六訂版 家庭医学大全科 「聴神経腫瘍」の解説
聴神経腫瘍
ちょうしんけいしゅよう
Acoustic tumour
(耳の病気)
どんな病気か
聴神経は脳から出る12対の神経のうちのひとつです。聴神経腫瘍はこの神経を取り巻いている鞘さやから発生する良性腫瘍で、脳腫瘍の約10%を占めます。前ぜん庭てい神経︵めまいの神経︶から腫瘍が発生することが多いのですが、前庭神経といっしょに脳から出る聴神経に障害が及び、難聴︵聞こえの悪化︶が生じることが多いのでこの名前がつけられています。原因は何か
真の原因は明らかではありません。しかし聴神経腫瘍の特殊例として両側に腫瘍が生じることがあり︵神しん経けい線せん維いし腫ゅし症ょう2型︶、遺伝性の原因が明らかにされています。症状の現れ方
片側の難聴や耳鳴りが最も多く認められます。難聴は徐々に進行する場合が多いのですが、その進行速度はさまざまで、短期間で進行する場合もあれば数年でごくわずかしか進行しない場合もあります。 また、ある日突然難聴が生じることもあり、突発性難聴(とっぱつせいなんちょう)との見分けが重要になります。難聴がよくなったり悪化したり、変動することもあります。そのほか、めまいやまれに顔面神経麻痺、顔面けいれんなどを伴うことがあります。検査と診断
聴力検査、聴性脳幹反応︵音刺激に反応する脳波を調べる︶、平衡機能︵めまい︶検査により聴神経腫瘍が疑われる場合はMRIによる画像検査を行います。また、脳神経検査を行い、他の脳神経に異常がないかどうかを調べます。治療の方法
聴神経腫瘍は比較的ゆっくり発育する良性腫瘍であるため、高齢の患者さんや腫瘍が小さい場合には治療を行わず、画像検査を定期的に行い、経過をみることもあります。 治療を行う場合は大きく手術療法と放射線療法に分かれます。手術療法は腫瘍が発生した部位や大きさ、残存聴力などに応じていくつかの手術方法があり、耳鼻咽喉科または脳外科が担当します。 放射線療法︵ガンマナイフまたはリニアックによる治療︶は腫瘍を消失させるのではなく、腫瘍が大きくなるのを抑えることを目的としています。おのおのの治療法は聴力の悪化、顔面神経麻痺など合併症に関して長所と短所があり、専門医の説明をよく聞いて選択します。病気に気づいたらどうする
徐々に進行する片側の難聴に気づいた時には、まず耳鼻咽喉科専門医の診察を受けることをすすめます。 古田 康聴神経腫瘍
ちょうしんけいしゅよう
Acoustic tumor
(脳・神経・筋の病気)
どんな病気か
聴神経のうち、前ぜん庭てい神経と呼ばれる神経を包んでいる鞘さやから発生する良性の脳腫瘍です。耳の奥に発生し、音を伝える神経が頭蓋骨の孔あなのなかを走り、脳のほうへ出る直前の場所で神経の鞘がふくらみ、やがて腫瘍になります。近くには顔面の表情を作る筋肉を動かす顔面神経や、音を直接脳に伝える蝸かぎ牛ゅう神経、脳の中心で多くの機能が集中する脳のう幹かんと呼ばれる場所があります。症状の現れ方
数年の経過で片方の聴力が低下したり、耳鳴りが現れます。腫瘍が非常に大きくなるとまわりの神経を圧迫して、めまい、ふらつき、吐き気、まれに顔面神経麻痺などが現れます。また、まれに髄ずい液えきの流れが損われて、脳のなかに水がたまる水すい頭とう症しょという病気になることもあります。検査と診断
MRI検査で腫瘍を診断します︵図38︶。腫瘍はほとんどの場合、骨のなかに一部が埋もれているので、CT検査で細かい断層撮影を行って骨の情報を収集します。治療の方法
良性の脳腫瘍ですから、手術による切除が基本です。手術が行えない場合や手術をしても腫瘍が残った場合には、放射線を腫瘍のところに集中してあてるガンマナイフと呼ばれる治療が行われます。手術顕微鏡を使いながら、慎重にまわりの神経から腫瘍をはがし、さらに骨のなかに埋もれている腫瘍はドリルで骨を削けずりながら切除します。 手術のポイントは、腫瘍にくっついて走る顔面神経の保存です。腫瘍が小さい場合には近くにある顔面神経の機能を残すことが可能で、また蝸牛神経の機能を手術中に脳波で記録しながら腫瘍を切除すると、術後も聴力を保つことが可能な場合もあります。 逆に腫瘍が大きいと、手術により顔面神経麻痺が現れる可能性が大きくなりますが、顔面神経麻痺は明らかに神経を残せた場合には、手術後しばらくすると回復することがあります。 松前 光紀出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報