判所の職権で開始されるのが通例であった。…
【ケンソル】より
…古代ローマの公職者の一つ。戸口総監,検察官などと訳す。市民および家族,財産の市民原簿登録のため4年(後に5年)ごとに2名が民会で選挙され,1年半の任期中,常に共同で執務した。…
【捜査】より
…
﹇捜査機関,捜査の開始﹈
捜査機関とは,法律により捜査を行う権限が与えられているものをいう。捜査の第1次的担当者は[司法警察職員](主として警察官のこと)であるが,検察官・検察事務官も,二次的担当者として捜査に携わる。旧刑事訴訟法までは検察官が第1次的捜査担当者であり,司法警察職員は,その指揮を受けて補助をするにすぎなかった。…
【活人画】より
…また1948年,第2次世界大戦後の東京の帝都座などに,︿額縁ショー﹀と称する裸体活人画が生まれて一時流行し,のちの[ストリップショー]の先駆となった。歌舞伎のだんまりの中の[見得]︵みえ︶や幕切れの絵面︵えめん︶の見得,ゴーゴリの風刺喜劇︽検察官︾の突然の静止による最終場面なども広義の活人画といえよう。︻河竹 登志夫︼。…
※「検察官」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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