改訂新版 世界大百科事典 「筋肉痛」の意味・わかりやすい解説 筋肉痛 (きんにくつう)myalgia 一般に,痛みの所在が判然とせず,だるくて鈍いなんともいえないいやな感じを伴った筋肉の痛みをさす。これに対して,筋肉になんらかの外傷や急性炎症がある場合の疼痛は,局在がはっきりした鋭い痛みとなる。筋肉痛の場合は,筋肉の緊張が亢進しており,いわゆる︿こ︵凝︶り﹀という自覚症状を伴うことが多い。このような疼痛を有痛性痙縮というが,筋肉の痙縮により疼痛が発生するのか,疼痛により痙縮が発生するのか,両者は表裏一体の現象である。筋肉がこる場合の最も一般的な原因は疲労である。疲労により筋肉の血液の循環が障害されると,酸素やエネルギー源の供給は思うようにいかなくなり,嫌気性解糖がさかんになる。その結果産生された乳酸などの疲労物質が蓄積されて,筋肉のタンパク質が膠質︵こうしつ︶化学的変化を起こすと,筋肉の硬度が増加して︿こり﹀の状態になる。また精神的緊張や内臓に疼痛の原因になるような疾患がある場合の筋肉の反射性緊張も筋肉の︿こり﹀の原因になる。筋肉の︿こり﹀が痛みとどのように結びつくかは,筋肉内あるいはその筋肉が付着する骨膜に分布する知覚神経が筋肉の緊張により機械的刺激を受けるためと考えると理解が簡単である。一方,筋肉の血流障害が筋繊維の萎縮と筋繊維内脂肪浸潤を引き起こし,ひき続いて起こる限局性筋炎が疼痛の原因となることもある。いずれにしても筋肉の緊張によって血流量が減少すると,微小血管拡張系が活動してカリウムイオンや乳酸などの発痛物質の遊離が促進される。またpHが低下している筋組織では発痛物質を破壊する酵素の活動は抑制されており,阻血によって発痛物質の流出が妨げられ筋肉内に蓄積されることも疼痛の発現の原因となる。痛覚神経繊維には,鋭い刺すような痛みを感じる大径有髄のAδ繊維と,鈍くてだるい痛みを感じる小径無髄のC繊維がある。酸素欠乏の条件下では,Aδ繊維の機能は容易に脱落して,C繊維優位の状態になる。このため酸素が欠乏しており,緊張を伴う筋肉は,鈍くてうずくような痛みを感じることになるのである。筋肉痛の予防は,筋肉をきたえて疲労が起こりにくくすることが第一である。筋肉痛が起こった場合には,筋肉を休めて疲労を除き,温湿布やマッサージで筋肉の血流を改善するとよい。 →痛み 執筆者‥石井 清一 出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
食の医学館 「筋肉痛」の解説 きんにくつう【筋肉痛】 ︽どんな病気か?︾ ︿運動によって筋肉が損傷を受けることで起こる﹀ だれにでも経験がある筋肉痛(きんにくつう)は、運動をした日の翌日から数日後にかけて、使った筋肉に痛みが起こるものです。 筋肉は、関節をまたいで、その両端が骨に付着しています。この筋肉が伸びたり縮んだりすることで体を動かしています。 ところが、筋肉が収縮しようとしているとき、逆に筋肉を引き伸ばして力をだすような動きをすると、筋組織に損傷が起こります。たとえば、腕ずもうで、負けそうになりながらねばっているときなどが、その状態です。 筋肉痛は、こうして起こった筋肉の損傷と炎症によって引き起こされるといわれます。 運動をした日から6日後くらいのあいだにもっともはげしくなり、その後はなにもしなくても徐々におさまっていくのがふつうです。 ︽関連する食品︾ ︿生たまごの白身はビオチンの吸収を阻害する﹀ ○栄養成分としての働きから 筋肉痛を緩和する働きがある栄養素はビオチンです。ビオチンは、糖質や脂質、たんぱく質の代謝(たいしゃ)を助け、エネルギーをとりだす役割を受けもつビタミンです。筋肉痛が起こったときには、レバー、イワシ、ピーナッツ、たまごなど、ビオチンを多く含む食品をとるといいでしょう。 ただし、生たまごの白身には、胃や腸でビオチンと結合し、吸収を阻害する成分が含まれています。毎日大量に生たまごを食べなければ問題ありませんが、たまごは加熱して食べたほうが、むだなくビオチンを摂取できます。 また、筋肉の炎症を抑えるのにはIPA︵イコサペンタエン酸︶が効果的です。IPAは、ハマチ、キンキ、イワシ、マグロのトロなどの魚に多く含まれています。 そのほか、ビタミンB1やカルシウムも筋肉痛の予防のためにはとっておきたい栄養素です。 ビタミンB1には、糖質が体内でエネルギーにかわるのを補助する働きがあり、不足するとエネルギー不足になって筋肉の働きが鈍くなります。また、カルシウムが不足すると筋肉の収縮がうまくいかなくなり、硬直して、筋肉痛やけいれんを引き起こしやすくなります。 ビタミンB1は豚肉、ウナギ、カレイ、ピーナッツなどに含まれ、カルシウムは牛乳や乳製品、ワカサギなどの小魚、コマツナなどの野菜、ヒジキなどの海藻類に含まれています。 出典 小学館食の医学館について 情報
日本大百科全書(ニッポニカ) 「筋肉痛」の意味・わかりやすい解説 筋肉痛きんにくつう 筋肉の痛みをさす。疾患名ではなく、あくまで症状名であり、筋肉の外傷や炎症で発生するほか、いわゆる肩こりや腰痛症で認められる。外傷による代表的なものとして挫傷(ざしょう)︵打撲︶があり、高度の場合は筋組織の断裂が認められることもある。化膿(かのう)菌による筋肉の炎症は化膿性筋炎であり、安静にしていても疼痛(とうつう)が強く、発熱のほか、局所に発赤や熱感などの炎症症状を認める。また肩こりとよばれる頸筋(けいきん)痛や腰筋痛は、頸部あるいは腰部を構成している筋膜、筋肉、靭帯(じんたい)、脊椎(せきつい)骨、脊椎関節などのいずれの病変が原因となってもおこりうる。たとえば、加齢的変化である変形性頸椎症で頸筋痛が認められるし、変形性腰椎症で腰筋痛が発生する。このような筋肉痛では、その筋肉は緊張して圧痛がある。いずれにしても筋肉痛は、その原因を確かめて治療することが望まれる。 ﹇永井 隆﹈ [参照項目] | 肩こり | 筋炎 | 腰痛症 出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例