デジタル大辞泉
「酸敗」の意味・読み・例文・類語
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さん‐ぱい【酸敗】
(一)〘 名詞 〙
(二)① 油脂が保存中に、酸素、熱、湿気、光、細菌などの作用を受けて劣化すること。不快な臭いを出して味が悪くなる。変色したり遊離の酸が増える場合が多い。加水分解による脂肪酸の遊離、不飽和結合の酸素による切断などが起こる。油脂以外にいうこともある。
(一)[初出の実例]﹁乳汁は其味の変じ易きものにして、︿略﹀暫く時を費すときは全く酸敗するものなり﹂(出典‥明治月刊︵1868︶︿大阪府編﹀三)
(三)② 食物が胃の中に停滞して腐敗し、酸っぱくなること。
(一)[初出の実例]﹁何等の飲食を与ふるも尽(ことごと)く酸敗して滋養の功を奏せざるが如し﹂(出典‥文明論之概略︵1875︶︿福沢諭吉﹀三)
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
酸敗
さんぱい
rancidity
油脂を空気、熱、光などにさらして貯蔵しているうちに変質がおこり、いやなにおい、味を生ずるに至る。この現象を酸敗という。変敗とも称する。これは主として油脂の自動酸化︵大気中の酸素分子による緩慢な酸化︶による。微生物の作用によることもある。自動酸化に対し、飽和脂肪酸はオレイン酸に比べ非常に安定︵100倍程度︶であり、オレイン酸はリノール酸よりも著しく安定︵20~40倍︶である。リノール酸はリノレン酸よりも安定︵2倍程度︶である。リノレン酸は、魚油に含まれる高度不飽和脂肪酸よりも安定といえる。結局、リノール酸以上の不飽和度の高い成分脂肪酸の含有量が、油脂の酸敗の度合いを実質的に左右する。
油脂の自動酸化によりまずヒドロペルオキシド︵過酸化脂質︶を生じ、これが分解してアルデヒド、ケトンなどを生成し、いやなにおい、味を生ずるに至る。この際、アルコール、短鎖脂肪酸、炭化水素、酸化重合体、水などをも生じ、アセチル価、酸価なども上昇してくる。過酸化物価で表されるヒドロペルオキシドは毒性を有する。油脂が食品に含まれる場合、過酸化物価は低いことが必要である。油脂の自動酸化︵その度合いをTBA値でも表しうる︶ひいては酸敗は、空気、熱、光を避け、酸化防止剤︵たとえばビタミンE︶および相乗剤︵たとえばクエン酸︶を使用することによって、ある程度抑止される。
﹇福住一雄﹈
食品においては、油脂および油脂を含む食品が古くなると、酸化によって生じた過酸化物などがさらに分解され、不快な臭気を発生し、味が悪くなり、あるいは色が変わることがある。このような油の劣化現象を酸敗、または変敗という。また、食品中のリパーゼ︵脂肪分解酵素︶や微生物の作用も酸敗に関係している。酸敗は食品への影響が大きく、とくに油脂を多く含む食品は、これによって風味を損なうだけでなく、場合によっては毒性をもつ。酸敗を防ぐには、抗酸化剤︵酸化防止剤︶を加える、空気に食品が触れないように包装内の気体を窒素ガスに置き換える、酸素吸収材を添付するなどのほか、冷暗所に貯蔵する必要がある。魚の塩干(えんかん)品などの酸敗は油焼けとよばれる。
﹇河野友美・山口米子﹈
﹃安田耕作・福永良一郎・松井宣也・渡辺正男著﹃新版 油脂製品の知識﹄︵1993・幸書房︶﹄
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酸敗 (さんぱい)
rancidity
油脂が貯蔵中に変質し,粘度が上昇したり,臭気を発するようになる現象。とくに食用油脂の場合には色,味の変化,栄養価の低下,ときには有害物質の生成を伴うこともあり問題となる。酸敗の反応は,酸化型酸敗,加水分解型酸敗,ケトン型酸敗に大別される。︵1︶酸化型酸敗 空気中の酸素が油脂の不飽和脂肪酸の不飽和結合部分に結合して︵自動酸化という︶ヒドロペルオキシドを生じ,この反応が連鎖的に進行して不飽和結合が切れ,その結果,低級不飽和のアルデヒド,遊離脂肪酸,ケトンなどが生成して悪臭を生ずる。魚油のように不飽和脂肪酸を多く含む油脂で起こりやすく,光,熱,金属などの存在で反応が促進される。︵2︶加水分解型酸敗 空気中の水分を吸収した油脂がリパーゼなどの含有酵素の働きでグリセリンと高級脂肪酸に分解される。バターなど分子量の小さい油脂によく起こるが,高級脂肪酸には刺激臭がないので酸敗臭は生じない。︵3︶ケトン型酸敗 不飽和結合が微生物によって酸化分解され,アルデヒド,ケトンなどを生ずる。オリーブ油などのオレイン酸の多い油脂で起こりやすく,生成したカルボニル化合物が酸敗臭の原因となっている。酸敗の防止には,︵1︶では酸化防止剤の添加,︵2︶︵3︶では冷暗所に保存するとよい。
執筆者‥内田 安三
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酸敗
サンパイ
rancidity
空気・日光・酸素などの作用による油脂の変質現象を酸敗という.食用油脂,含脂肪食品は空気中の酸素による酸化で特有の悪臭と酸味を生じ,風味の低下,栄養価の損失,着色,まれに毒性物質の生成などを起こす.酸化的酸敗と非酸化的酸敗が知られ,酸化的酸敗には,生化学的酸敗(リポキシダーゼによるジエン構造のエポキシ化など)によるものと,非生化学的酸敗(自動酸化)とがある.一方,非酸化的酸敗には,リパーゼの作用による乳製品の加水分解による酸敗や,やし油のケトン生成による酸敗が知られている.自動酸化による酸敗は,不飽和脂肪酸の二重結合に隣り合うC原子を含む遊離基(ラジカル)から開始する連鎖反応で,ヒドロペルオキシドが生成し,カルボニル化合物,有機酸,アルコールへ分解していく.ヒドロペルオキシドの生成を避けるために,遊離基の反応を抑制する物質(抗酸化剤)として,ビタミンE,没食子酸プロピル,2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール,2,6-ジ-t-ブチル-4-メトキシフェノール,ノルジヒドログアイアレチン酸などが食品の酸化防止剤として用いられている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
酸敗【さんぱい】
油脂が貯蔵中に酸化,加水分解などの反応によって変質し,色,味,臭気などの変化をきたす現象。光,熱,水分,バクテリアなどの作用により促進される。
→関連項目硬化油
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普及版 字通
「酸敗」の読み・字形・画数・意味
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
酸敗
油焼けともいう.油脂が酸素や光により劣化すること.酸化,加水分解,重合などが起こり,一般に悪臭が発生する.
出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報
世界大百科事典(旧版)内の酸敗の言及
【脂肪】より
…一般に植物油は酸化されやすく,酸化したものは毒性を示すこともある。これを油脂の酸敗という。酸敗はリポオキシゲナーゼによる酵素的酸化と,空気中の酸素による自動酸化がある。…
※「酸敗」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」