デジタル大辞泉
「食道癌」の意味・読み・例文・類語
しょくどう‐がん〔シヨクダウ‐〕【食道×癌】
食道に発生する癌。気管と接する部分や胃の入り口近くに発生することが多い。
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しょくどう‐がんショクダウ‥【食道癌】
(一)〘 名詞 〙 食道に発生する癌腫(がんしゅ)。嚥下(えんげ)困難が主症状。五〇~七〇歳の男性に多い。
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食道癌(食道疾患)
食道に発生する上皮性の悪性腫瘍である.原発性食道癌と転移性食道癌がある.
分類
1︶占居部位‥
原発巣の占居部位は下記のように定義されている.
a︶頸部食道︵cervical esophagus‥Ce︶‥食道入口部より胸骨上縁まで.
b︶胸部食道︵thoracic esophagus‥Te︶‥
ⅰ︶胸部上部食道︵upper thoracic esophagus‥Ut︶‥胸骨上縁より気管分岐部下縁まで.
ⅱ︶胸部中部食道︵middle thoracic esophagus‥Mt︶‥気管分岐部下縁より食道胃接合部までを2等分した上半分.
ⅲ︶胸部下部食道︵lower thoracic esophagus‥Lt︶‥気管分岐部下縁より食道胃接合部までを2等分した下半分の中の胸腔内食道.
c︶腹部食道︵abdominal esophagus‥Ae︶‥食道裂孔上縁から食道胃接合部まで.
2︶X線・内視鏡・肉眼型分類‥
食道癌取扱い規約第10版︵2007年4月︶から引用して示す︵表8-3-4︶.表在型は深達度が粘膜下層までと推定されているものである.固有筋層以深に及んでいると推定される病変を進行型とする.
3︶壁深達度分類・リンパ節転移分類・進行度分類‥
食道癌取扱い規約第10版︵2007年4月︶から引用する︵表8-3-5︶.癌腫の原発巣が粘膜内にとどまる食道癌を﹁早期食道癌︵early carcinoma of the esophagus︶﹂,粘膜下層までにとどまるものを﹁表在癌︵superficial carcinoma︶﹂とよぶ.いずれもリンパ節転移の有無を問わない. リンパ節群分類は原発巣の占居部位によって頸部・胸部・腹部のリンパ節の転移範囲で1群から4群に分けられる.進行度︵ステージ︶は壁深達度︵T︶,リンパ節転移の範囲︵N︶および他臓器への転移︵M︶の3つの因子にて分類されている.進行度によって下記に述べる治療方針が決定される.
原因・病因
食道扁平上皮癌では飲酒および喫煙が危険因子として重要である.ニトロ化合物を含む肉や魚のコゲ,山菜︵ワラビ︶,食品添加物︵防腐剤,色素剤︶,食生活︵熱い食物摂取,栄養状態低下,ビタミン欠乏︶,放射線などが危険因子とされる.逆に緑黄色野菜や果物は予防因子とされる.腺癌では胃食道逆流症︵gastroesophageal reflux disease‥GERD︶による下部食道の持続的な炎症に起因するBarrett上皮がその発生母地として知られている.
疫学
食道癌の罹患率︵粗罹患率︶は2007年の推計によると男性が27.3人︵人口10万人対︶,女性が4.6人︵人口10万人対︶であった︵国立がん研究センターがん対策情報センターの集計による︶.年齢調整罹患率は男性は増加傾向にあり,女性は近年は増減の傾向はない.厚生労働省の人口動態調査によると2011年の食道癌死亡者数は11970人であり,全悪性新生物の死亡者数の3.4%に相当する.
病理
食道癌の組織型分類は表8-3-6のとおりである.頻度として扁平上皮癌が90%以上を占める.腺癌は3%程度であり,わが国ではBarrett食道癌は少ない.
病態生理
食道癌は胸部中部食道に好発し,ついで胸部下部食道に多い.特徴として多発することが多く上皮内進展や壁内転移を有することがある.また,頭頸部癌や胃癌などとの重複癌が多い.表在癌の段階で容易にリンパ節転移をきたし粘膜下層癌では40%以上にリンパ節転移をきたす.進行癌では周囲の重要臓器︵気管,大動脈︶に浸潤し,肝・肺・骨に遠隔転移をきたし治療困難となることが少なくない.
臨床症状
1︶自覚症状‥
嚥下困難,胸部痛,嗄声などがある.比較的初期の段階では嚥下時に起こる胸がしみる感じや胸やけ感などの症状を訴えることがあるが,一般的には進行するまでは自覚症状に乏しい.反回神経に浸潤すると嗄声となる.
2︶他覚症状‥
体重減少,水様物を多く摂取し,やわらかい,通りやすい食事を好む.
診断
1︶癌病巣に関する診断‥
a︶スクリーニング‥X線造影,内視鏡,FDG-PET︵18F fluorodeoxyglucose-positron emission tomography︶,腫瘍マーカー︵SCC,CEA,CYFRA︶.
b︶食道局所の診断‥X線造影,内視鏡,生検,超音波内視鏡︵EUS︶,CT,MRI,FDG-PET.
c︶転移病巣の診断‥超音波,EUS,CT,MRI,骨シンチグラフィ,FDG-PET,その他.
2︶全身状態の診断‥
a︶心,肺,肝,腎,中枢神経機能検査
b︶糖尿病などの代謝性疾患,その他
c︶他臓器重複癌の診断‥
ⅰ︶頭頸部癌,胃癌,大腸癌,その他
ⅱ︶耳鼻科的診察,上部・下部内視鏡検査,その他 食道癌の発見は上部消化管内視鏡検査が有用でありその確定診断は生検による病理組織診断でなされる.発見,病変範囲の同定にヨード染色を用いた色素内視鏡や画像強調内視鏡が有用である︵図8-3-16,8-3-17︶.正常食道の重層扁平上皮にはグリコーゲンが含まれていて,ヨードと反応して褐色に染色される.癌細胞はグリコーゲンが乏しいため染色されずに白色を呈する.画像強調内視鏡は画像強調内視鏡にはデジタル法のFICE︵flexible spectral imaging color enhancement︶や光デジタル法のNBI︵narrow band imaging︶などがあり,分光特性を変化させたりコンピューター処理をすることで病変の視認性向上や詳細な表面微細構造,微小血管観察が可能になった.拡大観察と併用することで微細血管︵上皮内乳頭内ループ状血管, intra-epithelial papillary capillary loop‥IPCL︶を観察することができ,内視鏡診断の質的向上が期待されている︵図8-3-17︶.壁深達度診断として表在癌は内視鏡,拡大内視鏡,EUSが有用であり,進行癌はX線造影︵図8-3-18︶,CT,MRIが有用である.リンパ節転移診断・遠隔転移診断としてEUS,CT,FDG-PETが有用である.
鑑別診断
1︶逆流性食道炎‥
食道胃接合部に限局するびらんや潰瘍で鑑別困難な症例があり,組織生検の病理診断でも癌と誤るものがあるため注意が必要である.
2︶良性腫瘍‥
大きな乳頭腫や顆粒細胞腫は,形態的に未分化癌や腺様囊胞癌と類似している.組織生検の病理診断が鑑別に有用である.
3︶食道潰瘍‥
薬剤性潰瘍や熱傷性潰瘍などがある.
4︶食道狭窄‥
逆流性食道炎の狭窄や食道アカラシアとの鑑別は臨床症状から容易なことが多いが,一部に難しいものがある.
合併症
1︶食道気道瘻‥
癌が気管・気管支に浸潤し,瘻孔を形成する.咳や血痰が出現する.気道の狭窄をきたすこともある.
2︶肺炎‥
上記の瘻孔から消化管内容物が気道に流入すると肺炎を生じる.また,食道の狭窄や反回神経麻痺により誤嚥し嚥下性肺炎をきたす.
3︶出血‥
癌の浸潤により気管支動脈,腕頭動脈,食道固有動脈から出血をきたす.大動脈からの出血の場合大量出血により頓死することがある.
4︶縦隔炎・膿瘍‥
食道癌が縦隔に穿通すると縦隔炎を併発し,膿瘍を形成する.
経過・予後
日本食道学会の全国食道がん登録の調査によると2003年の症例を対象として手術切除症例の5年生存率は46.6%,内視鏡治療の5年生存率は80%,根治的化学放射線治療の5年生存率は21.9%であった.これらの成績は各治療の対象となる病期が異なるため直接比較はできない.
治療
食道癌の治療法はその進行度により選択される︵図8-3-19︶.おもに内視鏡治療,外科手術,放射線療法,化学療法,化学放射線療法が行われる.
1︶内視鏡的治療‥
内視鏡的切除術には内視鏡的粘膜切除術︵endoscopic mucosal resection‥EMR︶と内視鏡的粘膜下層剥離術︵endoscopic submucosal dissection‥ESD︶の方法がある.近年,大きな病変の一括切除が可能なESDが急速に広まっている.
2︶外科治療‥
占居部位や転移の有無,患者の全身状態により外科治療の内容も多様である.侵襲が高く合併症発生率が高い.
a︶頸部食道癌に対する手術‥頸部食道癌はその病変範囲によっては咽頭喉頭を合併切除する必要があり,その際には永久気管孔を造設する.リンパ節転移が比較的頸部に限局しており,根治手術の適応になる症例が多い.
b︶胸部食道癌に対する手術‥胸部食道癌は頸部・胸部・腹部の3領域にリンパ節転移を容易にきたすため,右開胸で原発巣の切除と縦隔リンパ節の郭清を行うとともに,頸部と腹部を含めた3領域のリンパ節郭清が必要なこともある.再建臓器は胃が第一選択で用いられ,ついで,結腸,空腸が用いられる.再建経路は胸壁前経路,胸骨後経路,後縦隔経路があるが,最近は後縦隔経路がよく用いられる.
c︶腹部食道癌に対する手術‥腹部食道から噴門に限局する食道癌では,頸部,上縦隔リンパ節の郭清意義が少ないため左開胸・開腹法や左胸腹連続切開法で下部食道噴門側胃切除や下部食道胃全摘術が行われる. d︶その他の外科治療‥ ⅰ︶非開胸食道切除術‥開腹下に食道裂孔を介して開胸せず食道を抜去切除する方法で縦隔のリンパ節郭清が不十分である.
ⅱ︶体腔鏡を用いた食道切除・再建術‥低侵襲性,根治性,遠隔治療成績などに関して現時点では研究段階である.胸腔鏡,腹腔鏡下食道切除再建術や,縦隔鏡,腹腔鏡を用いた内視鏡補助下経食道裂孔的非開胸食道抜去術などが行われている.
3︶放射線療法‥
化学療法を併用することが多い.放射線単独では体外照射法で2 Gy/日,5回/週,合計60 Gy以上を照射する.
4︶化学療法‥
遠隔転移症例に対しては単独で,手術前後に補助療法として化学療法が行われる.多剤併用化学療法が主流でありシスプラチンと5-FUの組み合わせが標準的である.
5︶化学放射線療法‥
非外科的治療を行う場合の標準的な治療として施行される.シスプラチン・5-FUに放射線照射量は50〜60 Gyを併用する方法が一般的である.﹇宮崎達也・桑野博行﹈
■文献
日本食道学会編‥臨床・病理.食道癌取扱い規約第10版,金原出版,東京,2007.日本食道学会編‥食道癌診断・治療ガイドライン2012年4月版,金原出版,東京,2012.田久保海誉‥食道の病理,第2版,総合医学社,東京,1996.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
食道癌
しょくどうがん
esophageal cancer
食道に発生する上皮性の悪性腫瘍(しゅよう)で、原発性と続発性に大別される。日本では食道癌のほとんどが扁平(へんぺい)上皮癌であるが、他に腺(せん)癌、腺扁平上皮癌、類基底細胞癌、粘表皮癌、腺様嚢胞(のうほう)癌、未分化癌、癌肉腫などがある。欧米では腺癌が増加傾向であり、扁平上皮癌をしのぐほどになりつつあるが、日本での腺癌の割合は少ない。
日本における食道癌の1999年︵平成11︶人口10万対年齢調整罹患(りかん)率は、男性15.3、女性2.2で、男性では6番目に多い癌である。全年齢層において男性の罹患患者数は女性を上回っており、その比は約5対1、60歳代から加齢とともに罹患率は上昇し、高齢者に多い疾患である。年齢調整罹患率の年次推移では、男性はわずかに増加傾向、女性は横ばいである。2005年の食道癌による年間総死亡者数は1万1182人であり、これは悪性新生物による死亡者数の3.4%にあたる。
食道癌の発生にはさまざまな危険因子があり、とくに喫煙、飲酒、熱い飲食物の摂取、食道アカラシア、腐食性食道炎、バレットBarrett食道︵食道が胃粘膜から連続した円柱上皮により覆われた状態︶などとの関連が示唆されている。喫煙者の非喫煙者に対する食道癌死亡リスクは約3倍多いとされている。また、飲酒との関係では喫煙との相互作用によるリクスの増大が報告されている。胃食道逆流症により生じるBarrett食道は腺癌発生の危険因子となる。また、胃癌や頭頸部癌の既往例での食道癌の重複にも注意が必要である。
﹇掛川暉夫・北川雄光﹈
食道癌の臨床症状としては、食道のつかえ感︵嚥下(えんげ)障害︶がもっとも多く、しみる感じなどの違和感や食道痛などがみられる。腫瘍の増大により嚥下障害が悪化すると、固形物の摂取ができなくなり、体重減少や誤嚥が起こるようになる。
診断としては、食道X線造影と内視鏡検査がもっとも重要であるが、とくに内視鏡検査は早期の食道癌を発見するうえで不可欠であり、通常観察に加えて食道ヨード染色が有用である。近年では拡大内視鏡観察や狭帯域内視鏡システム︵NBI‥narrow band imaging︶という新しい内視鏡診断法が可能となってきている。その他の検査法として、超音波内視鏡、CT検査、MRI検査、FDG-PET検査などがあり、これらの検査を組み合わせて正確に進行度を診断することが、治療方針の決定に際して重要となる。
﹇掛川暉夫・北川雄光﹈
食道癌に対して現在一般的に施行されている治療には、内視鏡的治療として内視鏡的粘膜切除術︵EMR‥endoscopic mucosal resection︶、内視鏡的粘膜下層剥離術︵ESD‥endoscopic submucosal dissection︶や、内視鏡下アルゴンプラズマ凝固療法︵APC‥algon plasma coagulation︶、光線力学的治療︵PDT‥photodynamic therapy︶などがある。外科治療としては、食道切除・再建・リンパ節郭清(かくせい)術が行われている。その他、化学療法、放射線療法、化学放射線療法、ステント挿入術などが行われている。EMRは、病変が存在する粘膜および粘膜下層を内視鏡を用いて切除する方法である。リンパ節転移がきわめて稀(まれ)な早期の食道癌が適応となる。ESDは、従来のEMRでは分割切除となりうるような広範囲におよぶ病変に対して、これを一括切除すべく開発された新しい治療法である。
手術療法として、リンパ節転移の可能性がある症例を対象に食道切除・再建・リンパ節郭清術が行われている。おもに右開胸開腹アプローチによる食道切除術がなされている。胸腔鏡・腹腔鏡を併用した手法が開発され、傷の小さな手術として注目されている。切除した食道の代わりとなる再建臓器としては、80%の症例で胃が使用されており、その他には結腸、小腸が使われている。
化学療法は、手術の補助療法としてあるいは放射線療法との組み合わせにおいて施行されることが多い。また、遠隔臓器転移を伴う食道癌に対しては化学療法が選択される。手術不能な患者や食道温存を希望される患者に対しては、根治的化学放射線療法が行われている。
﹇掛川暉夫・北川雄光﹈
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しょくどうがん【食道がん Carcinoma of the Esophagus】
[どんな病気か]
食道は、口腔︵こうくう︶・下咽頭︵かいんとう︶と胃との間にある、長さが約25cmの消化管です。頸部︵けいぶ︶に始まって、胸部︵縦隔︵じゅうかく︶内︶、腹部におよび、胸部では大きく胸部上部、胸部中部、胸部下部と三部位に分けて呼んでいます。
食道がんは、食道内腔︵ないくう︶のもっとも表層の粘膜上皮︵ねんまくじょうひ︶から発生するものですが、がん細胞の組織形態によって、扁平上皮︵へんぺいじょうひ︶がん︵がんとはの﹁[悪性腫瘍のいろいろ]﹂の扁平上皮がん︶、腺︵せん︶がん︵がんとはの﹁[悪性腫瘍のいろいろ]﹂の腺がん︶、そのほかに分類されます。日本では扁平上皮がんが大部分を占めていますが、欧米では腺がんも多くみられます。
発がん年齢は30~80歳代と幅広く、もっとも多いのは60歳代です。性別でみた発生率は、男性のほうが女性の4~5倍多く認められます。
発生部位では、胸部中部にもっとも多く︵54%︶、ついで胸部下部︵22%︶、胸部上部︵12%︶、頸部︵けいぶ︶︵12%︶の順になります。
[原因]
発がん要因としては、現在、遺伝的・体質的なものよりは、環境中の刺激因子のかかわりのほうが大きいと考えられています。たばこやアルコールがその代表的なものです。
たばこでみると、発がんした患者さんでは、1日の喫煙本数と喫煙年数をかけたブリンクマン指数が平均650以上を示すことが多くなります。またアルコールでは、1日の飲酒量が日本酒換算で3~5合を20~30年間続けている多飲者が多くみられます。
●経過
食道がんは、時間とともに粘膜上皮から粘膜内、粘膜下層、筋層、外膜︵がいまく︶へと浸潤︵しんじゅん︶︵入り込むこと︶して増殖し、その過程でリンパ節転移︵せつてんい︶、臓器転移をおこすと考えられています。
外膜を越えると、縦隔内臓器である気管や大動脈などへも浸潤します。
治療および予後︵治療後の状態︶の面から考えると、食道がんは粘膜がん、表在︵ひょうざい︶がん︵粘膜下層がん︶、進行がんと分けて考えるのが合理的です。リンパ節転移は、粘膜がんではほとんどありませんが、表在がんでは40%前後のリンパ節転移が認められ、進行がんでは70%を超えます。
[症状]
粘膜がん、表在がんぐらいまでは自覚症状はあまりみられません。進行がんになると、嚥下障害︵えんげしょうがい︶︵飲み込みにくい︶、つかえ感、しみる感じが現われ、胸骨︵きょうこつ︶の後ろ側が痛むなどの症状が出てきます。このような期間が平均2か月ほど続きます。
食道がんのリンパ節転移は胸腔内から頸部、腹部の三領域に広がることが特徴的で、この点が治療と予後に密接にかかわります。
外膜を越えた進行がんになると、発生部位により反回神経︵はんかいしんけい︶︵声帯︵せいたい︶の運動に関与する神経︶まひがおこり、嗄声︵させい︶︵かすれ声︶が生じ、食道気管支瘻︵しょくどうきかんしろう︶、大出血などの重大な合併症が発生することがあります。
[検査と診断]
代表的な検査は、食道バリウム造影と食道内視鏡の2つです。食道の粘膜をヨード︵ルゴール︶染色法によって染めて行なう内視鏡検査によって、表在がんや粘膜がんが発見される例が増えています。
さらに、扁平上皮がんの発がんの背景として、粘膜上皮の変化︵異型上皮︵いけいじょうひ︶︶が注目されています。ルゴール染色法を行なうとともに、確かな診断のためには、組織を採取して検査する生検法︵せいけんほう︶が必要となります。
積極的な内視鏡検査を行なわなければならないのは、ヘビースモーカー・ヘビードリンカーで55歳以上の男性、口・頸部がんの人、がん家系︵血縁者にがん患者が何人もいる家系︶の人のほか、腐食性食道炎、食道アカラシア、バレット食道などの病気の人など、食道がんになる危険性が高い人々です。このようなハイリスクな人々に対しては、ルゴール染色法を実施するなど、より注意深い観察が必要となります。
進行がんに対しては、CT検査、超音波検査、MRIなどが行なわれ、周囲臓器への浸潤やリンパ節転移の状況、肝臓や肺への転移の有無が調べられて進行度が確認されます。
最近は、食道がんと他の臓器のがん、とくに口・頸部がん、胃がんとの重複や多発がんが発見されることが増えています。ことに口・頸部がんの患者さんでは、12~16%に食道がんや胃がんが発見されています。したがって、口・頸部がんまたは胃がんを患った人には、自覚症状の有無にかかわらず、内視鏡検査が有用です。
[治療]
がんの原発病巣の進行度、転移の状況によって治療法は異なります。粘膜がんでは、広範囲の病巣を除いて、内視鏡的粘膜切除術︵ないしきょうてきねんまくせつじょじゅつ︶︵EMR︶が行なわれ、成績は良好です。
表在がんや進行がんには手術治療が原則ですが、その進行度に応じて、放射線や抗がん剤による治療を一緒に行なう方法︵集学的治療︵しゅうがくてきちりょう︶という︶も必要となります。
進行がんの手術成績は、5年生存率︵術後5年間生きている割合︶が45%ほどになっています。
高度に進行した他臓器浸潤がんや、肝臓、肺に転移したがんに対しては、放射線治療、抗がん剤治療法が中心となります。
最近では、手術自体も安全なものになり、しかも、できるだけもとの機能や臓器を温存することに意が払われるようになり、患者さんのQOL︵生活・生命の質︶向上のための努力がなされるようになりました。
他臓器切除を余儀なくされた場合でも、たとえば、喉頭︵こうとう︶機能︵咽頭︵いんとう︶の温存と反回神経の温存︶を温存した手術とか、咽頭が切除され音声を失ったときにでも、手術的に音声を再建することが可能となってきました。また、高齢者や心肺機能が低下している人には、少しでも負担が軽くなるように、縦隔鏡︵じゅうかくきょう︶や胸腔鏡︵きょうくうきょう︶による手術が行なわれることもあります。ときには内視鏡的粘膜切除法と放射線照射を組み合わせることもあり、患者さんの状態にきめ細かく対応できるようになっています。
ただし、食道がんの治療は専門性が高いため、手術については、食道外科の専門医がいる施設を選ぶことをお勧めします。
出典 小学館家庭医学館について 情報
食道がん
好発部位は食道の中部・下部で、60歳以上の男性に多い︵男女比は5‥1︶のですが、全般的には増えていません︵とくに女性では近年、死亡率が非常に低下している︶。高濃度のアルコール、喫煙、熱い食事などの習慣が誘因になります。
●おもな症状
無症状の場合もよくあります。おもな症状として、ものをのみ込むときのつかえ感やしみる感じ、のみ込めないなど。その他、胸部痛、胸骨の後方部の痛み、異物感などを訴えることもあります。がんによる食道の狭(きょ)窄(うさく)︵狭くなること︶がかなり進行した場合には、食物の通過障害や嘔(おう)吐(と)がおこります。また、がんが神経︵反回神経︶を障害するとかすれ声︵嗄(させ)声(い)︶になることもあります。
①上部消化管X線造影/腫瘍マーカー
▼
②上部消化管内視鏡/生検︵病理診断︶
スクリーニングはX線造影で
上部消化管X線造影︵→参照︶が、とくにスクリーニング︵ふるい分け︶の検査として重要で、食道の狭窄、陰影の欠損、食道壁の硬化などがわかります。X線写真に写った2㎝以上のがんでは、外膜へ浸(しん)潤(じゅん)している例が多くなります。
腫瘍マーカー︵→参照︶は早期がんでは陽性率が低く、進行がんを含めた全食道がんでもCEAやSCCの陽性率は40%程度です。
内視鏡検査ではルゴール染色法が効果的
上部消化管内視鏡︵→参照︶は、食道がんの診断に欠くことのできない検査です。がんの有無、がんの型の分類、広がり、副病変などがわかり、その部分の組織を採取︵生(せい)検(けん)︶し、病理診断することで確定します。
食道の内視鏡では、食道内にルゴール液を散布したルゴール染色法がよく行われています。ルゴール液を撒くと、食道の正常の細胞︵扁(へん)平(ぺい)上皮︶にあるグリコーゲンがルゴール液に反応して食道内は茶褐色に染まるのですが、がんや異型増殖、びらん、慢性炎症をおこしている部分は染色されないため、内視鏡でその変化を確認することができます。この方法で、ごく早期のがんがみつかるケースも増えています。
その他、がんの転移や進行の状態︵浸潤︶を把握するために、超音波や超音波内視鏡、CT、MRなどの検査も行われることがあります。
出典 法研「四訂版 病院で受ける検査がわかる本」四訂版 病院で受ける検査がわかる本について 情報
食道癌 (しょくどうがん)
esophageal carcinoma
食道に発生する癌腫。日本では年間約5000人が食道癌で死亡し,胃癌死亡数の約1/10である。好発年齢は50歳代から80歳代で,70~74歳が最も多く,胃癌にくらべると10歳ほど高年齢層に多発している。男女比では,約4対1で圧倒的に男性に多い。地域別では,東日本︵岩手県を除く︶と,和歌山県,南九州での食道癌死亡率が高い。喫煙,飲酒,熱い食事,山菜のワラビ,茶粥などが発生原因の一つと考えられており,かんきつ類,牛乳などは予防的食事といわれている。
初発症状は,つかえ感,食事時のしみる感,食物通過感,胸骨後方痛などであり,次いで嚥下障害が現れ,しだいに強くなる。嚥下障害が現れると,体重減少が目だってくる。吐血,嗄声︵させい︶が現れることもある。
診断は,食道X線検査と食道内視鏡検査で行われている。それぞれ長所があるが,食道早期癌の診断には,内視鏡検査のほうが容易である。近年,胃内視鏡検査が直視型で行われるようになったことで,食道内視鏡検査が普及し,食道早期癌の診断数が増加している。
早期癌の増加と治療法の進歩により,食道癌の治療成績は格段とよくなってきている。治療は外科的切除が中心になっている。食道は頸部,胸部,腹部にわたっているので,癌の発生部位により多少異なるが,頸部・胸部・腹部を切開して食道を80%以上切除し,リンパ節を廓清し,残りの食道と胃または腸管を頸部で吻合する方式が,主として行われている。早期癌では,内視鏡下で癌病巣を完全に切除する方法が1990年ころに確立され,普及してきている。放射線治療も行われるが,日本では放射線単独の治療は一般的ではない。むしろ術前・術後の合併治療として用いられている。抗癌剤治療・免疫治療は,現在は補助的治療として行われている。
執筆者‥小野沢 君夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
しょくどうがん【食道がん】
︽どんな病気か?︾
のどと胃のあいだにある約25cmほどの臓器が食道(しょくどう)です。食道がんも男性に発生する確率が高く、女性とくらべると5~6倍。食道がんの発生のおもな原因は喫煙と飲酒です。
進行すると食べものや飲みものがのどを通りにくくなったり、つかえやしみるような感じを覚えますが、初期では、ほとんど自覚症状がありません。
そのため、発見が遅くなることがありますが、食道の位置関係もあり、気管やリンパ節に転移しやすいため、早期発見、早期治療が肝要です。
︽関連する食品︾
︿ビタミンAを中心に食品数を多くとる﹀
○栄養成分としての働きから
食道がんの発生を予防するには、食品数を多くし、栄養のバランスをとることが必要です。そのため、不足しがちなビタミンAや食物繊維などを十分に摂取しなければなりません。
また最近では、ビタミンAやCが食道がんの発生を抑えるという研究報告もあります。ニンジンやホウレンソウ、ブロッコリーなどの緑黄色野菜をたっぷりと摂取するようにしましょう。
○注意すべきこと
アルコールは高濃度のものほど食道を刺激し、がんの発生率を高めてしまいます。ウイスキーなどはストレートをやめ、水割りなどにして飲むように心がけましょう。
また、胃がん同様、食道がんも茶がゆなどの熱いものを食べる地方に多くみられます。
熱い飲食物を日常的にとることもひかえたいものです。
出典 小学館食の医学館について 情報
食道癌【しょくどうがん】
食道粘膜に生ずる癌で,治療上,頸部(けいぶ)食道と胸部食道に発生するものに大別される。高齢の男子に多く,食事の際の異物感,もののつかえる感じ,圧迫感,逆行性の嚥下(えんげ)困難などの症状を呈する。X線検査,食道鏡検査などで診断され,治療には放射線治療,化学療法と食道切除術が行われる。食道切除後の再建手術がむずかしく,胃を胸腔内または胸壁下につり上げて食道断端と吻合(ふんごう)する方法や,小腸や大腸を食道の代用として使う方法,人工代用食道を体外に装着する方法などが工夫されている。
→関連項目中山恒明
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
世界大百科事典(旧版)内の食道癌の言及
【手術】より
…また治療法も長足の進歩をとげ,最近では顕微鏡下の小血管吻合手術やCTの開発,CO2レーザー(ガスレーザー)の開発により,脳外科は完全に変貌し,1970年代とは比較にならぬほどの進歩をとげた。
[消化器外科の進歩]
食道癌に対しては,日本の中山恒明のくふうにより,1940年以降外科医であればだれでも手がけることのできる手術技法が開発された。手術がむずかしいとされていた膵頭部癌に対しても,ホイップルA.O.Whippleが1935年膵頭十二指腸切除術に成功して以来,術式も種々の変遷をへて完全なものとなり,高カロリー輸液療法と相まって一般病院でも行えるようになった。…
※「食道癌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」