コメディアンと医師の二足のわらじで活動中
SNSでのコンテンツ配信は100時間以上にものぼる
司会者‥では、大いなる喜びをもってご紹介しましょう。ドクター・ウィリアム・フラナリーです。 ウィリアム・フラナリー氏︵以下、ウィリアム︶‥ありがとうございます。礼服姿は初めて披露しますが、良いものですね。ワインスタイン学長、教授各位、ご学友、ご家族やご友人のみなさん、まことにありがとうございます。自己紹介は簡潔にしましょう。私はTikTokのコメディアンです。 ︵会場笑︶ 大丈夫、ちゃんと正規の招待を受けてここにいます。私の知る限り、間違って招かれたわけではありません。ご家族やご友人のみなさん、私もみなさんと同じくらい驚いています。私はアカデミックな医師でも、いわゆる学者でもありません。信じてもらえないかもしれませんが、実はノーベル賞すら取っていないのです。 ︵会場笑︶ でも、ソーシャルメディアのコンテンツ配信は100時間以上あり、どれもが抱腹絶倒ものです。まずは卒業生のみなさんに、このたびのご招待と、このよき日を共有できる栄誉に感謝します。また、登壇をご快諾いただいた学長にも感謝します。![](https://img.logmi.jp/article_images/CXrJ8H7CosV7UyhZx3mBGh.png)
“当時の卒業式スピーチ”はまったく覚えていない
ウィリアム‥卒業生のみなさん。11年前、私もみなさんと同じ立場にいました。わくわくしつつも、新しくはじまる医師としてのキャリアに少し不安を感じていました。あの日のことはよく覚えています。うららかな春の日に、クラスメートや友人たち、家族とお祝いしました。一方でまったく覚えていないのが、卒業式のスピーチです。ただ、だらだらと長かったように思います。 ︵会場笑︶ 今日、私がみなさんにお話しする内容が、長期記憶として残るかどうかはわかりません。﹁クレブス回路︵注‥酸素を用いるエネルギー代謝、解糖系の1つ。身体で最も効率的にエネルギーを産生する回路︶﹂や﹁凝固カスケード︵注‥凝固因子が協力して凝血塊を形成するのに必要なフィブリンを産生するまでの一連の流れ︶﹂のように覚えていられるかどうか。 もしくは、眼科医療に就くみなさんの言うところの、いわゆる﹁鼻梁下部﹂にちゃんと記憶されるかはわかりません。時の経過と共に薄れていくことでしょう。 数十年後、孫に﹁医学部の卒業式で、誰がスピーチをしたの?﹂と聞かれても、黙り込んでしまうかもしれません。しばらく考えてからこう言うでしょう。﹁たしかTikTokで有名な人だった気がするな﹂。すると孫はこう聞くでしょう。﹁TikTokって何?﹂ ︵会場笑︶ 卒業式のあの日のスピーチで、どんな言葉が私たち卒業生に伝えられたかは記憶してないかもしれませんが、どんな気持ちになったかははっきりと覚えています。高揚し、希望にあふれ、誇らしく思っていました。 インポスターシンドローム︵注‥客観的に高い評価を得ても自分の実力を内面的に肯定できないため、素直にそうした称賛を受け入れることができず、むしろ詐欺師のように周囲を騙している感覚に陥ってしまう心理状態︶も、健全な程度にはありました。 つまり、自分がたいしたことがないとそのうち他人に見抜かれてしまうかもしれないという恐怖心ですね。先達はみな、この恐怖心を感じたものです。学長だって例外ではありません。いや、学長は特に感じていたかもしれませんよ。 ︵会場笑︶研修期間をうまく乗り越えるコツ
ウィリアム‥さて、卒業式のスピーチの何が問題かをお話ししましょう。私みたいな人が出てきて、みなさんに医師としての重責や、公正で患者の立場に寄り添った人間性の高い医療システムを構築し、医療の未来を築くべきだと説きますよね。もちろん、私も同じことを言うことはできます。それが事実だからです。 でもたった今、みなさんが頭の中で考えていることもわかっています。﹁ドクター・G、ご高説はよくわかった。もちろん医療の未来を救うのは嫌ではないよ。でも、それ以前に、そもそも研修医期間を乗り越えられるのだろうか?﹂。答えは当然、イエスです。 研修期間は、アメリカ医療システムを救う前段階だと考えればよいのです。そこで、みなさんが後日医療システムの救済に首尾よく着手できるよう、研修期間をうまく乗り越えるコツをお伝えします。 これから数年がどうなるかお伝えしましょう。いいですか? 当然のことですが、今日みなさんは卒業します。明日はひたすら眠るでしょう。医学部の4年間は本当に大変だったでしょうからね。休憩は必要です。数週間後、ミシガン大学から最初の郵便物﹁ドナーになるお願い﹂が届くでしょうが、無視しましょう。ただでさえみなさんは、もうぼろぼろなのですから。 ︵会場笑︶ これから先、ドナーになる機会は山ほどあります。全国どこへ行こうと、キャリアの間じゅうミシガン大学はずっと追っかけてきます。みなさんの居場所を特定する部署がちゃんとあるのです。“ミスは他人に話すこと”が大事なわけ
ウィリアム‥7月、インターン期間が始まります。まずみなさんが最初にやることは﹁ミスを犯すこと﹂です。どんなにがんばったとしても、ミシガン大学で世界レベルでの教育を受けたとしても、ミスは起きます。小さなものであれば、ラボ・テストの発注を間違えるとか、眠くて1ページを読み飛ばすとか、診察の前に患者の視力検査を忘れるとかですね。 ︵会場笑︶ ウィリアム‥大きなミスも犯すでしょう。自信を根底から揺るがし、果たして自分はこの仕事に就くに値するのか、自問自答するような大失敗です。 そういったミスは他人に話してください。どんどん外に出して、同僚のインターンや先輩研修医に伝えてください。そうやって他者に自分のミスを話すと、とても大事なことがわかってきます。﹁ミスを犯すのは自分だけではない﹂ということです。 私がインターンの頃は、ミスを犯すたびにこんなことを言っていました。﹁アトゥール・ガワンデ︵注‥アトゥール・アトマラム・ガワンデ 。アメリカの外科医、作家、公衆衛生学者︶だって、まちがって座薬を発注するくらいしただろうさ﹂。気が楽になりますよ。 ︵会場笑︶ もちろんミスは避けるべきですが、犯してしまった時にはそこから学べます。それでもなお、自分はよい医師だと思うことができます。自分だってただの人間だと思えるのです。 10月になると、だんだん天候が悪くなりますね。そうでしょう? 何日も、何週間もお日さまを見ない日が続くかもしれません。放射線医師になる人だって、自分の将来が曇りがちに思えてきます。そんな時には、﹁光療法ライト﹂をネットで買って車につけてください。あれはすごく役に立ちます。 ︵会場笑︶﹁クリエイティビティを決して失わないで﹂
ウィリアム‥それでもどんよりとつらい日々が続く研修期間には、自分の中のクリエイティブな面を常に出してください。みなさんは誰でも、クリエイティブですばらしい力を持っています。みなさん全員が、医学以外の世界で喜びを感じることができて、脳の異なる分野を刺激する何かを持っているはずです。 2024年現在、医療ではクリエイティビティが重んじられてはいません。重んじられるのは能率や画一性、治療実施要項、テンプレート、専門用語などです。より多くの患者を診て、たくさんの記録を書き、それらをすべて能率よくこなすことです。 結果、クリエイティブな内面から意識がどんどん離れ、ここぞという時に呼び覚ますことができなくなります。医師の燃え尽き症候群、精神的損傷、うつ病は、昨今大変増えています。ご自身のクリエイティビティを決して失わないでください。大切に育み、数分でも数時間でもよいので、歌ったり、踊ったり、執筆したりする時間をスケジュール上に捻出してください。![](https://img.logmi.jp/article_images/CXrJ8H7CosV7UyhZx3mBGh.png)