デジタル大辞泉
「脊椎カリエス」の意味・読み・例文・類語
せきつい‐カリエス【脊椎カリエス】
脊椎骨の結核。疼痛があり、脊椎の運動が制限され、進行すると椎体が破壊され、膿瘍を形成し、脊椎の変形をきたす。治癒後にも脊柱の湾曲がのこる。
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せきつい‐カリエス【脊椎カリエス】
- 〘 名詞 〙 ( カリエスは[ドイツ語] Karies ) 脊椎の骨結核。疼痛、脊椎運動制限、膿瘍形成を示す。治癒後に亀背(きはい)を生ずる。しばしば膿瘍は体内を流下して結核性膿瘍を形成する。
- [初出の実例]「背中の傷が脊椎カリエスになれば致命傷になりかねないが」(出典:城の崎にて(1917)〈志賀直哉〉)
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脊椎カリエス
せきついカリエス
Tuberculous spondylitis
(運動器系の病気(外傷を含む))
肺からの結(けっ)核(かく)菌(きん)が血行性に運ばれて発症する結核性脊椎炎です。脊椎の部位別には腰(よう)椎(つい)、胸(きょ)椎(うつい)、胸腰椎などの順に多く、頸(けい)椎(つい)はまれです。
最初に椎(つい)体(たい)が破壊され、次いで椎(つい)間(かん)板(ばん)にも病巣が波及し、進行すると隣接した椎体にも病巣が広がります。病気が進行すると、椎体内に乾(かん)酪(らく)壊(え)死(し)といわれるチーズの腐ったような壊死巣が形成され、椎体周囲に膿(のう)瘍(よう)が形成されます。腰椎では腸腰筋の筋肉内に膿瘍が形成されますが、椎体周囲の膿瘍や腸腰筋膿瘍は重力のため臀(でん)部(ぶ)、鼠(そけ)径(い)部(ぶ)などに降下して流注膿瘍となります。さらに進行すると椎体が潰れ、後(こう)弯(わん)変形を生じます。
脊(せき)柱(ちゅう)後弯変形は、脊(せき)髄(ずい)麻痺や心・肺機能障害の原因となるため注意が必要です。また、近年はHIV︵エイズウイルス︶感染が結核感染の危険因子として注目されています。
大部分は肺に病巣を形成した結核菌が血行性に運ばれて発症しますが、まれに泌尿器が感染源となることがあり、明らかな肺病変がない場合もあります。発生頻度は減少傾向にありますが、近年は高齢者の罹患例が増加しています。
全身的には微熱、食欲不振、全身倦怠感などが、局所症状としては腰背部痛、脊柱の硬直などがみられます。腰背部痛は化膿性脊椎炎に比べると軽度で、緩やかに経過します。罹患部位の脊椎の叩(こう)打(だつ)痛(う)︵叩くと痛みが出る︶も特徴のひとつです。
膿瘍の症状としては、腹部、臀部、鼠径部の突っ張り感や重苦しさですが、腸腰筋膿瘍では疼痛のため股関節の伸展が制限され、屈曲位をとります。また、結核性の肉(にく)芽(げ)、膿瘍や後弯などの脊柱変形により脊髄麻痺を生じると、下肢の脱力、しびれや歩行障害が現れます。
単純X線写真では椎間板腔が狭くなり、椎体の不整像がみられ、進行すると椎体が破壊され楔(くさび)状になり、後弯を生じます。また、たまったうみが胸椎では脊柱の脇に紡(ぼう)錘(すい)状(じょ)陰(うい)影(んえい)として、腰椎では腸腰筋膿瘍陰影としてみられます。CT検査では、椎体内や周囲の膿瘍像や壊死した骨の石灰化像がみられます。
MRIは病巣の広がりや神経との関係を知るうえで重要な検査です。とくに造影MRIでは、病巣中央の乾酪壊死巣を取り巻く反応性肉芽が造影される所見が特徴です。
血液検査では白血球数の増加やCRPの陽性がみられますが、特徴的ではなく、ツベルクリン反応や喀(かく)痰(たん)検査が必要です。
確定診断は、生検︵針で組織の一部を採取する検査︶によって得られた組織や膿瘍の顕微鏡検査や培養検査で結核菌を同定することです。培養検査は4~8週間かかりますが、最近は菌のDNAやRNAを利用した検査法が行われ、早期に診断が可能になっています。
保存的治療が原則で、抗結核薬による化学療法が基本になります。進行して骨破壊が著しい場合や、脊髄麻痺が出現した場合には、手術的治療が行われます。また、小児で後弯を生じた場合、進行性で重度の変形に進行することがあるため、手術が必要となる場合があります。
脊椎カリエスは感染症であり、周囲に結核に感染した人がいて、前に述べたような症状がある場合には、すみやかに検査を受けるべきです。最近では、結核に感染したことのない若年者に発生することもあり、注意を要します。
脊椎カリエスの診断がなされた場合、結核予防法が適応され、排菌していないかなどの検査が行われます。
朝妻 孝仁
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
脊椎カリエス (せきついカリエス)
spinal caries
脊椎における結核性病変をいう。カリエスとは︿骨が腐る﹀という意味で,結核性という意味は含まれていないが,︿骨を腐らせる﹀のは結核が最も多いところから,骨関節結核を一般にカリエスという。脊椎カリエスは,骨関節結核の一つで,その半数以上を占め頻度は最大である。脊椎のなかでは胸椎に発症するものが最も多く,腰椎がこれに次ぐ。脊椎骨のうち,椎体の侵されるものが大半を占め,脊椎骨の後方部分を形成する横突起,椎弓,関節突起,棘︵きよく︶突起などは侵されにくいので,脊椎骨全体として前方の椎体のみ圧潰され,そのため罹患椎部は特徴ある限局した後彎︵こうわん︶を呈し,とがって後方に突出することが多く,角状後彎と呼称される。数多くの脊椎骨が罹患し,角状後彎の上下に全体として後彎を呈すると亀背,いわゆる︿せむし﹀となる。
疼痛が初発症状のことが多く,この疼痛のために傍脊椎筋の反射性緊張を起こして脊椎のしなやかさを失い︵不撓性︶,小児などでは脊椎運動によって疼痛を起こすので,脊椎を動かさざるをえない衣服の着脱などをいやがるため,入浴などをいとうようになる。結核菌に破壊された骨は膿瘍を形成する。これらの膿瘍はいわゆる結核性の冷膿瘍であるが,胸椎カリエスでは横隔膜にさえぎられ,周囲は心臓,肺,縦隔などの組織にとり囲まれているために脊椎の周囲に膿が貯留し,X線像では西洋ナシ状の膿瘍陰影を呈し,滞積膿瘍という。腰椎カリエスにおいては膿瘍は重力により組織間隙を伝わって遠隔部に膿瘍を形成し,これを流注膿瘍という。腰椎カリエスの腸骨窩︵か︶膿瘍,大腿筋膿瘍,膝窩部膿瘍などがその典型である。膿瘍は一たび瘻孔︵ろうこう︶をつくるとなかなか閉鎖しない。また,椎体の骨破壊により膿瘍や病的肉芽組織が脊椎管内に出て脊髄を圧迫し,圧迫性脊髄炎を起こし,両下肢の運動・知覚障害や膀胱直腸障害を生ずるにいたる。
治療は結核全般の全身療法と共通である。従来は抗結核剤とギプスベッド安静による保存的療法が主流を占めていたが,現在では手術的療法により大幅にその病臥期間が短縮されている。抗結核剤としては,ストレプトマイシン︵SM︶,パラアミノサリチル酸︵PAS︵パス︶︶,イソニコチン酸ヒドラジド︵INAH︶,カナマイシン︵KM︶,リファンピシン︵RFP︶,エタンブトール︵EB︶などが用いられる。手術的療法は,抗結核剤投与下に,胸椎では胸膜外から,または開胸により,腰椎では腹膜外から,または開腹により,病巣に到達し,徹底的に病巣を摘出し,骨移植により椎体固定を行う。また昔は膿瘍の切開は︿死の門戸を開く﹀といわれ,危険なものとされたが,現在では積極的にメスが加えられている。圧迫性脊髄炎に対しては,下肢牽引などの保存的療法が効を奏しない場合には,前方から病巣を搔爬︵そうは︶して除圧をはかる方法がとられている。圧迫性脊髄炎とともに亀背を矯正するときはハロー骨盤牽引halo-pelvic tractionなどが除圧手術と併用され,しだいに亀背を矯正し,最終的に後方固定術が行われる。
→結核
執筆者‥河路 渡
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脊椎カリエス
せきついかりえす
spinal caries
結核性脊椎炎tuberculous spondylitisのことをわが国では一般に脊椎カリエスと呼び習わしている。肺などの他の結核病巣から血行性に脊椎へ転移して発病した二次感染による結核が脊椎カリエスで、椎体に入った結核菌が骨内に空洞を形成すると、椎体は体重によって圧縮されくさび状となり、外見上も亀背(きはい)が目だってくる。疼痛(とうつう)を主症状とし、胸椎カリエスでは背痛、肋間(ろっかん)神経痛を、腰椎カリエスでは腰痛、坐骨神経痛をきたす。かつては多い疾患であったが、肺結核が減少するに伴い少なくなっている。結核に対する全身的療法とギプスベッドやコルセットによる局所の免荷と安静保持が行われる。局所に対する根治的手術も行われる。かつては不治の病として恐れられていたが、治療法の進歩によって現在は生命的予後はよい。
なお、カリエスはラテン語で骨が腐るといった意味をもち、歯科で齲蝕(うしょく)dental cariesや齲歯︵むし歯︶carious toothというように用いられている。
﹇永井 隆﹈
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「脊椎カリエス」の意味・わかりやすい解説
脊椎カリエス【せきついカリエス】
脊椎のカリエス。主として椎体前面,椎間板から冒され,膿が下降して咽後(いんご)︵のどの奥︶,頸(けい)部,腸骨窩(か)などに膿瘍(のうよう)を形成し,進行すると脊髄を冒す。症状は脊椎の棘(きょく)突起痛,神経痛,脊椎の運動制限や変形,運動麻痺(まひ)など。治療には抗結核薬投与のほか,病巣を除く根治手術など。
→関連項目腰痛症
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脊椎カリエス
せきついカリエス
spinal caries
脊椎の結核症。主として椎体,ことにその上下縁に始り,椎弓や棘突起の病変はきわめて少い。多量の膿が形成され,膿瘍は病巣部にとどまったり (滞留膿瘍) ,抵抗の少い組織を通って下行したり (流注膿瘍) する。結核の一般的な治療のほか,局所の固定などを行う。
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